空飛ぶ自由人・2

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映画『ヒッチコックの映画術』

2023年09月30日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

まず、断っておく。
「ヒッチコックの映画術」の題名だが、
↓の本とは無関係。

原題は「My Name Is Alfred Hitchcock」で、
配給会社が勝手に「映画術」とつけただけだ。

「映画術」は、
1962年にフランソワ・トリュフォー
ユニバーサル・スタジオの会議室で行った、
ヒッチコックへのインタビューが収録された本。
インタビューは1週間以上、
録音テープは50時間分に及び、
本書はその音源を書き起こし、
莫大な量の写真とともに
ヒッチコックのテクニックと映画理論を解説しており、
ヒッチコック研究のバイブルとなった。

特に、「サイコ」のモテル裏の屋敷での
階段シーンでのカメラの移動のさせ方など、
なるほど、そこまで考えてやっているかと、
驚倒したものだ。

そして、この本「映画術」の正統的映画化は
既になされている↓。

この映画は、
あの伝説的インタビューの録音音声を素に、
その非凡な撮影法や演出法を
書籍では不可能な動画を使って検証していく内容。
脚本、撮影、カメラワーク、照明、編集などを
丁寧に分析、解説。
監督はケント・ジョーンズ
それと共に、マーティン・スコセッシ、デヴィッド・フィンチャー、
ウェス・アンダーソン、ポール・シュレイダー、黒沢清ら
10人超の監督がヒッチコック映画の魅力を語る。

とにかくトリュフォーのヒッチコックに対する尊敬の念
半端ではない。
無声映画時代を含め、
ヒッチコックの全作品を観て、
細かい部分まで詳細に記憶し、分析し、
技法に対してポイントを外さない質問をし、
その質問の的確さを喜ぶヒッチコックが
鷹揚にユーモアを交えて答えていく。
インタビュアーとしてのトリュフォーの引き出し方が完璧だ。
二人の間の師弟ともいえる関係が麗しい。                     
映画の題名は「ヒッチコック/トリュフォー」で、
「映画術」という言葉は使われていない
元々「映画術」そのものが、
書籍の原題(「Hitchcock/Truffaut」)ではなく、
日本の出版社がつけたものなので、
映画配給会社は、
映画の原題(これも「Hitchcock/Truffaut」)を尊重して、
その名前を付けるの避けたのだと思われる。

そこへ、本作はぬけぬけと「映画術」と付けた。
しかも、似ても似つかない内容で。

映画批評の役割は二つ。
「観た方がいい映画と観なくていい映画」を峻別して
読者に提供すること。
もう一つは、埋もれた良い映画を掘り起こして紹介すること。

本ブログでは、「批評」や「感想」ではなく、
「映画紹介」と謙虚に表記しているが、
その映画批評の姿勢は貫いているつもりだ。
だだ、悪い映画は紹介しない。
というのは、
わざわざ映画の観客を減らすようなことはしない、
という基本姿勢があるからだ。

だが、たまに、
「こんな映画は観ない方がいい」
と警鐘を鳴らしたくなる作品が時々出て来る。

本作「ヒッチコックの映画術」がそれ。

1922年の初監督作「第十三番」から
100周年にあたる2022年に企画された
英国発のドキュメンタリー。
監督は「ストーリー・オブ・フィルム111の映画旅行」のマーク・カズンズ

サイレント時代の初期作品の映像をふんだんに使用しているのはいいが、
「逃避」「欲望」「孤独」「時間」「充実」「高さ」
という6章構成がまず意味不明であるだけでなく、
深く踏み入ったとはいえない。
なにより、
語り手がヒッチコックであるということが問題。
もちろん故人であるから、
本人であるはずがなく、
物真似が得意な俳優アリステア・マクゴーワンがナレーションを務めている。
だが、“ヒッチコック自身が語る”テイで作られているのは、誤解を与える。
ヒッチコックの著作から引用しているのなら
まだ許せるが、
語る内容は、マーク・カズンズの偏った独断、
もっといえば「ご託宣」の内容に過ぎない。
そのご託宣をヒッチコックに語らせるとは、
どうかしている。
いや、あくどいと言った方がいい。

そして、素材が少ないせいか、
ヒッチコックの同じ画像が何度も使われる。


ヒッチコックの写真などいくらでもあるのに、
集める努力さえしていないとしか思えない。

ヒッチコックが語るとされるナレーションも
ユーモアのかけらもない
監督は「ヒッチコック劇場」のユーモアあふれる解説を
観ていないのだろうか?

