変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     ○   (18:2/4)
 第5章 回帰     未
 第6章 収束     未
 第7章 決戦     未
 終 章          未
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第4章 《錯綜》  (続き 2/4)

「無礼であろう!」
親衛隊に引き立てられている王子は、手錠こそはめられていないものの、問答無用の連行であり、囚人の扱いを受けていることに憤慨していた。それでなくとも彼には不満が鬱積していたのだ。王は、王国を上げた行動を起こそうとしている。秘密裏に進められていて公表はされていないが、王子にもそんな雰囲気は伝わって来る。こういった国の一大事に、彼は蚊帳の外に置かれているから面白くない。最早子供ではない。王子としての役目をもらえば、それを果たす自信はあったし、そもそも王子不在では国威が高揚しないと彼は考えていたのだ。王子の取り巻きとて思いは同じであった。将来は王子と自分達が王国を運営するのだという自負もあった。兎に角自分を認めてもらいたい、自分の力を試してみたい、何をするのかも分からない段階でそんなことを考えている王子は、やはり幼いと言わざるを得ない。しかし、少年がそんな気持ちを抱くのは当然のことであって、それが放置されているというのは、王と王子の血の繋がりが問題なのか、それとも王家という特殊な家庭の中では、一般的な親子の気遣いは成されないものなのか。
「陛下の命なれば、大人しくされますよう。」
親衛隊が優しい口調でなだめようとしたが、それでも王子は納得しない。
「俺を幽閉するだと? こんなバカなことがあるか! 王を、親父を呼べ!」
王子の取り巻きも親衛隊に掴みかからんばかりの勢いで応酬する。
「そうだ! 王を呼べ! 王子を連行するのなら、お前達だけでは役不足だ!」
数では圧倒的に不利なはずの親衛隊は、少年達の罵声にも全く動じない。業を煮やした取り巻きの一人が、腰の短剣を抜いて凄んで見せた。
「そんな物を出して、どうされるおつもりか?」
短剣に一瞥をくれただけで、尚も動じない親衛隊に少年達は次の手を失った。
「陛下からは、丁重に扱うように、との命も受けております。我々もその命令に背きたくはありません。ご理解ください。」
 王子の体が恐怖心から硬直していた。彼が知っている幽閉とは、地下牢での拷問や不潔極まる監禁といった非人道的な行ないなのだ。親衛隊に自分をそんな所に連行するように命じておいて、丁重に扱えとはどういうことなのか、彼には理解が及ばなかった。そんなやり取りを王宮の者達が遠目で眺めていたが、騒ぎを聞きつけて宰相が走り寄って来た。
「貴様達! 王子をどこにお連れするつもりだ!」
国を預かる職務を担う者として、この事態を知らないでは済まされないという自負から、宰相の語調は珍しく厳しくなっていた。しかし、親衛隊の隊員はあくまでも冷静である。
「お応えする必要はありません。」
「何だと! 私を誰だと思っている? この狼藉は誰の目論見だ!」
「我々は親衛隊です。陛下の命によってのみ行動します。誰であっても、そう、宰相であるあなたであっても我々を止めることはできません。お分かりですね?」
宰相の出現に、状況の改善を期待していた王子の顔に落胆の色が現れている。怒声だけでなく武器まで取り出してしまった取り巻きの少年達は、やり場の無い怒りのはけ口を宰相でさえも用意できないことを知って、ただ立ち尽くすしかなかった。そんな雰囲気を鋭く感じ取った宰相は、自らの不甲斐なさを恥じて口調を一層厳しくした。
「いいだろう。陛下に直接確認することにする。貴様を親衛隊から罷免してやるから、そのつもりでいろ!」
精一杯の宰相の強がりに聞く耳も持たず、親衛隊は王子を連行していった。もう王子も抵抗を諦めたようだ。いや、少年には余りある恐怖のために、何も考えることができなくなったのだろう。見かねて宰相が王子の背中に語り掛ける。
「王子、ご心配なされますな。私が付いております。何かの手違いがあっただけのこと、すぐに元に戻ります。戻してみせます。」
宰相の言葉を背中に受け、王子は右手を上げて承諾を現した。しかし、振り向きもしないその素振りが、宰相が王に接見した後の結果を絶望視しているという本音までをも表現してしまっていた。

