Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

KIROV ORCHESTRA (Sat, Dec 1, 2007)

2007-12-01 | 演奏会・リサイタル
私の場合、オペラがいかなる症状も魔法のように治してしまう特効薬であることが証明されました。
昨日の昼まで一週間半、インフルエンザであんなにつらかったのに、
『ノルマ』を観て翌朝目が覚めてみると、嘘のように体調が良くなっている♪

ということで、今日のキーロフ(マリインスキー劇場)・オケのコンサートも行くしかないです。
さらなる治療を施し、徹底的にインフルエンザをうちのめすために!!!

というわけで、やってきたカーネギー・ホール。
今回のキーロフ・オケのコンサートは3日とも、オール・ロシアン・プログラム。
しかも、どの日のプログラムもオペラからの幕を含んでいて、
オペラヘッドには非常に嬉しい構成になっているのです。

今日はグリンカのオペラ『ルスランとリュドミラ』から第一幕と、ストラヴィンスキーの『春の祭典』。
考えてみれば、『春の祭典』もバレエ用の作品ですから、劇場付きオケならではの選曲といえます。

大きな拍手によって迎えられたゲルギエフ。
この人は、寂しくなってきた頭頂部を除けば、立ち姿が颯爽としていて、指揮姿が比較的、綺麗な部類に入ると思うのですが、
しかし、今日は彼の指揮姿にある法則を見つけ出してしまいました。
その法則とは、”指揮姿の美しさと演奏結果は反比例する”。

『ルスランとリュドミラ』では、立ち姿も美しく、振り始めたゲルギエフ。
しょっぱなでのりきれないのか、少しオケの表情もしゃちほこばっている。

私は、キーロフ・オペラの来日公演で観た
ヴェルディの『運命の力』がどうしようもなくロシア風に重苦しいのに失望したくちで、
確かこの作品の初演がマリインスキー劇場だった縁で、この演目が公演演目に選ばれたように記憶しているのですが、
このときから、オペラの公演においては、作品が歌われる言語の国のスタイルを大事にしてほしい、という気持ちが強くなったのです。
それをいえば、そこまでロシア風の香りはないが、さらにはドイツ風味も希薄であまりにニュートラルな
『神々の黄昏』を今夏観たときにも、
うーん、という感じで、人によっては大変評価の高いキーロフ・オケですが、
まだ、彼らの真骨頂を生で聴ける幸運に恵まれていないのではないか、という思いをずっと持っていたのです。

そんななか、今年バレエに目覚めた縁で購入した、マリインスキー劇場がロンドンでバレエの引越し公演を行ったときの様子をおさめた映像。
演目は全てロシア物。
このときのオケの演奏が素晴らしくて、ああ、こういう演奏を生で聴いた人たちが、
このオケのことを素晴らしいと言うんだな、と実感。
もし、こういう演奏を聴けるとしたら、多分ロシアものが一番可能性が高いはず、、
と、そういう意味でも今回のコンサートへの期待は高まっていたのですが、、、。

あれ?
『ルスランとリュドミラ』では、見事にはずされました。
あの、『神々の黄昏』に近い、なんというか、万国共通系のオケの音。
ロシア臭というものがほとんど感じられない。

この一幕では、キエフ大公スヴェトザーリの娘、リュドミラがルスランとの結婚の祝いの席で、
いきなり訪れた暗闇と稲妻の中、悪魔に拉致され、
キエフ大公が、彼女を救った者に結婚を許す!と、ルスランを含む3人の若者をリュドミラ救助に送りだすことを決めるシーン。

まず、リュドミラ役を歌うDudinovaがあまりにも非力。
やっとのことで音符をたどっているという風情で、高音のあぶなっかしいことこのうえない。
まだ新進の歌い手のようですが、まるで、学生さんか何かの発表会を聴いているよう。。
もうちょっと、役を掘り下げるレベルのところまで歌える人を当ててほしかった。
配役ミス。

吟遊詩人バヤンを歌ったAkimovは、独特の明るい声で頑張っていましたが、
出番の最後の方でやや不安定に聴こえた箇所も。

他のキャストも特に印象に残る人がおらず、これが今のキーロフ・オペラの歌手のレベルなのか?と、
一瞬不安が募る。
(ちなみに、翌日の『雪娘』で歌った歌手達は素晴らしく、
また、まもなくメトで上演予定のためにリハーサルが続いている、
ゲルギエフ指揮の『戦争と平和』のキャストがほとんどキーロフ・オペラからの歌手たちなので、
そちらに人がとられて、この『ルスラン~』が手薄になったものと思われます。
なので、不安は杞憂に終わりました。)

この作品のオケに関しては、手堅い出来でしたが、
ただ縦の線に関しては、つい最近聴いたベルリンなんかに比べると、結構おおざっばな箇所も。
弦楽器がやや個性がないのと、金管楽器がもっとヨーロッパ的な音かと思ったら、
どちらかというとアメリカっぽい音なのが意外でした。