なによりヒッチコックに対するリスペクトが感じられない
これが一番問題だ。
非凡な監督の手法を分析するには、
この監督は平凡すぎた。
いや、平凡以下の“才能なし”だ。

ただ、本作を観て分かるのは、
ヒッチコックという人は
俳優に恵まれていたんだな、ということ。
イングリッド・バーグマン、
ジェイムズ・スチュアート、キム・ノヴァク、
ジャネット・リー、アンソニー・パーキンス
ケーリー・グラント、グレース・ケリー、
モンゴメリー・クリフト、ショーン・コネリー
ドリス・デイ、ヘンリー・フォンダ、
ティッピ・ヘドレン、エヴァ・マリー・セイント、
ポール・ニューマン、ジュリー・アンドリュース、など
きら星のごとくスターたちがヒッチコックの映画には登場するのだ。
それも若い頃の。
それだけは眼福だった。

5段階評価の「2」

 


映画『ファンタジア2000』

2023年09月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[旧作を観る]

4日前に「ファンタジア」のことを書いたが、
その時、ディズニープラスで検索したら、
「ファンタジア2000」という作品が
並んで表示された。


おや、こんなものがあったとは。
そこで、ディズニープラスで視聴。

「ファンタジア2000」は、
「ファンタジア」(1940)の続編、とされている。
題名からして、そうだね。
ウォルト・ディズニーの甥ロイ・エドワード・ディズニー製作総指揮、
ジェームズ・レヴァイン指揮、シカゴ交響楽団演奏による、
IMAXシアター向けに製作されたアニメーションで、
日本では2000年1月1日から、
全国4館のIMAXシアターで公開され、
IMAX映画としては驚異的な興行記録を樹立した。

構成は、次のとおり。

1 .ベートーヴェン「交響曲第5番・運命」(2分54秒)

「ファンタジア」の冒頭の「トッカータとフーガ」同様、
音楽から触発されたアニメーターのイメージ。
第1楽章中間部を丸まるカット。

2.レスピーギ「交響詩ローマの松」(10分14秒)

海と空を舞うクジラの群れを描いた極地の情景。
第2部「カタコンブ」をカット。

3.ガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」(12分34秒)

ニューヨークのとある一日を描いた物語。
曲は短縮版。

4.ショスタコヴィッチ「ピアノ協奏曲第2番」(7分26秒)

アンデルセンの童話「錫(すず)の兵隊」。
8曲中、最も曲の編集が少ない。

5.サン=サーンス「動物の謝肉祭より終曲」(1分57秒)

「フラミンゴにヨーヨーを与えたらどうなるか?」というアニメーション。

6.デュカス「魔法使いの弟子」(9分17秒)

旧作「ファンタジア」の一篇をデジタルリマスター版で復活。

7.エルガー「威風堂々」第4番・第2番・第3番・第1番(6分22秒)

旧約聖書の中のノアの方舟をもとにした物語。
ドナルドダックが主役。
曲の並べ替えがある。
合唱とキャスリーン・バトルの独唱を追加。

8.ストラヴィンスキー「火の鳥」(9分13秒)

自然の誕生、滅び、復活を描いた壮大な作品。
各曲を編集、短縮。
王女達のロンド→カスチェイの魔の踊り→子守唄→終曲

1940年オリジナル公開版は126分。
アニメーションとしては長すぎる、
という前作への批判をうけてか、
2000年版の上映時間は75分と短くまとめられている。
なので、えっ、もう終わり、という感じ。

ところで、「おや、こんな作品があったとは」と書いたが、
私の映画観賞記録を調べると、
2000年1月9日に、
東京アイマックスシアターで観た、とある。
しかし、記憶がない
再見したが、
ひとかけらも憶えていなかった
1940年版の「ファンタジア」が
全場面鮮明に憶えているのと比べると、
それだけ出来が浅かった、ということか。

