Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: UN BALLO IN MASCHERA (Wed, Apr 16, 2008)

2008-04-16 | メト on Sirius
今日の私が昨日(4/15)のキーロフ・バレエの公演のレポにてんてこ舞いになっていると思ったあなた!
読みが甘い。
タイピングのための両手と早く思い出さないとすぐに風化していく記憶力を一生懸命呼び起さん!と、
頭は忙しくて働いていても、どっこい両耳は空いているのです。
というわけで、今日も衛星ラジオ放送シリウス鑑賞会、行きます!

昨12月(12/1712/21の生の舞台鑑賞レポはこちら)の第一ランから約四ヶ月ぶりの
『仮面舞踏会』第二ラン。

アメーリア役がクライダーからアンジェラ・ブラウンに代わった以外は主役キャスト、
指揮者共に第一ランと同じ。

特にリチトラのグスタヴォ3世(一般的にはボストン版での役名で、リッカルドと呼ばれることが多いが、
メトの現プロダクションではスウェーデンを舞台にした版を採用しているのでグスタフ三世)については、
かなり第一ランでの出来がひどかったのですが、一応、”風邪”という説明で済まされてしまったので、
今日はそこのあたりもしっかり確認したいと思います。
4ヶ月も風邪ひきが続くわけはないですから。

まず、今日の演奏でとにかくびっくり仰天させられたのはノセダ氏の指揮。
シーズン・プレミアにあたる12/17の公演では、オケがそれこそ歌手を無視した大爆音ながら、
これはこれで、なかなか面白い演奏で、私はおおいに楽しませてもらったのですが、
その初日が批評家連からオケの音がでかすぎる!と叩かれ、迷いが生じたか、
日に日にアプローチを変え、第一ランはとにかく大迷走状態のまま終わって行った経緯があります。
4ヶ月も間があったので、少し気分も落ち着いたかしら?と思いきや、今日のこの演奏は!!??
、、愕然。

遅い!!!もんのすっごく遅~~い!!
っていうか、これ、歌手の方たち、辛いだろうなあ、、。

特にホロストフスキーが歌うレナートのアリアは、なんでそこまで、、とあきれる位、
まるでゴムをべろんべろんになるまで引き延ばしたくらいにスロー・テンポ。
この演奏にちゃんとついて歌っただけでも、ホロストフスキーは表彰ものだというのに、
(実際、曲の頭の方では少しオケと音のタイミングがはまっていない個所が二、三。
しかし、ホロストフスキーのせいでないことはいうまでもない。
こんな遅いテンポで歌えるか!ですよ。)
その上に観客から大歓声を浴びていましたので、さすがです。
ただ、私個人的には、彼の歌はそんな小ざかしい作為的なことをしなくても、
いえ、むしろしない方が、この役では本当に素晴らしいものを聴かせてくれるので複雑な気分。
正直に言えば、その”伸びきったゴム”系の演奏に合わせて歌わなければいけなかった分、
そちらに神経が向かってしまったように思え、彼のレナートはこんなもんじゃありませんぜ!
と言いたくなりました。

今週末の土曜の夜の公演で、この第二ランの『仮面舞踏会』を観にいく予定にしておりますので、
その時にこんな”伸びゴム”系の演奏が聴こえてきたらば、私は平土間まで降りて行って、
ノセダ氏を後ろから羽交い絞めにしてしまうことでしょう。
お願いですから、初日を思い出し、きびきびと行っていただきたい。代わりに爆音にしてもいいから。

アメーリア役のアンジェラ・ブラウンは、11月の『アイーダ』で怖いくらいの
大根役者ぶりを発揮していたソプラノですが、今日は衛星ラジオということで音声のみ。
音だけではさすがに、演技の大根っぷりが観察できないのが残念。
あの演技力で、本当にアメーリアの不倫の恋に悩むせつない女心が演じきれるのか、
私は今から非常に不安ではありますが、これは土曜の楽しみにとっておくことといたしましょう。
声はさすがに、第一ランのクライダーに比べると、年齢が若いせいもあってか、
みずみずしいし、高音も全く危なげがなく、安心して聞ける。
ただ、その安心できすぎてしまうところが彼女の歌唱の難点にもなっているかも。
もう一歩、歌唱にスリリングさが加わればなおいいのですが、、。

Salaのオスカルに関しては、若干第一ランよりも聞けるようになっているように思いますが、
それでも、ぜひ他の歌手に配役を変えてほしい、と思う気持ちはほとんど変わりません。
このオスカル役、いい歌手が歌うと、ぴりっと公演がひきしまる大事な役なんですが、、。

逆にブライスは、さすが、いつもどおりの安定したウルリカで観客を湧かせました。

そして、私的には今日一番の注目どころだったリチトラ。
結論。この役を歌うのはこのシーズン最後にしましょう。
で、この役を歌うのをやめるだけでことが済めばいいのですが、他にも数点気になる点がありました。

まず、彼の声質には独特のひょろん!とした響きがあるのですが、
コンディションがいいときの彼は、そのひょろんとした音に、がっちりとした背骨を加えることが出来て、
そのコンビネーションが個性的な魅力になっているように思うのですが、
この声の背骨がないときの彼は、単にへろへろに聴こえてしまう。
で、第一ランの際は、まさにその通りでへろへろだったわけですが、
風邪をひいたいた、ということで、そのせいなのかな?と思っていました。
しかし、今日の歌唱を聴いてそうではないんじゃないか?という気が。
もっと慢性的な声の変化が起こっているようにも感じられ、正直、非常に心配です。

で、そのことと関係があるかも知れないのですが、この役に必要なレンジの声が出ていない。
時に、通例歌われる音から一オクターブ下げた音に変えて歌っている音が確認され、
(舟歌では、同じフレーズの繰り返しがありますが、一つ目を通例歌われる音で歌って失敗。
繰り返しの時には下げて歌っていました。)
彼が今まで得意にしてきたレパートリーのテノール・パートに必要とされるレンジを歌うには厳しいくらいに
彼の声が下がり始めているのかな?という懸念も起きました。

そのユニークさを絶賛した彼の『道化師』ですが、もしかすると、
このカニオあたりの役は、彼の声には重いのも事実であり、
これらの役に挑戦したのが声を消耗させる結果になったのではないかと心配です。

何年か前のメトでの『アイーダ』のラダメスでは、ものすごくみずみずしい声を聞かせていた彼なので、
これが慢性的な変化でないことを祈るばかりです。

(なぜか、今シーズンの『仮面舞踏会』、
ホロストフスキーやリチトラといった有名歌手が出演しているにもかかわらず、
深刻な写真不足をきたしております。
よって、写真は2005年シーズンでアメリアを歌ったデボラ・ヴォイト。
衣装やセットは現在と同じです。)


Salvatore Licitra (Gustavo III/Riccardo)
Angela M. Brown (Amelia)
Dmitri Hvorostovsky (Captain Anckarstrom/Renato)
Stephanie Blythe (Ulrica Arfvidsson)
Ofelia Sala (Oscar)
Hao Jiang Tian (Count Ribbing/Samuel)
N/A (Count de Horn/Tom)
Conductor: Gianandrea Noseda
Production: Piero Faggioni
ON

***ヴェルディ 仮面舞踏会 Verdi Un Ballo in Maschera***