休憩をはさんで、『春の祭典』。

第一部。
早い!ものすごく早いです。
第二部と比べると、もう少し普通テンポにコントラストがあるものですが、今思い返してみると、
あまりに早くて、ほとんど第一部と第二部の切れ目がないような印象を受けるくらい。
で、好みもあるでしょうが、ここまで早いと、音符に書き込まれた全てが十全に表現されつくされずに、
早さに流されてしまった箇所も。
ストラヴィンスキーがこれを聴いたらどんな顔をするか見てみたい気もする。

しかし、第二部。
ここからがすごかった。
ものすごい変拍子の嵐の中、ティンパニー奏者がものすごい達者な演奏を繰り広げる。
というか、こんなにティンパニーがかっこよく見えたのは初めて。
まるで豹か何かのように演奏するのです、この方が。
そして、金管がそれに応える猛演奏。特にトランペットとピッコロ・トランペット。
(後者は、奏者の方、アジア人のようにお見受けしましたが、すごい演奏を聴かせてくれました。)
そしてそれに引き摺られるように、弦楽器が、『ルスラン~』のときとは別人のように、生き生きとした音を奏で。。
見ると、ゲルギエフが、『ルスラン~』で見せていたちょっとお澄ましした様子をかなぐりすてて、
ものすごい表現をしている。
あるところなんて、ほとんどタクトを振らずに、ふらふらふらっと、頭がおかしくなった人がホームから列車に飛び込むかのように、
足元もおぼつかない様子で弦セクションの方に飛び込んでいきそうになるかと思えば、
(いや、私はまじめに、ゲルギエフ氏、どこまで行くの!と叫びそうになったくらい。)
左手で、額にはりついた前髪(あんなに薄く見えるが、あるんです、前髪は。)を、
うざったそうに払いのけたり、さっきのスタイリッシュな指揮姿と同一人物とは思えない!
そう、”指揮姿の美しさと演奏結果は反比例する”。
ゲルギエフが怪しい指揮姿を呈してきたとき、その時こそ、いい演奏が聴けるチャンス到来!

この二部に来て、何か、指揮者と奏者のグルーヴみたいなものがぴたっ!とはまったようで、
最後の音の後は、聴衆から待ちきれん!とばかりにすごい拍手が飛び出ました。
いやいや、これはかなりエキサイティングな演奏でした!!!

延々と続く拍手に、ゲルギエフ氏が、ロシアなまりの強い英語で、
”ババヤガという曲です”と、アンコール曲を紹介。
このババヤガというのは、スラヴの民話に現れる、
魔法使い、とか魔女のイメージに近いおばあさんのことで、リアドフの作曲。
茶目っ気たっぷりの小品で、途中トランペットの奏者二人が図らずも、
まるでジャズ奏者のようなユニゾンの振りになって、思わず顔を見合わせて笑う場面も。
オケのメンバーの人がとても楽しそうに演奏していたのが印象的でした。
ウィーン、ベルリン、キーロフと来て、楽しそうに演奏をしていたという意味ではキーロフが一番だったかも。
ベルリンは、もっと、使命感みたいなものに燃えていて、楽しいというレベルの次に行ってしまっている雰囲気だったし、
ウィーンが最もクール。
そして、もちろん、クール、って言っても、ここではいい意味ではないです、決して。

大喜びの聴衆になんとゲルギエフから、もう1アンコール、プレゼント。
リムスキー=コルサコフの『雪娘』から、道化師の踊り。
この作品で、やっと、やっと、私は出会えました。みんながいい、と言っているキーロフ・オケに。
音の輝きが尋常じゃないのです。
それこそホールの中に、粉雪がぎっしりと降ってきたような感覚で、
また、その粉雪が白ではなくて、一つ一つ金色に光っているような。。
音のとてつもない躍動感に、ずっとこのままこの音を聴いていたい、と思わされました。
非常に短いピースでしたが、本当にこのオケの真髄を堪能。
ついに、ついに、という感じで、私はとても嬉しかったです。
しかも、明日のコンサートは、その『雪娘』の全幕演奏会形式。
一層明日の公演が楽しみになってきたのでした。

GLINKA: Act I of Ruslan and Ludmilla
Mikhail Kit, Bass (Svetozar, Prince of Kiev)
Liudmila Dudinova, Soprano (Liudmila, his daughter)
Vadim Kravets, Bass (Ruslan)
Evgeny Akimov, Tenor (Bayan, a Bard)
Zlata Bulycheva, Mezzo-Soprano (Ratmir)
Alexei Tanovitski, Bass (Farlaf)
Chorus of the Mariinsky Theatre

STRAVINSKY: Le sacre du printemps

LIADOV: Baba Yaga Op. 56
RIMSKY-KORSAKOV: Dance of the Skomorokhi from The Snow Maiden Act III

Conductor: Valery Gergiev
Chorus Master: Andrei Petrenko

Dress Circle CC Odd
Carnegie Hall Stern Auditorium
***キーロフ・オーケストラ Kirov Orchestra***