ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

40歳定年制をめぐる「理念」と「思惑」

2012年09月09日 | ビジネス
突如として浮上した「40歳定年制」。あまりにも唐突ではあるのだけれど、考え方の背景などを聞けばそれはそれで納得する部分も多い。

社会保障を根底から変える「40歳定年制」:日経ビジネスオンライン

そもそも「60歳定年制」が確立した時代とは状況があまりにも違う。時代の変化は高度成長期と比べても桁違いに早くなっているし、競争環境もあらゆる分野でグローバルでの競争が必要となる。そして何よりも先進国の中でも初めて経験する「人口減少社会」に突入したのだから。支える側が少なくなり、国内市場そのものも縮小化していく。

40歳定年制の考え方の狙いとしては2点が挙げられている。

1)社会の変化が激しい以上、「20年」を一区切りに「学び直し」ができるようにする

2)「40歳」で定年/契約延長を選択するような社会にすることで、「正規雇用」=終身雇用/「非正規雇用」=短期雇用の極端な二元論を超えた多様な労働環境を作る

確かに今の40代より上の世代が入社した当時はPCなんて部署に数台、ワープロを使うのが当たり前といった時代。Eメールも持たず、携帯電話の代わりにポケベルを持っていたという人が殆どだろう。しかし今の時代、社内外のコミュニケーションでメールは当たり前、WordやExcelは「どれだけ」使いこなせているかが大事なのであり、更にはスマホやタブレットを使ってインターネット上の各種サービスとどれだけ連携させられるかが問われている。

それは単純に年齢で分けられるものではないとしても、IT技術の進展によって、業務のスピードは桁違いに速くなり、使いこなせている人と使いこなせない人のITリテラシーの差は尋常ではない。昔の「経験」「技術」「知識」だけで40年間も仕事ができることはかなり稀な例だ。

自らのスキルアップのために、あるいは社内で自らのポジション・立ち位置を築いていく上でも、何らかの「学び直し」は今でも必要だ。ただ現行の「60歳定年制」では、どこかで今の環境に甘えて、自らを向上させていかない人が多いことも確かだ。過去の経験則だけで立ち回ろうとする人も多い。

ただ「資格」をとったからといって必ずしも「スキル」がついていないのと同様、「使える」「役に立ち」学び直しの機会はそう簡単には手に入れられない。結局は「知識」だけでなく「経験」や「実践」が伴わなくてはならない。40歳で定年だから次にやりたい仕事を「学び直し」しようというのは、60歳定年制にしがみついて学ぼうとしない人と同様、甘い考えだ。

2)の多様な労働環境を用意するというのもそうだろう。

多様な労働環境を作り出すためには、北欧の社会民主主義モデルのように、就労インセンティブを維持しつつかつ手厚い失業保険制度や再雇用に向けた職業訓練/生涯学習制度を用意したりと制度的文化的にそれらの理念を支えるための仕組みが必要だ。更には「年功序列」的な賃金体系ではなく、契約期間内の能力や実績に応じた形での賃金体系への切替も必要だ。

そうした諸々の「変化」があってこそ成り立つモデルなのだろう。

結局のところ、その理念は理解しつつも、現実にそれを推進しようとする/したがる経済界の人々の思いというのは、どれだけ安価に効率的で質の高い「労働力」を手に入れるかということだ。55歳定年制を提唱するローソンの新浪剛史社長は定年を65歳に延ばすことで若い世代の雇用機会が減るというが、そのローソンもアルバイトで成り立っているのが現状だ。「非正規社員」を望んでいるのも雇用調整がしやすく、人件費を削減することが主眼だろう。

理念の適切さは理解しつつも、現実の導入となるとハードルは高い。それ以上に、その理念の裏側の「思惑」こそが目に付いてしまう。

と、もう1つ。こうした問題を考えたとき、どうしてもその成長モデルと人生のあり方とのギャップを感じてしまう。もちろん経済成長は大事だし、個人が学び続けていくこと、やりたい仕事に就く、自己実現を目指すことの大切さはよくわかる。その一方でこうした議論の前提に、こうした「経済」的な成功モデルや「仕事」での自己実現ばかりが語られるが、果たしてそうなのだろうか。

正直、3.11の「不条理」を経験した後、こうした議論が結局は本当の幸せと結びつくのかに疑問を感じざろうえないし、あるいは一方でひろがる「SHARE」的な価値観を考えるなら経済成長や企業を中心とした成長モデルに違和感を感じてしまうのだ。

果たしてもう10年経ったとき、僕らは何を目指してどのように働いているのだろう。


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