 


クールジャパン

2023年09月28日 23時00分00秒 | 様々な話題

日本人には当たり前のことでも、
外国人が見ると「クール」に見える、
ということが沢山あるようですが、
そんな「日本のクール」を紹介。
そういった記事はネットに山ほどある中、
鴻上尚史の「クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン」
(講談社現代新書)の内容を紹介。
鴻上尚史といえば、作家・演出家で、
NHK BSの番組「cool japan」の司会者だった人。
2009年10月に放送した100回記念番組の時に、
世界各国100人の外国人にアンケートを取り、
「これはクールだ」と思ったものをあげてもらった
ベスト20

解説文はブログ筆者によるもの。

1位 洗浄器付き便座

いわゆる「ウォシュレット」。
しかし、これは商品名。

外国人は日本のホテルでこれに遭遇して、
驚くようです。
その結果、買って帰ることに。

私自身、昔行ったハウステンボスのホテルで
ウォシュレットに出会って驚愕。
直ちに購入して、家に設置しました。
紙で拭くのではなく、
水(しかも温水)で洗浄してくれるなんて、
何たる清潔、何たる便利。

中近東などでもトイレには、
尻を洗うための水が出るホースがありますが、
ホースを手に持たなければならない。
不潔。

それを、水の噴出口を便器の中に装着して、
ボタン一つで水が出るようにしたところが、
日本人の工夫。

インド人は便所にコップに入れた水を持ち込み、
お尻を洗いますが、
これに使うのが左手。
だから、左手は不浄の手とされています。
インドに行ったら、左手に注意。
インド人が日本に来て、
寿司職人が寿司を握るのを見たら、
どう思うのか、一度聞いてみたい。

テレビの番組で、日本在住の外国人が
里帰りの時、日本のものを持っていく、
というのがありますが、
その時、持っていくものに、
この洗浄器付き便座が多い。
やはり、日本に来ての驚きは、これが一番らしい。

この洗浄器付き便座、中国などでは
富裕層を中心に普及が進んでいますが、
欧米で普及が進まないのは、
火傷をした時の裁判が怖いからだという話を聞いたことがあります。
なにしろ、マクドナルドでコーヒーをこぼして火傷したのを、
お湯が熱すぎたからだと因縁をつけて、
億単位の賠償金を取る国ですからね。

2位 お花見

日本の桜は外国でも有名で、
桜の時期に合わせて日本に来る人がいるくらいです。
桜の季節になると、
何だか心の中がザワザワしてしまうのが日本人。
もはや伝統文化といえるでしょう。

3位 100円ショップ

「安物買いのゼニ失い」と言ったのは、
はるか昔の話。
今は、100円で高品質な生活用品が買える。
外国人にとっても安いようで、
100円ショップで外国人の姿をよく見かけます。
アメリカやヨーロッパにも
1ドルショップや1ユーロショップがありますが、
品揃えが違う。
しかも、次から次へと新製品が出て来る。
これも、日本人の工夫の力でしょう。

4位 花火

打ち上げ花火は、日本は世界一の水準。
よく仕組まれた花火の数々が
夜空を飾る様は、外国人にも驚異。

また、手持ち花火も驚きらしく、
特に線香花火は「わび・さび」の表現と受け止められるらしい。
そういえば、外国映画で、
子供が手持ち花火で遊ぶ場面は見たことがありません。

5位 食品サンプル

合羽橋道具街で食品サンプルを売るお店は、
外国人用の観光ガイドブックに載るようになりました。
色付けされた蝋で表現された
本物そっくりの食品サンプルは、
まさに職人芸。
外国人にとっては驚きです。

6位 おにぎり

日本のコンビニは世界一だと言われています。
豊富な品揃えの中でも、おにぎりに注目。
具がツナマヨネーズやベーコンとチェダーチーズ
というように好みは日本人と違っていますが、
手軽に求めて、すぐ食べられる和食として人気。
1→2→3と開ける手順も魔法のよう。

