Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA (Wed, Nov 14, 2007)

2007-11-14 | 演奏会・リサイタル
USPS(郵便局)、MTA(市交通局)ら、半官の組織と共に、
間違いなくNY感じ悪い職業リストのトップ10に入ると私が睨んでいるキャブの運転手。
というか、キャブの運転手は感じのよい人と、運転しているその後頭部にチョップを決めたいほど
感じの悪い人の差が激しい。
しかし、平均値をとってもトップ10には入るに違いない。

よい運転手とは、いえ、どんな職業でもそうでしょうが、感じがよいのみならず、
職務に全身全霊で取り組んでいる人。
例えば、何も考えずにマンハッタンの街を走ることもできるけど、
こういう人たちは常にどこで何が起こっているかにレーダーを走らせ、
的確なアドバイスをしてくれます。
以前、メトのあるリンカーン・センターに遅れそうになった時に出会った、
”ちょっと遠回りになるけど、今日はコロンバス・アベニューが混んでいるので、
ブロードウェイから行きましょう”
と言ってくれた運転手。通常はその逆なので、まさか、運賃を水増ししようとたくらんでいるのでは?
(いやー、私も最近心がゆがんでますな。)
なんて考えが一瞬心をかすめましたが、信頼してよかった。彼の言うとおり、
コロンバス・アベニューは道路工事か何かで渋滞。ブロードウェイから行って大正解。
それから、別の日。
”ちょっと歩いても構わないなら、ウェスト・エンド・アベニューを使う手もあるよ!”と
教えてくれた運転手。遠回りだけど、圧倒的な速さで、このルートはかなり重宝していて、
今では遅れそうになると必ずこの道を指定しています。

さて、カーネギー・ホールは、我が家からすると、リンカーン・センターよりもさらに時間がかかる場所にあり、
特に平日の渋滞には泣かされる。
昨日の演奏会のためにカーネギー・ホールに向かおうとつかまえたキャブ。
すでにやや遅れをとっていたので、丁寧に、
”急いでます。多少、遠回りになっても構わないので、早く行ける方法でお願いしますね。”
というと、”オッケー!”という調子のいい返事。
”コロンバス・アベニュー経由がいいよ、やっぱ。”というので、少し嫌な予感がしたものの、
”じゃ、それで。”
しかし、コロンバス・アベニューは今日も渋滞。しかも、何を考えているのか、この運転手、
一番すすみが悪いレーンをわざと選んで運転しているのかと思うくらい要領が悪い。
それは、携帯でずーっとしゃべってるから。注意してないんです、道路状況に。
しかも、レーンが少なくなるところでは、次々と他の車に道を譲りまくって、
さっきまで私たちのうしろにいた車はもうはるか前に行っちゃってます。
マンハッタンでこんな運転してたら、百万年経ってもカーネギー・ホールにつかない!と、
”ちょっと!さっき、私、急いでいる、ってお話したわよね?
どうして、そうやって慈善事業みたく、次々と他の車にわりこませるわけ?
(前方50メートルくらいにいる車を指差して)あの赤い車、さっき私たちのうしろにいたのよ、
なんでこんなことになるの?”と言うと、
”道路が混んでるんだからしょうがない”というので、
”いいえ、他の車の運転手は脳みそ使って運転してるからよ!
この調子じゃ、公演に間に合わないんだけど!”と吠えると、
なんと、この運転手、
”君が急いでいることなんて、俺の知ったこっちゃない。”

かっちーん、、、、

なので私も一言。
”あっ、そう。じゃ、あなたがびた一文私からチップをもらえなかったとしても、
私の知ったことじゃないわね。”

車内に沈黙が訪れる。
そこにすでにカーネギー・ホールに到着したらしい私の連れから、大丈夫か?と
私の携帯電話に電話が入る。

”ごめん!もうね、脳死してる運転手にあたっちゃったわけよ。
もう、間に合わないかもしれない。でもね、大丈夫。
間に合わなかったら、この運転手がチケット代二枚分払うことになるから。
車、ホールの前につけるから、あなた、交渉、手伝ってくれるわよね?”
というと、いきなり運転手が急ぎ始めた。
むこうで、私の連れが、
”わっはっは。間に合うよ。”と大笑いしていることも知らず。。

で、5分前に到着。13ドル90セントの運賃に、14ドルぴったりお支払い。
日本円で12円のチップ。
いらないことさえ言わなければ、公演に間に合ったからはずんだのに。

と、そんな出来事が昨日あったので、今日は少し早めに家を出たうえに、
ウェスト・エンド・アベニュー経由を指定でキャブに乗る。
運転手に、なるほどねー、と褒められ、
実はこれ、キャブの運転手さんに最近教えてもらった技なの、
と鼻の穴をふくらませながら自慢。
ものすごく早く着き過ぎて、今日は連れを私が待つことになりました。

昨日と今日の公演は、チケットが売り切れだそうで、ダフ屋が目の前で、売りと買いの両方をさばく姿が見られました。
メトのオペラの公演に比べると、かなりダフ屋行為が派手に行われている。。。
それだけ、人気のある公演ということになるのでしょう。

