○○547『自然と人間の歴史・日本篇』対消費税引上げ論議に寄せて

2017-10-28 21:37:58 | Weblog

○547『自然と人間の歴史・日本篇』対消費税引上げ論議に寄せて

 いま2019年4月からの、消費税の8%から10%への引き上げ論議が盛んである。一見革新系とみられる学者にも、「消費税引上げやむなし」もしくは「積極引上げ」の声が少なからずみられるのは、驚きだ。
 ここでは、政府が均衡予算を組む場合、政府支出が民間所得を削って行われるときは、政府支出を増やすことで民間支出に負の影響を及ぼし、社会の有効需要は増えないのではないか、との意見を取り上げたい。
 1960年代、財政学者の林栄夫(はやしよしお)は、こう述べている。
 「伝統的理論は、均衡予算を所得水準や物価水準に対して中立的であると考えてきたが、こり考え方の背後には、課税は同額の有効需要を削減し、この税収入と同額が政府支出して有効需要化される、という観念がひそめられている。ところがケインズ財政論によれば、このような伝統的見解は明らかに利子率の変動を媒介として貯蓄と投資の均等を説く完全雇用前提の理論の上に立つものである。しかし有効需要の原理からすれば、租税はその一部を有効需要化されない貯蓄部分から賄われ、政府支出として有効需要化されると考えられる。あるいは、財貨サービスにたいする政府支出はそれ自身有効需要したがって国民所得の一部となるが、租税はそうではない、と説かれる。したがって租税でまかなわれる政府支出の場合でも、有効需要の純増加が生じ、その結果として乗数的所得創出効果を生じると言える。
 それは例えば、つぎのように証明される。財政がバランシングファクターとして機能する場合、政府支出増加(△G)の乗数的所得創出効果は、    
 【1/(1-a)】×△G:(4) 
によって示される。aは限界消費性向である。
 これにたいし租税収入増加の効果は、次のように考えられる。一般的にいうと、租税収入の増加(△T)はそれと同額の有効需要を削減することはない。第1次的に削減される有効需要は、もしその税の増徴なかりせば消費にあてられるはずの所得部分に相当する。すなわちa・△Tである。したがって租税収入の増加の乗数効果を示す一般の形は、
 ー【a/(1-a)】×△T:(5) 
である。したがって均衡予算は、政府支出の増加が同額の税収増加によってまかなわれる場合の予算としてとらえることができ、均衡予算の乗数効果は、(4)式と(5)式から、
 【1/(1-a)】×△Gー【a/(1-a)】×△T:(6) 
としてとらえられ、仮定により△T=△Gであるから
 【1-a/(1-a)】×△G=△G:(7) 
となる。すなわち均衡予算の場合には、政府支出増加額と同額の乗数効果、還元すれば政府支出1単位当たり1の所得創出効果があるということになるのである。」(林栄夫(はやしよしお)「財政論」筑摩書房、1968)
 まず、ここで(4)式の【1/(1-a)】×△Gはどのようにして導かれるのでしょうか。
 ここでは閉鎖経済(外国との関係を捨象)を想定し、貯蓄が国民所得に平均貯蓄性向(s)を乗じたものだといたしましょう。そうなると、
S=sY=I
Y=(1/s)I
 (参考)Y=【1/(1-a)】×I(一般の教科書では、むしろこちらの表現) 
 つまり新投資が決まると、需給が均衡に向かうように働き、Y=(1/s)Iが先ず決まります。そして、生産技術がいま短期分析で一定の場合でいうと、その生産技術に体化した雇用量が決まると考えるのです。
 ところで、この式のなかのsは、平均消費性向をaとすると(1-a)と置き換えられます。
Y=(1/s)I=(1/1-a)I
 そこでいま新投資需要Iが政府によって投入されると、その需要を満たすためにY=Iだけの産出高が生まれる。そうなると、aIだけの消費需要が派生し、それを満たすように同額の派生所得が生まれます。aIの所得からはaの2乗×Iだけの派生需要、そしてそれを満たすための新たな産出高が見込まれます。結局、Iだけの投資需要の追加は、
I+aI+aの2乗I+・・・・だけの需要と所得を生み出す理屈になります。
一般に、初項がa、公比がr(rの絶対値<1)の無限等比級数の合計Aは
A=a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 +...+ ar^n-1 + ar^n + ..:①
ここで①式の左辺と右辺に r をかけます.
rA=ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 +....+ ar^n + ar^n+1 + ...:②
その上で、①の両辺から②の両辺を差し引きます。②の方が最初の項aが多いだけなので次のように整理できます。
  A - rA = a: ③
 従って、次のとおりになります。
  A =a/1 - r:④
 これから、初項が1、公比がa(aの絶対値<1)の無限等比級数の合計Sは次の通りになります。
 S=1+a+a二乗+・・・・・+aのn-1乗=(1/1-a):⑤
 投資の持つ乗数効果の数学的説明には、つぎのようなアプローチもあります。
 Y=C+I+G: ⑥
ここでYとはGDP(国内総生産)、Cとは民間消費、Iとは民間投資、Gとは政府投資といたしましょう。
C=α+βY: ⑦
ここでCというのは一国の消費関数、α(アルファ)は基本消費、β(ベータ)は限界消費性向と呼ばれるもので、たとえていうとGDPが1万円増えれば消費支出はβ万円増えることになります。
0<β<1のことを限界消費性向といいます。
この2つの式からCを消去すると
Y=α+βY+I+G
この式を変形すると
Y-βY=α+I+G
(1-β)Y=α+I+G
したがって、Y=α/(1-β)+{【1/(1-β)】(I+G)}:⑧
この式で第2項に目を向けましょう。そこで1/(1-β)のことを乗数(m)といいます。この式で投資Iが10兆円増えるとGDPは10兆円×m万円だけ増えることになるでしょう。
 そこでいま、民間可処分所得が税金によって10兆円減ったといたしましょう。そのとき国民の貯蓄率(国民所得のうち貯蓄にまわす割合)が20%とすると、人々の消費需要は10兆円まるごとは減らず、10兆円×0.8=8兆円だけが減ることになるでしょう。
 したがって、その国の限界消費性向が0.8(80%)であるなら、政府が増税による収入増10兆円を財政支出に投じれば、それと同額である10兆円分の総需要の増加が見込まれることになり(上記の(7)式)、その場合には10兆円から8兆円を差し引いた2兆円分の総需要の増加が見込まれることになるでしょう。
 以上のことは、ケインスが(一般人の消費ではなく)投資こそが社会全体の所得向上の主要な手段であると考えていたことと一致しています。

(続く)

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