7位 カプセルホテル

カプセルがずらりと並んだ風景が
外国人にはインパクトがあるらしい。
昔は劣悪なものもありましたが、
今は設備も向上し、
安心して使えるようになりました。

私も1年ほど前、名古屋でカプセルホテルを初体験。
よく工夫された仕様に感心させられました。

3000円ほどで一泊できるなら、
ホテルを「寝る場所」と割り切る人にはリーズナブルでしょう。

8位 盆踊り

毎年、夏になると、団地の広場で開催される盆踊り。
流れるのは「お富さん」や「東京五輪音頭」。
いつ無くなるかと思いつつ、既に数十年。
なくならない。
どうやら、日本の伝統的文化行事の一つのようです。

外国人には物珍しいようで、
やぐらを囲んで輪になって踊るのが、
たまらなく魅力的に映るらしい。

南米やアジアの日本人街でも
盆踊りが開催されているといいます。
やはり日本人のDNAに潜む何かなのでしょう。

9位 紅葉狩り

春は桜、秋は紅葉。
これも日本人の感性がなせるわざで、
外人には、「花はまだ分かるが、葉っぱなんか見て、何が嬉しいのか」
と理解できない人も多いと聞きます。
しかし、比較的日本滞在の長い外国人の中には、
黄緑、黄色、赤と様々な色に変わる秋の葉の風景を
綺麗だと思い始める人も増えているらしい。

夏に来た外国人は蝉の鳴き声を聞いて、
何という騒音、と思うそうで、
秋、虫の声にわび・さびを感ずる日本人の感性は
理解の外に違いありません。

10位 新幹線

初めて乗った外国人は、
スムーズな発車、
揺れが小さく快適なことに驚くらしい。
更に、時間に正確なこと、
事故が極端に少ないこと、も。
中国や台湾、韓国、英国の高速鉄道も乗りましたが、
快適さは、まさに世界一。

11位 居酒屋

似たものにイギリスのパブがありますが、
食べ物の豊富さで比較になりません。
なにしろ、魚も肉もご飯も何でもござれ。
洋食のパスタやカレーまで守備範囲が広い。
その上、ビール、日本酒、ワイン、ウィスキーなど、
酒の種類も豊富。
更に、安い。
こんなお店は外国にはありません。

12位 富士山登山

エベレストやモンブランに登るのとはわけが違う、
庶民の登山経験。
しかも、日本一高い山。
外国人が見て美しさだけでなく、
登ってみたい、
と思うのも当然ですが、
最近では軽装など、装備不足も目立つ。
ただ、帰国後の自慢話にはなるようです。

13位 大阪人の気質

こんなことまで外国人は分かるか、
と思うが、
大阪人のボケのノリのよさが驚かされるという。
不思議。

14位 スーパー銭湯

最近、温泉に入りたがる外国人が多いらしい。
外国では、シャワーと浅いバスタブ。
それがお湯たっぷりの温泉で
身体を延ばす快感にめざめたのか。
それにしても、全裸で人と一緒に入浴する習慣がないはずなのだが・・・

スーパー銭湯は、遠出しなくても、
都会で温泉気分が味わえるのがいい。

15位 自動販売機・コンビニ

世界中で、自動販売機が町中に置かれているのは日本だけ。
外国ではホテルのロビーやショッピングモールなど屋内。
ところが、日本は、町にちょっとした隙間があれば、
自動販売機が置かれる。
日本にこれだけ自動販売機が多いのは、
もちろん、治安がいいから。
外国では、道端に自動販売機があったら、
一晩で壊され、中の商品とお金を奪われる。

それと、品物の豊富さ。
飲物だけでなく、アイスやパン、お菓子も売っている。
温かいうどんが出て来るものもある。
しかも、故障が少ない。

アメリカでもヨーロッパでも、お店が近くにないと、
水ひとつ簡単には買えない。
時間が遅く閉店している場合は、手に入れることは絶望的。
なのに、日本では、街角で買える。

当たり前で日本人は気付いていないのだが、
どれだけ便利な国なのか。

コンビニも便利そのもの。
近くにコンビニがある限り、
深夜でもたいていのものは手に入る。
電球も電池もアルコールもタバコもノートも。
ニューヨークでもロンドンでもパリでも、
こんなものが深夜に手に入る都市はない。

