ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【映画】レ・ミゼラブル:ミュージカルの名作が引き出した演劇との違い

2013年01月14日 | 映画♪
これまでミュージカル映画というと「世界中がアイ・ラヴ・ユー」とかくらいしか見たことがなく、まぁ、そもそも日本人の感覚からいって、セリフを唄にのせて言うということの違和感があって、食わず嫌いも含めてあまり好きではなかったのだけど、話題の「レ・ミゼラブル」を鑑賞。確かにこれは多くの人を感動させるだろう。


【あらすじ】

19年の服役後、仮釈放となったジャン・バルジャン。彼は宿を借りた司教の家の銀器を盗むが、司教はバルジャンを許し、バルジャンは実も心も生まれ変わることを決意する。8年後、彼は市長にまでなっていた。バルジャンはファンテーヌという娼婦と知りあい、彼女の娘・コゼットを里親から取り戻すと約束をする。しかしある刑事の出現をきっかけに、彼の過去が暴かれることとなり、彼は自分の正体を告白し、コゼットを連れて逃亡する…。
(「goo映画」より)

【予告編】

画『レ・ミゼラブル』日本版予告編


【レビュー】

どちらかというと映画評というよりは、ミュージカルと演劇の違いについて。

この作品はヴィクトル・ユーゴーの原作をミュージカルにし、それを映画化したもの。僕らの頃なら抜粋版が教科書に載っていたこともあって、子供の頃に原作を読んだ人も多いだろうし、ミュージカルで見た人も多いだろう。それだけに中途半端な出来だと酷評されるのは間違いない。完全にミュージカル仕立てにしたのは、その意味でも成功だったのだろう。

この作品では役者陣は必ずしもミュージカル俳優というわけではないのに、これだけ言葉を唄にのせて感情を伝えられるというのは凄い。特にファンテーヌ役のアン・ハサウェイの鬼気迫る歌声、エポニーヌ役のサマンサ・バークスは圧巻だ。

そして次から次へとやってくる見せ場。鳴り渡る音楽。いたるところで聞こえるすすり泣き…

同時にこうした要素がミュージカルと芝居の違いを明らかにしているのだと思う。

1つは、日本語の特性上、感情移入した言葉をメロディにのせることが難しく、ミュージカルを通常の演劇とは異なる存在に仕立てている。

例えば美輪明宏の「ヨイトマケの唄」。この唄にはリアリティのある言葉とそれに対する力強さ、情念がある。あるいは演歌の世界。JPOPのアーティストがメロディにあわせて歌い上げることが中心になるのに対し、演歌では歌詞の中の言葉とその感情で歌い上げることになる。そのためどうしてもメロディが日本語の抑揚と近くなり、軽やかにはならない。逆に言えば、それだけ泥臭く美しくないメロディでなければ、日本語は乗らなくなる。

レ・ミゼラブルの唄はまさに美しいメロディだ。もちろんそこで歌われているセリフや言葉にどれだけ感情をこられるかというのは別問題だけれど、感情のこめられた言葉が違和感なくメロディとシンクロする。

ヨイトマケの唄_美輪明宏


中村美律子 - 「ヨイトマケの唄」



またミュージカルの場合、人と人との「関係性」をシーンの中のやり取りでさりげなく指し示すということはしない。極端に言えば、感情の吐露や内面の告白を唄で歌い上げることで、物語を進行させているのであり、関係性は「セリフ」の中に直接的に描き出されることになる。

もちろんそれぞれの役者がしっかりと演じなければいけないということは間違いないのだけれど、観客の側からすれば、芝居で作られるような舞台上の「空気感」、言葉では表現しきれない「複雑な感情」、愛憎入り組んだ「関係性」などを必ずしも読み取る必要がなくなってしまう。つまり役者たちが演じる表層的な世界から物語の深い意味を読み取るという「快楽」が失われ、物語を表層的になぞるだけでもそれなりに楽しめてしまうのだ。

そして上記にも関係することだけれど、(あるいはレ・ミゼラブルだからなのかもしれないが)物語があまりにもテンポよく展開しすぎなのだ。芝居の場合、1、2時間の限られた時間に物語の全てを描くというのは現実的ではない。だからこそ、シーンのいくつかを削った上で、特定のシーンをじっくり描く。芝居が人々の関係性を描き出すメディアである以上、例えセリフがなくても人々がただそこにいるだけのシーンを描かねばならない。何も語らないシーンを描くことで、例えば寂寥感を伝えたり、2人の微妙な空気感を描いたりと、物語に深い意味を与えることができる。

しかしミュージカルではそうはならない。そこでは常に展開するドラマが求められる。表層的なストーリーと直接的な心象表現。そうした表現手段で観客を飽きさせないためには、テンポよく物語を進めるしかない。


そこには芝居とは相容れない世界がある。それはどちらかといえば(ハリウッド)映画に近いのかもしれない。ある種の誰もが楽しめる合理的なシステム。テンポよく物語が進行し、それぞれのシーンに感情の高ぶるような見せ場がある。音楽が先行して観客の感情を引っ張り、役者陣がそれぞれの感情を高らかに歌い上げ、それを後押しする。あるいはその相乗効果によって、一つ一つのシーンが盛り上がり、次々に展開していく…

ミュージカルはミュージカルとして楽しみがあるのだろう。それは少なくとも演劇の楽しみ方とは違うのだ。


レ・ミゼラブル (1) (新潮文庫)



レ・ミゼラブル~サウンドトラック


2 コメント

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Unknown (うーん)
2013-01-14 21:14:16
ミュージカルは演劇と違う、と言われても
古来の演劇には日本の能も含め古今東西、
歌がつきものだったのに、と思いますが
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Unknown (beer)
2013-01-19 12:27:27
説明不足ですね、ここで書いてる演劇は「小劇場」をイメージしています。と、「歌があるから違うというのではなくて、セリフを歌に載せるというところに、根本的な違いを感じるわけです。あぁ、別物なんだなぁと。
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