Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: WAR AND PEACE (Wed, Dec 26, 2007)

2007-12-26 | メト on Sirius
今週土曜日の『ヘンゼルとグレーテル』鑑賞あたりをもって、年越か?と思いきや、
『戦争と平和』の残された3回の公演、
12/17の『仮面舞踏会』でなかなか面白い指揮を披露した(しかし、21日はちぐはぐだった。)
ノセダ氏がゲルギエフの後を引き継いで指揮するということ、
また、12/1012/17ともに、ナターシャ役がポプラフスカヤ、アンドレイ役がマルコフというコンビだったので、
できればマターエワ&Ladyukコンビも聴いてみたいということもあり、
『戦争と平和』三度目の鑑賞の可能性が突然浮上してきたのでした。

しかし!その一方で、その長さが結構きつい上演時間(特に前半、死ぬ。)と、
残り三日とも平日な上、その長さのために、通常の8時の開演時間から30分前倒しにされることもあり、
仕事をばたばたと終わらせて、間に合うのか?
また間に合ったとしても、疲れが一気に出て、前半、記憶がふっとぶのではないのか?
そのばたばたも、素晴らしい公演なら報われるが、”...... ”な公演だったらどうしよう?
チケットも安くはないし、、などと、葛藤の渦に巻き込まれていたところ、
そんな悩めるオペラヘッドを神はお見捨てにならなかった!

26日の公演が、シリウスのライブ放送枠にあたっているではありませんか!
なーんだ、これを聴いて、行くべきか判断すればいいではないの!
あたまいい!!(って、たいした思いつきでは全然ないが。)

というわけで!
本日26日のシリウスの放送は、我が家では、”戦争と平和を三回観るかどうか決める選考会”
として、いつもは、いろいろな用事をしながら、聴きたいところのみを重点的に聴くという聴き方をすることが多い私ですが、
今日は本気モードです。

ノセダ氏の指揮。
うーむ、なんと言っていいのか、全然ゲルギエフの指揮と違う!
ゲルギエフ氏の指揮よりもドライな、さくさくした感じがします。
ところどころ、まるで『トゥーランドット』を思わせる音が響いている箇所あり。
興味深かったのは、そんな感想を持って前半を聴き終え、インターミッションになったところ、
二人目のゲストとして招かれた、このプロダクションでゲルギエフのアシスタント・ミュージック・ディレクターとして参加した、
現アリゾナ・オペラを率いる男性のお話(すみません、お名前を忘れてしまいました)。
この方、ゲルギエフのかわりにリハなんかで指揮をすることもあったそうですが、
彼曰く、
『戦争と平和』の平和の部分(前半)は、ある意味プッチーニの作品に通じる部分がある、
ということです。奇遇。
でも、ゲルギエフが振ったときは、プッチーニっぽく聴こえるとは、あんまり感じなかったんだけどな。

奇しくも、そのインタビューと、後半の公演の始まりの間に、ジングルとして使われた抜粋が、
(いつも、シリウスの放送では、ここの部分で、放送中のものと同じ演目の過去の録音分からの抜粋を使用しているようです)、
第二場の、舞踏会のシーンの冒頭、金管で華やかに始まる箇所で、
おそらくゲルギエフが指揮した回の録音からの抜粋と思われるのですが、
こうして、短時間のインターバルでノセダ氏のものと聴き比べすると、
やはりテンポの設定とか、各楽器の絡め方、そして何よりも楽器の音の色気、というのかが、
今日の演奏よりは一枚も二枚も上手。

しかも、後半、戦争の部で、大荒れ。
合唱とオケが完全に外れてしまって、このまま崩壊か?と冷や汗をかいた箇所も。
(合唱が入る場所を失ったように音だけでは聴こえましたが実際何が起こったかは不明。)
その大荒れの後半に、とどめを刺すかのように、レイミーが歌うクトゥーゾフ将軍、
なんと、歌詞を忘れたのか、一小節、まるまるすっとばして歌ってしまった箇所が!
それはノセダ氏のせいではないのですが、あせりまくったに違いありません。
オケがなんとか先回りして(すごい。。)何とか完全崩壊の危機を逃れましたが、
ノセダ氏の汗だくの姿が目に浮かぶようです。。