なお、コンビニのサンドイッチも世界一。
外国でサンドイッチを食べた人は、
パサパサしたパンと貧弱な具に驚いたことでしょう。
あんなもので満足しているのか不思議でなりません。

16位 立体駐車場

立体駐車場とは、
建築物や機械装置によって
駐車場を多層化または立体化した駐車場のことをいいます。
それは、価格の高い地代を節約するために
上に伸びたのですが、
外国人には、すごい新鮮に映るらしい。
しかも、コンピューター制御で
自分の車が出て来る仕掛けも驚く。

17位 ICカード

代表的なのが交通系カード。
外国では、電車の乗るのには、
チケットやコインを買わなければならない。
1週間使用可能のカードもありますが、
使い勝手が悪い。
目的駅までの料金を調べる必要もなく、
タッチ、タッチで精算できるのは、
ものすごく便利。
しかも、それで買い物もできる。

18位 ニッカポッカ・地下足袋

Knickerbockersは、膝下で締まるゆるい半ズボン。
裾が邪魔にならないので、狩りやゴルフなどで使われてきましたが、
日本では鳶の作業着として定着。
基本的にはひざ下まで丈があるゆったりとしたズボンのことを言い、
裾の部分を足袋の中に入れて着用します。
このスタイルが外国人にはカッコよく見えるらしい。
分からないものですね。

19位 神前挙式

神社で行われる日本古来の伝統的な挙式スタイル。
神職と巫女に導かれての入場、
御祓い、祝詞奏上、三々九度の盃、
誓詞奏上、玉串拝礼、巫女の舞
などが外国人の目には新鮮に映るらしい。
衣装・ 髪型も魅力的。

20位 マンガ喫茶

昔、喫茶店には、週刊マンガ雑誌が必ず置かれていました。
今は、不朽の名作から最新作まで、
コミック数万冊、雑誌常時100タイトル以上を品揃え。
その上、パソコンを使え、ゲームもでき、
個室、ペアルーム、
ドリンクバー、シャワー、バスルーム、食べ物があり、
宿泊が可能。
こんなの外国にはありません。


こうしてあげてみると、
日本独特に進化した様々な文化形態であると分かります。


小説『運び屋円十郎』

2023年09月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

江戸末期の特殊な職業の話。
その職業とは「運び屋」
秘密の品物をA地点からB地点に運んで、
収入を得る。
たとえば、
「丑三つ。小伝馬千代田稲荷。
 暁七つ。赤坂氷川明神」
と指示されると、
午前2時頃、千代田稲荷の指定場所でブツをピックアップし、
午前4時頃、氷川神社の指定場所にブツを置いて、
使命完了。
「根津権現、立ち木の虚(うろ)、
 玉池稲荷、祠(ほこら)の裏。
 丑三つまで」
などという細かい指定もある。
というか、こういう細かい指定でないと困るだろう。

難易度が「松」「竹」「梅」で指定される。
「松」は危険度が高いが、謝礼も高い。

また、〈運びの掟〉というのがあって、
一つ、中身を見ぬこと。
二つ、相手を探らぬこと。
三つ、刻と所を違えぬこと。
というもの。
つまり、誰から誰に対して、何を届けるのかは、
運び屋自身も知らない。
というか、知ってはいけない。
それが身の安全だ。

その元締めが船宿「あけぼの」の主、日出助(ひですけ)。
実は、主人公の円十郎の父・半兵衛が、この船宿にやっかいになっている。
半兵衛は、柳雪流躰術の指南で、
息子の円十郎に躰術をたたき込んだ。
妻の死後、道場を開くが、経営に失敗、
身体を壊して、父子で日出助の世話になっている。

この円十郎(18歳)の「運び屋」の仕事のあれこれを描く中、
敵にブツを奪われそうになる事態が出来する。
とういうのは、「引取屋」というのがいて、
「運び屋」の運ぶ秘密の物を手に入れるのが仕事という一団。
「運び屋」にとって決して許されないのは、
荷を奪われること。
だから、「引取屋」との闘争は熾烈だ。
それに「風」と呼ばれる、世間の情報を集める係もいる。

