東日本大震災でなかなか物資が避難所や被災地の住民へ届いていないという。しかしそれは「救援物資」そのものが不足しているためではない。水や食料、薬などが全国各地から次々と集まっている。しかしそれが行き渡らない。それは何故なのか――。
東日本大震災:停滞続く物資輸送 人手、燃料が不足 インフラは復旧進む - 毎日jp(毎日新聞)
このニュースを聞いたときに思い出した本がある。ビジネスマンであれば誰もが聞いたことあるだろうエリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」だ。
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か / エリヤフ・ゴールドラット
この本自体は、成績不振から閉鎖寸前の工場の工場長であるアレックスが、学生時代の恩師である物理学者からヒントをもらいながら、工場の業務プロセスを改善していく様子を小説にしたもの。かなり実利的・実践的な内容だ。
ここでは業務プロセスを改善するために「TOC理論(制約条件の理論)」が採用されている。これは、企業活動や工場の生産管理(あるいは僕ら自身の活動そのもの)を考えたとき、あるGOAL(目的)を達成するためには全体のプロセスを最適化させる必要があると考える。
つまり、例えば工場で1つの製品を生産するにあたって、A~Fというプロセスが必要だとしよう。
INPUT1→A→B→E→F→OUTPUT
INPUT2→C→D→E
Aというプロセスの後にBというプロセスがあり、同時にCというプロセスの後にDというプロセスがあるとする。その両方の工程で出来上がったものEというプロセスで1つにし、Fという最終プロセスを経て、製品が出来上がるとする。
生産量(OUTPUT)を上げるために、INPUTを高めればそれでいいかというとそうではない。プロセスの途中がボトルネックになる可能性がある。生産量を高めるために、Fの処理能力を高めたとしても、その前工程のEの処理能力が低ければ生産量は上がらない。Eの処理能力を高めたとしても、Bからの供給量が少なければやはり生産量はあがらない。仮にA、B、E、Fの能力が十分だったとしても、Dからの供給が足りなければ、やはり生産量はあがらない。
つまり生産量というのは、全てのプロセスの「ボトルネック」の部分によって制約されることになる。逆に言えば、ボトルネックとなるプロセスのスループットによって全体のスループットは規定されるのだ。
今回の救援物資輸送では、何がボトルネックになっているのだろう。
物資は足りているという。
道路などのインフラ自体は復旧が進んでいる
全日本トラック協会を通じて、トラック2000台超が物資の搬送を始めている。
その一方で、「避難所につながる市町村道までは手が回らず、寸断されている地点も多」く、「津波被害が大きい自治体を中心に、人手や燃料が足りず、避難所に思うように配送できていない」という現状がある。
そのために「道路事情が劣悪な被災地でも」迅速に大量の輸送が可能な自衛隊が輸送を担当することになった。しかしその自衛隊には福島原発事故への対応はもちんだが、人命救助など他にもやらないといけないことがある。
またそのような状況のままでは、民間やボランティアなどに任せられる部分も「危険」だからと任せられない状況が続きかねない。自衛隊のリソースは無限ではない。
「ボトルネック」が何かを把握し、それに対して適切な対処を行うこと。今回のような緊急性の高い事案であれば、即時に必要な対応というものはもちろんある。と、同時に、全体最適を実現するための取り組みも必要になるだろう。このままでは自衛隊のリソースがボトルネックになりかねない。
またそれぞれのプロセスが改善されれば、それまでボトルネックでなかった箇所がボトルネックになってくる。進行状況によってボトルネックは変化していくのだ。
早期の復興のためにはこうしたプロセスの継続的な改善が必要なのだろう。
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か / エリヤフ・ゴールドラット
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