アジアVIEW ミャンマー投資、米の足音
制裁リストから大物削除
2015/5/21 3:30 日経朝刊
「私自身も驚いた。国に貢献するチャンスが広がった」。ミャンマー屈指の複合企業であるダゴングループの総帥ウィン・アウン氏は満面の笑みを浮かべる。アウン氏は同国最大の経済団体の代表も務める大物。旧軍事政権とも公共事業などを通じ密接な関係にあったことから、米政府は長くアウン氏に経済制裁を加えてきたが、今春、この制裁が突如解除された。
米国は1990年代以降、民主化運動に対する弾圧を理由にミャンマー製品の輸入や米国企業のミャンマー投資を禁じた。2011年の民主化後は制裁緩和に転じたが、軍政と関係の深い個人や企業を財務省の制裁対象リスト(SDNリスト)に掲載。米国企業との取引を認めていない。
リストは米国以外の企業を直接拘束はしないが、米政府の反対が強いリスト掲載企業との取引は現実的に困難だ。ミャンマーの有力企業の多くがリストに掲載されており、ミャンマー投資の大きな障害となっていた。
「最後のフロンティア」といわれるミャンマーには日本や欧州の企業が競って進出するが、制裁が残る米国は出遅れている。13年現地生産を始めたコカ・コーラなど一部の例外をのぞくと、本格的な進出や投資を実施するところはわずかだ。米経済界には制裁の一層の緩和を求める声が強い。ミャンマーの大物経済人のリスト除外は、オバマ政権がその声に耳を傾けた結果とみられる。
「米国は今後リストのさらなる縮小に動く」とある外交筋は見る。昨夏、在ヤンゴンの米国大使館は主要な制裁対象企業を呼び、SDNリストから除外される方法を指南したという。中には麻薬売買や北朝鮮との武器取引などが疑われる企業もあるが、「単に軍政に近かったというだけの企業は遠からず制裁から外れる」(同外交筋)。
次にリスト除外が有力視されるのが不動産開発や、ガソリン販売が主力のマックスグループ率いるゾウ・ゾウ氏だ。起業資金確保のため日本に滞在した経験も持ち日本語も堪能。今春、仏アコーと共同でホテル運営に乗り出すなど海外企業と提携も始めており、「有力なパートナーとなり得る」(日系商社)。
米国内では特に人権団体の影響が強い議会で対ミャンマー制裁の緩和に慎重な意見も根強い。今月に入り、ミャンマー国内で多数派仏教徒から迫害を受けるイスラム教徒のロヒンギャ族が大量に周辺諸国に脱出するなど、火だねは尽きない。とはいえ米国が長期的にミャンマーへの関与を強めようとしているのは確かであり、米企業が大挙して押し寄せてくる日も近いかもしれない。(M)
制裁リストから大物削除
2015/5/21 3:30 日経朝刊
「私自身も驚いた。国に貢献するチャンスが広がった」。ミャンマー屈指の複合企業であるダゴングループの総帥ウィン・アウン氏は満面の笑みを浮かべる。アウン氏は同国最大の経済団体の代表も務める大物。旧軍事政権とも公共事業などを通じ密接な関係にあったことから、米政府は長くアウン氏に経済制裁を加えてきたが、今春、この制裁が突如解除された。
米国は1990年代以降、民主化運動に対する弾圧を理由にミャンマー製品の輸入や米国企業のミャンマー投資を禁じた。2011年の民主化後は制裁緩和に転じたが、軍政と関係の深い個人や企業を財務省の制裁対象リスト(SDNリスト)に掲載。米国企業との取引を認めていない。
リストは米国以外の企業を直接拘束はしないが、米政府の反対が強いリスト掲載企業との取引は現実的に困難だ。ミャンマーの有力企業の多くがリストに掲載されており、ミャンマー投資の大きな障害となっていた。
「最後のフロンティア」といわれるミャンマーには日本や欧州の企業が競って進出するが、制裁が残る米国は出遅れている。13年現地生産を始めたコカ・コーラなど一部の例外をのぞくと、本格的な進出や投資を実施するところはわずかだ。米経済界には制裁の一層の緩和を求める声が強い。ミャンマーの大物経済人のリスト除外は、オバマ政権がその声に耳を傾けた結果とみられる。
「米国は今後リストのさらなる縮小に動く」とある外交筋は見る。昨夏、在ヤンゴンの米国大使館は主要な制裁対象企業を呼び、SDNリストから除外される方法を指南したという。中には麻薬売買や北朝鮮との武器取引などが疑われる企業もあるが、「単に軍政に近かったというだけの企業は遠からず制裁から外れる」(同外交筋)。
次にリスト除外が有力視されるのが不動産開発や、ガソリン販売が主力のマックスグループ率いるゾウ・ゾウ氏だ。起業資金確保のため日本に滞在した経験も持ち日本語も堪能。今春、仏アコーと共同でホテル運営に乗り出すなど海外企業と提携も始めており、「有力なパートナーとなり得る」(日系商社)。
米国内では特に人権団体の影響が強い議会で対ミャンマー制裁の緩和に慎重な意見も根強い。今月に入り、ミャンマー国内で多数派仏教徒から迫害を受けるイスラム教徒のロヒンギャ族が大量に周辺諸国に脱出するなど、火だねは尽きない。とはいえ米国が長期的にミャンマーへの関与を強めようとしているのは確かであり、米企業が大挙して押し寄せてくる日も近いかもしれない。(M)