これに、水戸藩士の青木真介との友情、
茶屋の娘・理緒との恋心、
「あけぼの」の女中のお葉、
「引取屋」の達人・兵庫の動きなどがからむ。
幕府隠密の「幽世」
船頭の才蔵、野良猫のヒメ、父・半兵衛との関係もある。

動乱の幕末で、尊皇と攘夷の暗躍が背景にあり、
水戸藩の志士による桜田門外の変、
井伊直弼の暗殺も起こって来る。
吉田松陰の処刑、
新撰組を作る前の
若かりし近藤勇、土方歳三、沖田総司らも登場する。

「運び屋」という珍しい職業、
幕末の乱世、
実在の人物など、
面白くなる要素はたくさんあるのだが、
意外と胸踊らないのは、
「運び屋」の仕事そのものが、
物語の展開にうまく絡んで来ないからだろう。
せいぜい、井伊直弼を殺した短銃というくらい。
あとは、友情、恋愛、父子の因縁などは、
ありきたりの域を出ない。
驚きがないのだ。

著者の三木雅彦は「新芽」でオール讀物新人賞を受賞、
本書が最初の単行本となる。
中学生のとき初めて読んだ時代小説が藤沢周平の「蝉しぐれ」だという。

「運び屋」という題名で、
2018年ののアメリカ映画がある。


監督と主演はクリント・イーストウッド。
もちろん、本書とは無関係。


映画『ファンタジア』

2023年09月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[旧作を観る]

舞浜のシネマイクスピアリに、↓のチラシがあった。


ディズニー創立100年を記念しての回顧上映。
その最終日、10月29日に「ファンタジア」が上映されるという。


観にいこうか、と思ったが、
考えてみれば、2008年の回顧上映の時も行っている。
なにより、ディズニープラスで何時でも観ることが出来る。

で、ディズニープラスで観てしまった。
久しぶりだったが、堪能した。
つくづく本当に素晴らしい。

ディズニー1940年の作品。
「白雪姫」「ピノキオ」の次の長編3作目で、
こんなものすごい映画を作った。
クラシックの名曲をアニメーションでイメージ化するという、
斬新なアイデアを
83年も前に実行した、このすごさ。
しかも、史上初のステレオ音声方式だ。

音楽演奏は、レオポルド・ストコフスキー指揮
フィラデルフィア管弦楽団。

オーケストラによるクラシック音楽をバックとした、
アニメーションによる、
次の8編の物語集。

1.バッハ「トッカータとフーガ」(9分22秒)

音楽を聴いてアニメーターが自由に発想した映像。

2.チャイコフスキー「くるみ割り人形」(14分12秒)

森の中の様々な草花や妖精によるダンス。
最初の2曲はカットされ、


曲の順序も一部入れ替わっている。
金平糖の踊り→トレパーク→アラビアの踊り→中国の踊り→葦笛の踊り→花のワルツ
が、映画では、
金平糖の踊り→中国の踊り→葦笛の踊り→アラビアの踊り→トレパーク→花のワルツ
もうこの「くるみ割り人形時」の部分で魂が抜かれる。

3.デュカス「魔法使いの弟子」(9分17秒)

ミッキー・マウスが師匠の魔法使いの魔術を悪用して叱られる話。
一篇の短編映画としても楽しめる。

4.ストラヴィンスキー「春の祭典」(22分28秒)

地球創世期~生命誕生~原生動物から多細胞生物の誕生、魚類、上陸
などの後、恐竜の登場と異常乾燥による絶滅までが描かれる。
原曲の一部がカットされた上、順番が一部入れ替えられている。

5.ベートーヴェン「田園交響曲」(22分00秒)

ギリシャ神話のオリンポスの神々のたわむれ。


第4楽章以外は短縮されている。

6.ポンキエッリ「時の踊り」(12分13秒)

カバや象、ワニや鳥による滑稽なダンス。

7.ムソルグスキー「はげ山の一夜」(7分25秒)

