Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: ROMEO ET JULIETTE (Thurs, Dec 27, 2007)

2007-12-27 | メト on Sirius
指揮がドミンゴからネードラーに代わって初の『ロミオとジュリエット』のシリウスでの放送。

前奏曲、なかなかキレがあっていいし、おっ?と思わせる瞬間もありましたが、
その後も早い、早い。
ドミンゴのまったりした指揮に慣れていたオケや合唱がアジャストするのに苦労してます。
指揮者があおってもあおっても、遅めになりがちなオケと合唱とソリストたち。
まるで、体がなまってしまった運動選手が一生懸命、走ろうとしているような、、。
早さについていけずに、ほとんど音がすっぽぬけてしまいそうな箇所も。

しかし、ネードラー氏。相当天邪鬼と見た。
突然、ジュリエットのアリア ”私は夢に生きたい Je veux vivre"は、
がっくーんとスロー・テンポにしてきました。
もともと、ここの部分はわりとドミンゴの指揮がアップテンポだったのと、
最初からがんがん飛ばすネードラーをみて、これはきっと相当早いに違いない、と、
ネトレプコが思ったかは知りませんが、
最初のフレーズ、彼女が飛ばしまくる中、ネードラーは、”うふふ、そんなに早く行かないよーん”と、超ゆっくり。
ネトレプコが遅くしても、遅くしても、まるでどんどんネードラーの方が遅くなっていくような気がするほど、
ネトレプコとオケのテンポが最初かみ合わない。
最初は、きっと私に合わせてくれるはず、と思っていたであろうネトレプコが
とうとう観念して、これ以上ゆっくり歌うのは無理、というくらいに譲歩。
しかし、この二人のテンポがあったところからが素晴らしかった。
ドミンゴが振っていたときは、いつも、何だかあたふたと、雑に聞こえがちだったこのアリアを、
この超ゆっくりモードにすることで、ネトレプコからおそらく今シーズンの『ロミ・ジュリ』中、
このアリアの最高の出来を引き出したんではないでしょうか?
このテンポのおかげで、最後の音を渾身で延ばさなければならなくなった彼女ですが、
見事、応えて、素晴らしい音を出してました。
また途中の一音一音の音の動きがクリアになって、これで最初から息が合えば、かなり聴き応えがありそう。
12/31の公演が非常に楽しみになってきました。

ポレンザーニは、少し独特の声質で、これが好みが分かれるポイントとなるかもしれませんが、
彼の場合、声がぽかんとしている(ように私には聴こえる)わりには、
歌い方のせいか、聴衆に知的な印象を与えられるところが得な性分だと思います。
あの神経質そうなルックスのせいか。
”太陽よ、のぼれ Ah! leve-toi soleil”の最後の音からデクレッシェンドして
そのままソット・ボーチェに持ち込んで終わらせた部分が、やや急いでしまった感があったのと、
高音の支えが少し下がってしまったように聞こえたのは残念でしたが、
(ただ、音が外れている、というほどではない。)
凛とした声が聴けた箇所が多々あって、今までの全てのロミオ(アラーニャ、
ジョルダーニ、カイザー、そしてポレンザーニ)の中で、
最もオール・ラウンドで出来がよかったかもしれません。

さて、お楽しみのインターミッションのゲストは、なんと、パティ・スミス!!
パティ・スミスといえば、NYパンクの女王と呼ばれ、70年代終わりから、
チェルシー・ホテルを拠点に活動していたため、NYのロック姉さんというイメージが強く(本当はイリノイ出身、ニュージャージー育ちだそうですが。)、
この、ロバート・メイプルソープが撮影した彼女のアルバム”Horses”の写真を
見たことがある!という方はきっと多いと思います。
ただ、私個人的には、パンクの女王というよりは、どちらかというと、
女性版ボブ・ディラン、というか、ちょっと、詩人ロッカーっぽい感じがするのですが。



なんと、このパティ・スミス姉が、1976年からのオペラヘッドなんだそうです。
(年号まで覚えているところがすごい。)
スーザン・グラハムがお気に入りらしく、今期の『タウリスのイフィゲニア』は二回も見に行ったそうです。
そういえば、何かの公演の際、女性化粧室で、下の写真(比較的最近のパティ・スミス)そっくりの女性を見て、
”まるで、パティ・スミスみたいだ。。”と思った覚えがあるのですが、
その時は、彼女がオペラヘッドだなんて知る由もないので、まさかね、、、とそれっきりだったのですが、
今考えると、もしかしたら、ご本人だったのかも知れません。



彼女のオール・タイム・オペラ・アイドルは、カラスだそうで(ぱちぱち)、70年代から、
よく彼女のレコードを聴いていたそうです。
そこですかさず、パーソナリティのマーガレット嬢が、
”当時のロック・シーンの他の人たちもオペラを?”と聴くと、
”いえ、それはなかったわね(笑)”
MC5のメンバー(そのメンバーの一人がパティが死別したご主人のフレッド・スミス)とか、
聴かなさそうだもんなあ、オペラ。

しかし、”じゃ、周りの人になぜオペラが好きか、と説明しなければいけないような気分になったり?”と
マーガレットに尋ねられたパティが、穏やかに、しかし、きっぱりと、
”私は、いかなるときでも、他人に自分を説明しなければいけないと思ったことはないわ。”
と言っていたのが、さすが、パティお姉さま、という感じでした。

時間いっぱいいっぱいまで語って下の座席(スタジオはグランド・ティア正面後方にあるので、
平土間かパーテールにて鑑賞していたと思われる)に戻るため、スタジオを後にしたパティ・スミスに、
”that was a trip!"(ここでいうtripとは、滅多におこらないようなすごいこと、というような意味)と、
大興奮だったマーガレットと相手の男性のパーソナリティ。
”彼女の歌への入りこみ方は、マリア・カラスにルーツがあったのか!”と感心しきりなのでした。

さて、今日の公演は、そんなパティお姉さまのエネルギーが波及したか、
全キャスト気合のこもった歌唱を繰り広げ、今シーズンの同演目中、最高の出来ともいえるのではないでしょうか?
特に、ネトレプコの出来が本当に今日はよい。
今までの『ロミ・ジュリ』の記事で時々例をあげてきたような、アリアでない、
なんでもない一言が、今日は、心がこもっていて素晴らしい。
普段でもわりと平均して歌唱の出来がいい彼女ですが、
今日はラジオを通してでも、”宿っている”のが聴こえてきます。
ライブ・インHDの時がこんな歌唱だったら、と、悔しい気持ちにならずにいられません。

しかし、ポレンザーニも負けていない。
最後の二人の死のシーンは、他のことをする手を全部止めて、聴き入ってしまいました。
今、オペラハウスにいる人たちに、身のよじれるほどの嫉妬を感じてます。
今日はすごい名演。そして、この素晴らしい歌唱を引き出したネードラーにも拍手。

12/31もこんな歌唱で、聴衆によい年越しをプレゼントしてくれることを祈ります。


Anna Netrebko (Juliette)
Matthew Polenzani (Romeo)
Kate Lindsey (Stephano)
Nathan Gunn (Mercutio)
Robert Lloyd (Friar Laurence)
Marc Heller (Tybalt)
Charles Taylor (Capulet)
Louis Otey (Paris)
Jane Bunnell (Gertrude)
Conductor: Paul Nadler
Production: Guy Joosten
ON

***グノー ロメオとジュリエット ロミオとジュリエット Gounod Romeo et Juliette***