ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

JASRACと公正取引委員会のすれ違い

2009年07月30日 | コンテンツビジネス
JASRACが公正取引委員会からの排除措置命令に対して、「公取委の判断には重大な誤りがある」として全面反論した。

「公取委の判断には重大な誤りがある」,審判の第1回目でJASRACが主張 - ニュース:ITpro
「公取委の行為は違法な介入」--JASRAC、第1回審判で契約の正当性を主張:ニュース - CNET Japan


この問題は、JASRACが放送事業者と結ぶ「包括的利用許諾契約」が、新規参入事業者が参入した後も使用料率が下がっていないことから、この包括契約が新規事業者の参入を阻害している、包括契約の内容が「ほかの管理事業者の事業継続を困難にしかねない」として、公取がJASRACに対して排除措置命令を下したというもの。

この問題、ネット上のJASRAC批判論者は喜ぶかもしれないが、ぱっと読んだだけでは何が問題なのかわかりにくい。公取の指摘の仕方とそれに対するJASRACの反論が、方法論として仕方ない部分があるとしても、この問題の核心をわかりにくくしているのだ。

この問題の本質は、公取の指摘の内容そのままではない。通信放送融合という時代の流れの中にあって、コンテンツ流通のため制度設計をどのように行うかであって、JASRACが市場を独占しているのが悪いだとか、他の著作権管理団体にも開放されているかどうかといった話だけではない。JASRACの果たす役割や範囲を再設計すべきであり、著作権者、著作隣接権者などの再許諾のあり方をどのように設計するかということの流れの中で理解されるべきなのだ。

今、問題になっているかということを整理してみよう。

JASRACと放送局が結んでいる契約というのは、大まかに言うと、JASRACに登録(委託)されている楽曲を放送局が使用する場合、何曲を放送で流してもいいかわりに放送で得た収入の1.5%をJASRACに支払い、それをJASRACが著作権者に再分配するというもの。

ここでのポイントとしては、

1)何曲利用されようと、放送収入の1.5%がJASRACに支払われる
2)JASRAC登録楽曲については、事後的に利用した楽曲を報告すればいい
3)この契約の対象はJASRAC管理楽曲のみである

通常のネット配信の場合、楽曲の使用料については、配信された楽曲や商品ごとに「配信数×著作権使用料(単価)」もしくは「配信数×販売単価×著作権使用料率」という形で規定されることが多い。これは放送と違って、ネットではどの楽曲がどれだけ利用されたかが把握できるためであり、著作権者に対する適正な分配という点ではこちらの方が望ましい。(この仕組みが徹底されていれば、JASRACが演歌など一部の権利者に過多に再配分しているといった疑惑は防げるだろう)

ただし、楽曲配信のように1曲毎の商品として配信しているものであればともかく、ドラマやラジオのように1つの番組(コンテンツ)で複数の楽曲が使われている場合など、コンテンツ制作者からすると、どの楽曲がどれだけ利用(視聴)されたかを把握することは、管理コストが増えることを意味する。また製作段階で事前に番組で利用する楽曲の許諾をとる必要があるとなると、番組制作そのものに支障をきたすこともある。(生放送やスポーツ中継中に予期せぬ楽曲が流れる場合など事前確認のしようがない)

 また(これはJASRACの問題ではないが)ネットではそれ以上に権利処理に関わるコストが多い。そもそも過去に製作されたコンテンツをネット配信するための許諾が取れていないものがほとんどだし、また新たにネット向けに配信しようとすると、楽曲の配信権を持つレコード会社と事前に個別交渉・過度な要求を飲まざろうえなくなるといった具合だ。

その結果、収入に対する一定部分を権利者に対する再分配の原資とした上で、まずはコンテンツを製作し、利用した楽曲について事後報告するという方が、コンテンツを製作する側や放送する側の負担を減らし、結果、コンテンツ全体の流通を増加させ、権利者に還元される原資も増える

