Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

AIDA (Mon, Nov 5, 2007)

2007-11-05 | メトロポリタン・オペラ
今日も3日の『マクベス』で一緒だった東京時代の元同僚/お友達と共に4人で鑑賞。
お友達の3人は、『アイーダ』を初めて鑑賞するということで、
私としては今日がぜひ素晴らしい公演になってほしい!と祈るばかり。
特に昨日のタッカー・ガラの最後の演目として演奏された凱旋の場がエキサイティングだったこともあり、
彼女達の期待も大きいのです。大野さん、ひとつよろしくお願いします。

なのに。ああ、なのに。
大野氏、また重いです。というか、これ以上ないくらいの、このオケに鉛がついたような進みっぷりはどうなのか?
テンポが遅いということもありますが、しかし、テンポが遅くてもいきいきと演奏することは可能であるのに、
音楽がどよんと白目を向いて瀕死状態に入ってます。
やばい。これじゃ初めて観る人はつまらない!

アイーダの全ての公演で出演が予定されていたベルティ、
いつの間にかそんなスケジュールはなかったようにされてしまっていて、
先週からは、フランコ・ファリーナがラダメス役を歌っています。
ファリーナに関しては、キャリアも割りと長いし、無難には歌ってくれるのですが、
今ひとつスリルに欠けるというのか、ある線をいつまでも越えられないようなイメージがあったのですが、
先週のラジオ放送で聴いて愕然としたのは、それに加えて、以前にはそれほど顕著に見られなかった
スクーピング(=最初からその音にアタックしないで微妙なずりあげを行う意の私と私の友人の造語)がはなはだしくなっていたこと。
聴いていて耳障りなレベルにまで達していました。
今日も特に一幕の前半で、そのスクーピングが観られ、頭をかきむしりたい衝動にかられたのでした。

ブラウンはあいかわらずの大根ぶりを炸裂させて、初めて登場するシーンなど、
アムネリスのいる前で、ラダメスににかーっと歯を見せて微笑むのはどうかと思う。
ブラウンは黒人なので、笑ったときの歯の白さが私の座っている座席からでもものすごく目立つのです。
そこは、秘めた恋がラダメスを一瞬目にしたことでほんの少しゆるんでしまう、
そんな微妙さを表現しなければならないのに、これじゃアムネリスにばればれ。
しかし、何度もいうようですが、彼女の声質は、私、嫌いでない。
とにかくどの音域で歌っても響きがみずみずしくて、清澄な水を思わせる。
願わくは、もう少し言葉への深い解釈と、言葉の意味を表現するための音色の探求というのを究めていってほしいです。
時に響きにながれて言葉がうわすべりしているように聴こえるのと、
言葉と音の統合が有機的でない、つまり、ある感情を言葉にのせるのに、
それを上手く音色で表現しきれていない部分があるように感じます。
彼女を聴いていると、せっかく素質があるのに、それを充分活かしきれていないようなじれったさがあります。

アムネリスのディンティーノ。



ガラに続いて、彼女の大進化を確信しました。
とにかく、中音域から低音域にかけて、他のメゾでなかなか聴けない彼女独特の、
暗い、かといって、ロシアなどのそれとは違う、あくまでイタリア的な暗さと、
豊かな響きを有しているのが、大変好ましい。
ガラの記事の中でも書いたとおり、少し高音が浅く聴こえるのが今後の彼女の課題といえるのでしょうが、
中・低音域で聴ける声の豊かさは、逆に大きな財産となっているはず。
また、彼女のルックスとキャラクターもヴェルディ・メゾ向き。
黒目勝ちな瞳と、黒髪に、どこかいつも不機嫌そう、かつ寂しそうな雰囲気をたたえていて、
アムネリス、エボリみたいなキャラクターにとても合っているのです。
(上の写真では微笑んでますが。)

一幕の後半あたりから、急にファリーナのずりあげが姿を消し、
以前に彼が歌っていたような豊かな響きで、しかも発声の最初から的確な音をヒットしはじめたのには安心。
今日は調子がよかったようで、その後はずっと安定した歌を聴かせてくれていました。
ただし、彼の歌にはスリルがないのが最大の難点。
どこか、職業歌手、というのか、出てきて歌うのはお仕事です、という雰囲気が漂っている。
確かにそうなのだけれども、歌手はまた芸術家でもあるはず。
もう少し、自分の役についての何かを表現する、という積極的な意図を見せてほしいです。