実際に複数回の公演を観た人の話では、声はポプラフスカヤが、芝居とか役作りの面ではマターエワが勝っている、
とのことなのですが、今日は残念ながら声の比較しかできません。
確かに、ポプラフスカヤに比べると、マターエワの歌唱には、若さがないかもしれません。
特にこのナターシャの役では、この若さが、役のキャラクターを構成する非常に重要な要素の一つになっているので、
無視するわけにはいかないのが辛いところ。
声を伸ばしたときに、最後の最後のコンマ1秒ぐらいで音がぐらつく、またはかすれるのも、
元気一杯な歌唱を披露したポプラフスカヤに比較すると、聴き劣りしてしまう。

そして、アンドレイ役を歌ったLadyukは一生懸命歌っていて、その健気さをつい応援したくなるのですが、
ふと、ちょっと待てよ?と思うのです。
そんなキャラクターじゃないだろう、アンドレイは、と。
この役に関しても、少し固さはあったけれども、世慣れている風に見えて、
その世慣れてる中に不器用なところを隠しもっているアンドレイの性格を、
マルコフが持ち前の声で表現していたのと比べると、やや弱いと言わなければならないでしょう。
今考えて見ると、マルコフ、声が男前なんです、なかなかに。
特に死のシーンは、今日Ladyukで聴いて、
ああ、やっぱりマルコフは良かったんだな、と実感した次第。
前にも書きましたが、あの、ピチピチ、、と繰り返す箇所では、音が出てくるタイミングがこれ以上ないくらい巧み。
それに比べると、今日のLadyukはタイミングが甘い。
そうじゃないだろう!とラジオに向かって叫びそうになってしまいました。
マルコフ、もう一歩、歌唱と役作りが深くなると、とてもいい歌手になるんではないか、
と思えてきました。

これらの理由から、もちろん、どんな公演も観にいくのは無駄だとは思わないのですが、
諸事情を勘案した結果、私の今シーズンの『戦争と平和』鑑賞は、
二回で終了することとなりました。

ということは、今年の最後の鑑賞は冒頭に書いたとおり、『ヘンゼルとグレーテル』か?
いいえ。
私の連れが、数日前、言ってはいけない言葉を私に吐いてしまったのです。
”オペラヘッドが大晦日をオペラハウスで過ごさないなんて、駄目だねー。”

............。

大晦日の、『ロミオとジュリエット』のチケットが売り切れで手に入らず、
泣きが入っていたこの私に、そんなことを言うなんて。ひどすぎる。

しかし!
神はまたしても救いの手をさしのべてくださったのでした。
このシリウスの放送終了後、ふとメトのサイトに立ち寄ったところ、
今まで、むなしくSOLD OUTの文字が並んでいたチケット購入の画面に、
なんと!キャンセルであがってきたチケットが出ているではありませんかー!!

よっしゃー、もらったー!!!

というわけで、大晦日は、正しいオペラヘッドとしての姿をまっとうするため、オペラハウスに出没、
ポレンザーニが歌うロミオが楽しみな、そして指揮がドミンゴからネードラーに代わる(ほっ。)
12/31の『ロミオとジュリエット』が私の年越しの演目となりました。

Irina Mataeva (Natasha Rostova)
Vasili Ladyuk (Prince Andrei Bolkonsky)
Kim Begley (Count Pierre Bezukhov)
Samuel Ramey (Field Marshal Kutuzov)
Ekaterina Semenchuk (Sonya)
Vassily Gerello (Napoleon Bonaparte)

Conductor: Gianandrea Noseda
Production: Andrei Konchalovsky
Set designer: George Tsypin
ON

***プロコフィエフ 戦争と平和 Prokofiev War and Peace***