JASRACと放送局の締結している包括契約というのは、視聴数が把握できない「放送」とい特性と、そうしたビジネスの発展性を考慮したうえで成立しているのだ。

さて、JASRACの独占事業であったうちはこの仕組みでもよかったが、他の著作権管理団体が登場するとこの仕組みは矛盾をもち始める。これまでは(使用したい)全ての楽曲がJASRACであったために、単純に売上の1.5%を支払えばよかった。しかしavex所属の売れ筋のアーティストがJASRAC以外の著作権管理団体に登録していた場合、放送局側がその楽曲を放送しようとした場合、JASRACに対しての対価として売上の1.5%を払った上で、他の著作権管理団体に対してもそのアーティストの楽曲使用料を支払わねばならないという事態になるのだ。

JASRACへの報告だけでなく他の著作権管理団体への報告のための事務作業が発生する上に、JASRACへの支払いに追加でコストが発生する――わざわざそんなコストを増やすくらいならJASRAC登録楽曲だけを利用しよう、そう考えるのが普通だろう。そのことを今回、公取は問題視したのだ。

これに対しJASRACの反論は、単純に言うと「それは他の著作権管理団体と放送局との契約の問題であって、私的団体同士の契約内容に文句を言われる筋合いはない」というもの。だったら具体的にどうしたらいいかを述べよ、と。

このすれ違いに問題の本質は現われている。

例えば公正な第三者機関が、放送局から売上の1.5%を徴収した上で、その利用された登録楽曲の割合に応じて、著作権管理団体に配分する仕組み(PF)が存在しているとすれば、JASRACやイーライセンス、JRCといった著作権管理団体はその徴収された原資をめぐるシェア争いを行えばよい。それは登録された「楽曲」をめぐる競争であり、利用されやすくするための放送局に対する「サービス」の競争かもしれない。しかし現状、この徴収機関の役割もJASRACが行っている以上、自分たちに不利な仕組みを導入することは考えにくい。

本来、整理しなければならないのは、圧倒的優位にある(つまり既得権益者である)JASRACと他の著作権管理団体とをどの範囲で競争させ、そのためにどのように競争ラインを揃えるかということなのだ。

またその際もただ競争条件を揃えればいいというのではなく、コンテンツ流通量を増やすためにはどのように揃えればいいか、もっといえば、全体を包括契約とした上で、かつ放送局(コンテンツ制作サイド)の負担を減らした上で、どのように著作権管理団体の競争を加速させるかを検討しなければならないのだ。

また今回の公取の指摘はJASRACだけであったが、ネットでのコンテンツ流通を促進させるという観点からは、コンテンツ制作の素材としての要素も強い楽曲の原版権を握るレコード会社や、過去に製作された作品の出演者などに対しても、どのような条件であれば利用できるのかを整備する必要があるだろう。実際、過去にはレコード会社がグループ会社の着うた配信事業者だけに着うた配信を許可する一方、他の新規着うた事業者には許諾を与えず、参入を妨害したとして、公取から指摘を受けている。

1企業体(あるいは団体)としての利益追求はもちろんだけれど、今、社会が求めているのは、よりコンテンツ流通を促進するための仕組みであり、そうした前提での規制なのだろう。

公取委,独禁法違反の疑いでJASRACを立ち入り検査 - ニュース:ITpro
公取委、着うた参入妨害でレコード会社に審決

3 コメント

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Unknown (comap)
2009-07-31 15:42:26
>本来、整理しなければならないのは、圧倒的優位にある(つまり既得権益者である)JASRACと他の著作権管理団体とをどの範囲で競争させ、そのためにどのように競争ラインを揃えるかということなのだ。

この事業枠で国の通常基準の認可規制が適切であれば、こんなお粗末な事柄で公取委が動くことは無いところですよ。公取委のポジションで現事態に対応するとこうなるしかない。まことに合理的な展開だと見ていますが?

JASRACは自分たちは一切間違ってないと突っぱねてるのだから、独禁法上の違法を確定させてから、政府主導で適正な競争システムを再構築し、強制的に従わせるしか改善の方法はないわけです。この過程をはずして新秩序だけ議論しても意味が無い。

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Unknown (beer)
2009-08-01 01:12:03
その通りだと思います。「方法論として仕方ない部分があるとしても」と書いたのは、まさに公取委のやり方としては今回のようにならざろう得ないと感じているからです。

ただ今回の指摘で終わりということのないように、俯瞰的な観点で整理しなおしてみたというところです。
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Unknown (あうい)
2012-07-25 16:58:35
あんたら、おばかだね~(*^。^*)
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