夜、悪魔の出現で人々の魂が奪われる。
しかし、教会の鐘の音で救われる。

8.シューベルト「アヴェ・マリア」(6分27秒)

教会へ向かう人々の行列を美しいイメージで描く。
歌詞は、本来ドイツ語のものを英語に直している。

11人の監督、120人以上のアニメーター、103人編成のオーケストラなど、
投入されたスタッフはのべ1000人、
描き上げられた原画100万枚、
録音テープ(光学録音フィルム)の長さ42万フィート
(そのうち映画の中で実際に使用されたのは1万8千フィート)、
制作期間3年、と前例のないスケールでの製作となった。

1940年11月13日にニューヨークの
ブロードウェイ・シアターで封切されたが、
評価は微妙なところだった。
「田園」と「春の祭典」に対しては
「作品の本来のイメージとはかけ離れている」という批判が集中した。
従来からのディズニー映画のファンですら
作品に戸惑いを見せたという。
さらに、この作品を上映するのに必要な音響装置にかかる費用が膨大だったため、
上映できる映画館が限られていたこともあり、
始めから収益面では期待できず、
莫大な制作費を掛けたものの
全く採算が合わずに大赤字となった。
もっとも、ウォルトは「タイム」のインタビューで
「これは私が死んでからもずっと楽しんでもらえる作品だ」
とコメントしている。
事実、ウォルトが亡くなって3年後の1969年に再上映されて以来、
ようやく商業的にも成功した作品となった。
公開当時は戸惑いをもって受け止められたが、
やがてディズニーの財産となり、
リバイバル上映、ビデオ化で莫大な利益をもたらした。
なお、ウォルトはこの「ファンタジア」を
公開するたびに曲を入れ替える「演奏会形式」を目指していたが、
これは実現できなかった。

日本公開は大戦後の1955年9月23日。
戦争のために、
日本の観客は15年も待たされたのだ。

私が初めて観たのは、
1961年3月29日。
中学1年生の春休み。
場所は新宿松竹名画座。
今の新宿ピカデリーの場所にあった小さな地下劇場。
入場料は60円(学生料金) 。

当時、中学生が繁華街でうろうろしていると補導の対象になったので、
母に連れて行ってもらった。
名画座だから2本立てで、
併映は「黒いオルフェ」
(マルセル・カミユ監督。1959年度アカデミー外国語映画賞受賞) 


というのだから、
思えば私の親は良い教育をしてくれたものです。

なにしろ、クラシック音楽など
「乙女の祈り」と「魔王」しか知らない中2のガキ。
オーケストラなんか聴いたこともない。
交響曲という種類の音楽があるなど、存在も知らない。
そういう子供に音の洪水とイメージの洪水。
カルチャー・ショックでした。
私のクラシック音楽の原点となった。
特に「くるみ割り人形」の美しさ、
「春の祭典」の地球の生命の歴史、
「田園」の牧歌的楽しさ、
「はげ山の一夜」の不気味さなどが、
子供心に残った。

私が松竹名画座で観た時は
変わった上映方法をしており、
当時開発されていた「スーパースコープ」という方式を使って、
一部をワイド画面で上映
たとえば、「春の祭典」の
地殻変動が起こるシーンで、
突然画面は左右に広がる。
画面は歪むが、スケール感が出た。
1962年9月30日に渋谷の東急名画座で観た時も
同じだったから、
当時は、そういう上映方式で統一していたようだ。
映写技師は大変だったろう。

本来の方式ではないので、
その後のリバイバル上映では
その形では見られなくなった。

この話は、Wikipedia にも載っていない。

その後、ディズニーは録音し直してデジタル化。
ストコフスキーの指揮ではなくなったが、
聴きやすくなった。

35年ほど前に舞浜のNKホールで生演奏で上映したことがあった。
指揮者はイヤホーンで原音を聴きながら
画面とオーケストラをシンクロさせた。
これには家族で出かけた。
山本一力夫妻も一緒だった。

ビデオ化された時、真っ先に買ったのはいうまでもない。

今度久しぶりに観て、
隅々まで記憶にあったので、驚いた。
本当に歴史に残る名作とは、そういうものだ。