とにかく、一回目のインターミッションまでは、大野氏の死ぬほどじれったい指揮に幻滅。
今まで聴いた彼の指揮の中でも、最も魅力にかける一幕でした。

ニ幕目。ここはなんとしてもがんばってもらわなくては。
とくに凱旋の場。
出足は、瀕死寸前、鉛のおもりつきのオケに一瞬光が射したように思ったのですが、
なんと、バレエのシーンで、女性ダンサーが転倒。
後で友人に聞いたところでは他のダンサーと足がひっかかったとのことでしたが、
私はその瞬間を見逃したため、気がついたら、ばったーん!というものすごい音とともに、
女性が車に轢かれたかえるのような格好で舞台にひっくり返っていました。
しかも、相当痛かったのか、ささっと立ち上がることもせず、
運動会でころんだ子供がべそをかいて立ち上がるかのように、のろのろのろのろ。
すみません、こと舞台上のことに関しては、情の微塵もない私なので、はっきり言わせていただくと、
あんな不恰好なこけ方をした後は、せめてせめて、できるだけ早く立ち上がろうという気概だけは見せてほしかった。
『アイーダ』のたった一つの公演とはいえ、それに関わっている人間の数を考えてほしい。
いや、彼女がいる舞台だけをとってもおびただしい数のエキストラ、合唱、ダンサー、
そしてソリストの歌手達。
彼らの努力が結集して出来上がっているのがこのシーン、それを台無しにするということがどういうことか。。
こけたすぐ後に幸いにも彼女の属しているグループが一度はける機会があったのですが、
次に戻ったときには彼女はおらず、そのグループは一人かけたままで踊り続けました。
よって、男性ダンサーのなかに、女性のパートナーなしで、一人で踊っている人がいました。
この珍しい出来事(メトで『アイーダ』は何度となく観てますが、こんな出来事は初めて。)があった後、
オケは舞台上の出来事が見えないのでそれほど演奏に変化がなかったのですが、
舞台にのっていて一部始終を目にしていた合唱のメンバーを中心に、一瞬にして、気の流れが変わってしまい、
やっと上向きかけたかと思われた演奏がまたもやボルテージダウン。
大野氏の指揮も、凱旋の場の華々しさを充分に伝えるものとはなっていませんでした。

ただし、今シーズン、これまで、Dobberのどうしようもなさはともかく、ポンスまで調子を崩してしまって、
アモナズロ役がどの公演もものたりないものになってしまっていたのですが、
その中では繰り上がり式に、今日のデラヴァンが一番良いという皮肉な結果に。
彼の歌は超一級ではないにしても、若々しさとエチオピア王としての気性の荒さはかろうじて表現しえていたと思います。

二度目のインターミッション中に、友人達と大野氏の指揮について熱く語らった後、
いよいよ第三幕へ。

大野氏は、どうやら、三幕以降の方が得意なのかな、という気がします。
ただ、今日の演奏に関しては大野氏のみならず、オケにも責任があるように感じました。
三幕以降、比較的集中力をとりもどして、
大野氏が一生懸命ひっぱろうとしているにもかかわらず、あちこちの楽器からミスが続発。
しかも、お互いに合わせる気もさらさらありません、といった風で、
同じ楽器でも入りのタイミングが違ったり、と、ことごとくまとまりに欠いていました。
ここまでオケの演奏がひどい日というのは滅多にありません。

しかし、四幕第一場。
もう今日はこの場を観れただけで、私はこの公演に出向いた甲斐があった、と思ってます。
ディンティーノのアムネリスのそれは素晴らしかったこと!!
私がこの四幕第一場でここまで手に汗握る思いで舞台を見つめたのは、ザジックが彼女の絶頂期にアムネリスを歌ったとき以来。
しかも、先にすでに述べたように、高音域での声の冷たい刺すような響きでは、
ザジックの方が一歩も二歩も上。
しかし、それにもかかわらず、ディンティーノのアムネリスには観客が目を離せないいわれがたい魅力があるのです。
裁判のシーンに入る箇所で多用される、中から低音域にかけての彼女の声に備わった、その地べたを這うような迫力。
渾身の力で歌うようなフレーズでないところにこそ、彼女の持ち味が発揮され、
アムネリスの嫉妬と恋から生まれる葛藤がとぐろを巻いている、そのただ中に我々観客は放り込まれるような気がするほど。
以前私が彼女を生で観たときには聴けなかった、歌唱にこもった気迫に本当に圧倒されました。
それでいて、そこはかとない悲しみが底流となって、場を通して流れているのが、なんともせつなく。。
いつからこんな繊細さを歌いこめるようになったのでしょう!

90年代に生で彼女を観て以来、メトではあんまり名前を聞かなかったのですが、
しばらく観ないうちに、感情の機微とひだを歌にのせて表現できる素晴らしいメゾに成長していました。

次回、どのヴェルディ・メゾの役でメトに登場してくれるのか?
次に聴けるのが非常に楽しみな歌手の一人となりました。

Angela M. Brown (Aida)
Luciana D'Intino (Amneris)
Franco Farina (Radames)
Mark Delavan (Amonasro)
Vitalij Kowaljow (Ramfis)
Reinhard Hagen (The King)
Jennifer Check (A Priestess)
Conductor: Kazushi Ono
Production: Sonja Frisell
Dr Circ B Even
ON

***ヴェルディ アイーダ Verdi Aida*

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2 コメント

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二人も虜 (yol)
2007-12-16 10:15:19
その節は三人まとめて本当にお世話になりました。
その後Y嬢はすっかり仕事に埋没していますが、S嬢は着々とオペラへの道を歩んでおり、現在メト版アイーダと、彼女が行きたくてもチケットの取れなかった椿姫、これはデヴィーア@新国立版、この2本が彼女の元にあります。

残念ながら日本で一緒に行く機会は今のところないのだけれど、日本で観る日本語の字幕のオペラの方が更にわかりやすいに違いないので、来年はあなたに代わって私が二人をアテンドするわ!
早く皆でいける日がきたらいいなー
返信する
二人の入信は (Madokakip)
2007-12-16 15:49:41
yol嬢、

Y嬢、S嬢のオペラ教入信はひとえにあなたのおかげよ。
飛行機の中だろうと、チェックイン前のスタバであろうと、
場所を選ばぬ熱心な活動と、
まんがやらいろんなマテリアルを組み込んだ
あなたの工夫の勝利ね!

三人で鑑賞なさるなんて、とっても素敵。
報告を楽しみに待ってるわー。
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