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アメリカのチップ文化

2022年05月17日 22時51分23秒 | 様々な話題

アメリカ旅行をした時、チップで悩まされた人は多いことだろう。

主にホテルの枕銭、
タクシーやレストランでのチップだが、
元々は
「良いサービスをしてくれたので、それに対しての感謝のしるし」
だったはずだが、
いつのまにか「権利」となっている風潮がある。

日本にはない習慣なので、
ついうっかり忘れることがある。
あるレストランでは、
代金を支払って外に出た後、
従業員が追いかけてきて、
チップを要求することがあったという。
そういう店には二度と行かないから、
逆効果だと思うが。

レストランだけではなく、
美容院で、
店員の方から
「今月から25%以上のチップがもらえることになりましたので、
それ以上のチップをお願いします」
と支払い時に言って来ることがあるという。
これでは、適正価格+強制徴収だ。

最近では、チェック(勘定書き)に
あらかじめサービス料として加算されている場合があるので、
それを知らずにチップをテーブルに置いたりすると、
二重で支払ったことになってしまうから注意が必要だ。
また、チェックに15%、18%、20パーセントの
チップの計算額が表示されて、
その中から選択するようになっているのもある。
チップ額を自分で記入して計算するようになっているものもある。

20パーセントといえば、
100ドルの食事をしたら、20ドルのチップ。
厨房から10mほどのテーブルまで料理を運び、
食事の途中に
「いかがですか?」
と聞いてくるだけの仕事に20ドルのチップはとうかと思う。
そんなことなら、
料理を作ってくれた料理人に支払いたい

たが、
娘がアメリカに留学していた時、
和食レストランでウェイトレスのアルバイトをしたことがあって、
その時の時給がわずか3ドルで、
あとはチップで補う、
という話を聞いて以来、
積極的にチップを支払うようにしている。

タクシーの時も面倒で、
メーターの数字を見ながら、
15パーセントの計算をするのは、かなり面倒で、
ポケットの中で密かにドル札を勘定したりする。
また、乗る前に小額紙幣を用意するのも必要。
その点、Uberは
乗る前に料金が分かっているし、
カード支払いで、金銭の授受はなく、
降車後、メールでチップの額を聞いてくるので、
適度な額を入力すればよく、
わずらわしさからは解放される。

ホテルの枕銭は、メイドさんの収入で、
わずか1ドル、2ドルのことなので、
旅行の初日にチップ用の1ドル札を
日数分、別に保管している。
部屋に入った時、
チップの有る無しで

メイドさんの一日がハッピーになると思うので、
こちらも積極的に置いている。
どこの国だったか忘れたが、
枕銭を置いて出かけて戻ると、
ちゃんとナイトテーブルにそのままの金額が置かれていた。
チップ制のない国だったらしい。

娘が日本のホテルでベルをやった時、
アメリカ人を部屋に案内すると、
チップをくれるので、
楽しみにしていたようだ。
日本ではチップの習慣はないし、
せいぜい、日本旅館に泊まった時、
仲居さんに心付けとして千円ほど渡すくらいだが、
その習慣もすたれつつあるようだ。

ロンドンで和食レストランに入った時、
テーブルの上に、
「当店は日本式なので、チップは不要です」
と書いた紙が置いてあって感心したものだ。

インドでアンバー城の坂道を象に乗って登った時、
最後にチップを要求され、
「地球の歩き方」に書いてあった相場を渡したら、
少ない、と文句を言われた。
後で見たら、下の乗り場には
「チップは渡さないで下さい」と書いてあった。

最近の記事で、
人気レストラン「フーターズ」で働くウェイトレスが、
一日のチップを合計したら、
382ドル(4万9千円)だった、という動画があり、
動画を見た人たちからは
「私は看護師だけど、あなたは12時間シフトの看護師よりも稼いでいるわ」
「僕はエンジニアだけど、この子は自分よりも稼いでる。
もう二度とチップはあげない」
とのコメントがあげられている。

アメリカでもところによって違い、
最低賃金に含まれるところと
チップは全くの余禄だというところがあり、
チップがなければ生活できないという人もいる。

元々は欧州の習慣で、
英国の飲食店で、
「To Insure Promptness(素早いサービスを約束します)」
と書かれた入れ物に客が金を入れたことから、
「Tip 」の名がついたとの説もある。
ただ、賃金の一部を客に委ねる雇用者のやり方に反発が生まれ、
欧州では1900年代初めまでに廃れていった。

米国には、19世紀ごろ持ち込まれ、
根強く残ったのは、
奴隷解放後、黒人に金を払うのを嫌った
飲食店などの白人雇用者が、
賃金を客からのチップでまかなおうとし、
南部を中心に定着した、という説がある。

最近では、チップ制度を
廃止しようという動きがある。

2014年前後から
ニューヨークやサンフランシスコなどの高級レストランでは、
チップ制を廃止する動きが始まった。
その背景には様々な理由があった。

1.サービスの質によってお客が金額を決めるチップ制では、
  従業員の収入が安定しないので
  固定給にした方が、人材が定着するであろう。

2.一部の悪質な店で、
  サービス要員に還元すべきチップを
  店側が横領していた例もあり、
  業界の透明性を高めたい。

3.客にしてみれば、
  チップ金額の計算が面倒なので
  チップ込みの金額の方が親切。

4.チップ制のない国からの訪問客が、
  チップを払い忘れるトラブルが増えていたが、
  これを避けるため。

ところが、これがうまくいかず、
静かに従来のチップ制に戻ってしまった。
それには2通りの原因があった。

1つは、従来のチップ分を固定給に上乗せしてしまうと、
所得税源泉徴収がされ、さらには社会保険料も引かねばならなくなり、
従業員からは「手取りが減った」という不満が出た。
また、高級店ほど、料理の価格が高いので、
当然チップの額も多く、
中には1千万円を越えるウェイターもいたので、
従業員の士気低下を招き、
結果的に「チップ制廃止店」では良い人材が集まらなくなってしまった

2つ目は消費者に与える印象。
チップの20%を固定給に上乗せするということは、
メニューの定価を20%上げなくてはならない。
例えば35ドルのステーキがいきなり42ドルになる。
客にとっては、チップを払わなくていいので同じことなのだが、
心理的に高くなったと思われて、
結果的に客足が遠のいてしまった。

というわけで、この「チップ制廃止の試み」は失敗し、
静かに多くの店でチップ制が復活した。
チップ込みの価格からは17%ぐらい値下げになるので、
お客からは歓迎され客足が戻った店も多かったという。

まあ、「郷の入れば郷に従え」で、
アメリカに行った時には、
チップ文化に協力するが、
日本で食事をすると、
食事代以外に支払う必要はなく、
本当に安心する。