「陛下。あれはいったいどういうおつもりなのでしょうか? 王子を幽閉するなど・・・・・・。」
王室まで駆け上がって来た宰相は息が上がっていたが、それが親衛隊に邪険にされた怒りを若干落ち着かせたのか、口調はいつものように戻っていた。
「遅かったな。そろそろ来るだろうと思っておった。」
「何をお考えなので? 親衛隊を使っての狼藉、黙認するわけにはいきませんぞ。」
宰相の言葉を受けて、王はそこで立ち上がった。
「狼藉と言ったな? それが余に対して使う言葉か!」
この男に国王の威厳を学ばせて来たが、ここまで習得して見せるか、と妙な感慨を持ちながら、宰相は最後の手段を出すことにした。
「皇帝陛下の思惑、それと異なってはおりますまいな?」
国王に仕立て上げたとは言え、所詮は皇帝の謀略を担う一端でしかない男なのだ。そんな男がいったい何をしようと言うのか。いや、この男の思惑は明瞭だ。自分の保身を図っている。しかし、何故今になって保身を考える必要があるのか。二つしかない。皇帝の思惑が変わったか、あるいはこの男の変心だ。皇帝の思惑は変わるまい。変わったとしても、王国の宰相である自分抜きに進めるとは思えない。よって、この男が変心したと考えるのが妥当だろう。それを裏付ける言葉が王から発せられた。
「国は民のものだ。皇帝のものではない。余のものでもなければそなた達のものでもない。それに気付いたまでのことだ。」
「民は統治する必要があります。より良い統治こそがより良い国家を作り、ひいては民のためにもなるのです。皇帝陛下は、より良い統治の基礎を作ろうとなさっておられる。我々はその思想に共鳴してお手伝い申し上げているのですぞ! お忘れか?」
「そのためには、ブリテン王国の王族が犠牲になるのも仕方なし、というわけだな。」
王室の周辺がざわめき出した。宰相派の憲兵が王室を取り囲んでいるのだ。王室に上がるにあたり、憲兵の手配まで済ませているのは、この宰相もただの文官ではない。
「潮時、ですな。最後にお聞かせ願いたい。何故に変心された?」
「千数百年に渡って国を統治して来たという実績、貴公等は軽く考え過ぎているのだ。皇帝とて、ブリテンの王族に比べれば成り上がりに過ぎん。」
宰相は、ここで男を王として扱うのを止めて切り返した。
「何事にも『はじめ』があるもの。それを認められないとは、軽率な男よ。」
「貴公に軽率と言われようとはな。」
ククッと笑いを漏らした王は、あくまでも余裕の表情で続けた。
「さて、どうする?」
「憲兵をここに踏み込ませ、貴様を捕らえることにする。短い間ではあったが、王の役目、ご苦労であった。」
宰相の顔にも笑みがあった。憲兵という力を背景に持たせた自分に、自信を持っているのだ。
「余を殺しても、後は王子が継ぐぞ?」
「結構だ。所詮は子供のこと、我々が操ることが可能。心配はご無用だ。」
言い終えると宰相が笛を吹いた。憲兵に突入の合図を送ったのだ。
王室の扉を打ち破って憲兵が突入して来るのを想像していた宰相は、憲兵の邪魔にならないように部屋の隅にそそくさと移動したが、静寂が続くのに当惑した。再び笛を吹いてみたが、それは空しく王室にこだまするだけであった。相変わらず余裕表情の王とは対照的に、宰相の顔が引きつって行く。
「貴様、何をした?」
「貴公と同じことだ。王室は親衛隊が警護している。念入りにな。扉の向こうでは、親衛隊と憲兵が睨みあって両者とも動けない、ということだ。」
国の治安を守る憲兵と、王を警護する親衛隊。彼らが王室の外で睨みあっている。一人でも動けば、壮絶な銃撃戦が瞬く間に繰り広げられることだろう。その状況を想像するために暫し沈黙を持った後、宰相は不適な笑みを浮かべた。居直ったのだ。
「やるようになったな、貴様。」
王も負けずに切り返す。
「全て貴公から教わったことだ。」
「どうかな。如何に精鋭とは言え、親衛隊の数は限られている。対して憲兵の増派は容易だ。この現実、どうする?」
「コトが始まれば、親衛隊は確実に貴公を抹殺する。これも事実だ。」
今度は、永遠とも思われる沈黙が続いた。扉の外でも、誇り高き親衛隊のユニフォームに身を包んだ隊員と、憲兵の中でも優秀な者だけが抜擢される王宮憲兵隊が、呼吸も憚られる静寂さで対峙していた。各々の銃口の先に、自分に銃口を向ける相手を見据えて。それは、実はかつての部下や上官であったりと、知人関係の者も少なくなかった。このまま事なきを得たいという親衛隊や憲兵の本心は、王や宰相の判断に微塵の影響くらいは与えられるのだろうか。皆が極度に緊張していた。これ以上この状況が続けば、恐らく、偶発的に銃撃戦が始まってしまうだろう。物音一つでタガは外れ得るのだ。そうなった時、本心では拒んでいても、彼等は引金を引くことに躊躇しないだろう。惨劇の前の静けさに王宮さえもが震えるかのようであった。

<続きます。>

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