昨日のUS初演もの、Seht die Sonneにはかなりがっかりさせられたので、
今日のAdesによる、Tevotという作品もまったく期待していなかったのですが、
結論から言うと、こちらは意外にも面白い作品で、楽しませていただきました。
Adesはイギリス人の作曲家で、この作品は彼の二作目の交響曲(といっても、このTevoは、
所要時間、たったの22分の短い作品ですが。)
Tevotというのは、ヘブライ語で、音楽でいうところの小節、また、他に、言葉、という意味などがあるそうです。
楽器の構成が面白くて、フルート、オーボエ、クラリネットが持ち替え込みで各5人、
バスーン4人+コントラバスーン、それから、なんとホルンが8人!
トランペット 5、トロンボーン 3、チューバ 2、
ティンパニーと他の打楽器、ハープ、ピアノとチェレスタ、弦楽器といった構成になっています。
そう、管楽器がとても厚いのです。

頭の管楽器によって立て鳴らされる不協和音の連続に、
一瞬、私のような前衛的なものが苦手な人間は、大丈夫かしら?とひるむのですが、
だんだんその和音の響きそれぞれが面白く感じられるようになり、
しかも、決して曲が一人よがりでなく、後半の弦楽器を中心とした旋律なんかは、
むしろ保守的な旋律とも感じられるほどで、大変美しい。
また、後半のプログラムである、大地の歌にもつながるような、
異国情緒も感じられ、それでいて宇宙的な奥行きも感じさせる、大変興味深い作品に仕上がってます。
とにかく、最初から最後まで飽きずに聴かせてくれたのですから、なかなかのもの。
もちろん、その作品の良さを引き出したベルリン・フィルの力を讃えないわけにはいかないでしょう。
各パートが本当にきっちりと演奏してくれるので、作曲家がやりたいことがよく見えました。
このAdesという作曲家、なんと私の二歳下。
同世代の人がこのように面白い作品を出してくるのは、嬉しいものです。

マーラー、『大地の歌』。
CDでは、キャスリーン・フェリアーをはじめとするアルトの歌唱になじんでいたのですが、
今日は、バリトンのThomas Quasthoffが、テノールのベン・ヘップナーと組む、
バリトン・バージョンでした。

Thomas Quasthoff、私、公演前は、名前だけでぴんと来なかったのですが(最近物忘れがひどいゆえ。)、
舞台に出てきたときに、ああ、以前テレビで見て、聴きたいと思っていた人だ!と思いました。
この方はサリドマイド被害により、大変身長が低く(ベン・ヘップナーの腰くらいまでしかないので、
歌うときは、特製の台に乗ってらっしゃいました。)、
また、両腕が短いのですが、一旦声が出てくると、全くそんなことを忘れる。
どうして、ベン・ヘップナーの半分しか身長のない人にこんな声が出るのか?と、
畏敬の念さえおきてきます。
もう今まで私のレポをお読みの方ならご推察ずみの通り、目の不自由なボッチェリにしろ、このQuasthoffにしろ、
体に障害があったとて、歌については一切手心を加えない私ですが、だからこそ畏敬の念がおきました。
(ちなみに、ボッチェリの歌は、あまり好きでない。)
正直に言って、Quasthoffの歌は技術的には100%完璧とはいえないし
(技術的なことでいえば、ヘップナーの方が上でしょう。)
ところどころにスクーピングも入るのですが、
しかし、ヘップナーがかすむような、感情の載せ方をしてくるのです、歌に。
技術が完璧ではないのに、客をひきつける歌。これも才能。
正直、オペラの場合は、視覚がしめる割合が高くなるので、
彼が舞台に立って成功していくのは、彼に合う役がほとんど存在しないか、
あってもごく稀だと思うので、難しいと思うのですが、
こういったコンサート形式のものでは多いに活躍していただきたいです。

ちなみに、ボッチェリのことをいえば、彼の声がどんなに素晴らしかったとしても、
私は彼が立つオペラの舞台は見る気になれません。
指揮者を見ることの出来ない歌手が歌うオペラは、心を鬼にしていいますが、
すでにスタートからして大きな障害を内包していると思う。
彼がオペラの舞台にたった映像を見たことがありますが、
やはり、指揮者の意図をその場で即座に汲めないのは、舞台芸術としては、大きなマイナスであると感じずにはいられませんでした。

ベン・ヘップナーは昨シーズン、『アンドレア・シェニエ』で感じたとおり、
どちらかというと繊細な歌唱に秀でているとの印象をあらためて持ちました。
体が大きいので、つい、サイズの大きな声と強引な歌を想像してしまうのですが、
むしろ、全く逆で、この人の歌の魅力は端正さにあることを確認。
しかし、シェニエでも、今日の作品でも感じたのですが、彼の歌は、
どこか、少し、作品と一体とならずに、一歩引いているような印象を受けます。
それが、技術的によくコントロールされた歌唱を可能にしているのでしょうが、
もう少し、熱くてもいいんではないのでしょうか?と本人に言ってみたくなる。
特に、Quasthoffみたいなタイプの歌手と一対一で歌うと、すごくそこが目立つ気がしました。

ベルリン・フィルは、今日も、歌手との足並みも含め、
ハーモニーを大事にした演奏で、さわやかだが、渋さすら感じさせる。
各楽器の掛け合いも見事で、特にホルン。昨日に続き、素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
あんなホルンが、メトのオケにも欲しい。

Thomas Ades: Tevot
Gustav Mahler: Das Lied von der Erde

Conductor: Simon Rattle
Ben Heppner (Tenor/Das Lied)
Thomas Quasthoff (Bass-Baritone/Das Lied)
Dress Circle GG Even
Carnegie Hall Stern Auditorium
***ベルリン・フィル Berlin Philharmonic Orchestra***

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