空飛ぶ自由人・2

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映画『セーヌ川の水面の下に』

2024年06月16日 23時01分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「ジョーズ」以来、いろいろなバリエーションのあるサメ映画だが、
今度のアイデアは、
パリのセーヌ川がサメに占拠される、というもの。

海洋生物学者ソフィアは、
大西洋上でサメの生態を研究中、
サメの襲撃を受けて夫と仲間を失ったのが
トラウマになっていた。

この冒頭場面の映像、なかなかいい。

3年後、ソフィアは、
環境保護団体メンバーの若い女性ミカから
驚くべき情報提供を受ける。
3年前にソフィアが北太平洋で追跡調査を行っていたアオザメが、
なぜかセーヌ川にさまよい込んでいるというのだ。
確かに、サメに着けられたビーコン(位置情報を知らせる小さな電子機器)
からの信号は、
セーヌ川に問題のサメ、リリスが迷い込んだことを示していた。

気候変動やプラスチックごみによる海洋汚染がもたらした生態の変化により、
リリスと名付けられたアオザメは巨大化し、
セーヌ川の淡水に適応したらしい。

ソフィアと水上警察は、
ビーコンの信号をパソコンで確認しながら
サメの捜索を繰り広げるが、

協力者と思われた環境活動家のミカが暴走する。
人命よりもサメの命、動物保護を最優先とする
ミカの常軌を逸した行動が、
とんでもない災いを招いてしまう。

水質汚染が問題視され、
市民の遊泳が禁止されているセーヌ川の水面下の
濁った視界不良の映像がリアル。
パリの地下に、カタコンベと呼ばれる地下納骨堂があるのは、
初めて知った。(創作か?)
その地下貯水池とセーヌ川がつながっているという意外な事実。


しかも、そこでリリスは新種と化して無性生殖をし、
子どもを産み増やし、
地下納骨堂はサメの巣になっていた。

折しもパリは、
オリンピックのプレイベントである
トライアスロン世界大会の開催日を間近に控えており、

市長はソフィアからの警告を無視して大会を強行する。
セーヌ川を泳ぐ選手たちにサメが迫る・・・

花の都・パリのセーヌ川にサメが侵入する、
というアイデア。
ニューヨークのハドソン川、ロンドンのテームズ川、
東京の隅田川にサメが入って来た、という話と同じだ。
どうして誰も思いつかなかったのだろう。

こういう話は、たいていサメが退治されて終わるのだが、
本作はそうはならない。
サメが短期間(あきれるほど短期間)に増殖し、
セーヌ川にあふれ、殺戮の限りを尽くし、
警察の撃った銃弾が川底の第2次世界大戦時の不発弾に当たり、
(こんなに不発弾が?)
次々と爆発、川が破壊され、
津波(何故だ)が襲い、
パリは水没する(何故だ)・・・

それにしても、7月のパリ・オリッピック前に
こんな映画作られるとは。
エッフェル塔をはじめ、
セーヌ川岸の様々な建物、名所が画面に写り込む。


他の場所でロケしたか、
CG合成かは不明だが、
セーヌ川でロケさせたとしたら、
よく撮影許可が降りたものだ。

ソフィアを演ずるのは、
「アーティスト」(2011)で米アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、
「ある過去の行方」(2013)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞した
ベレニス・ベジョ
監督を務めたのは、ザビエ・ジャン

エンドクレジットの背景の地図で、
ロンドン、ニューヨーク、バンコック、東京が
サメに浸食されるのが示される。
考えることは同じか。

6月5日からNetflixで配信。

 

 


映画『碁盤斬り』

2024年06月04日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

古典落語の人情噺「柳田格之進」を元にした時代劇。

浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられて
故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、
江戸の貧乏長屋で暮らしていた。


印鑑彫などで糊口をしのいでいたが、
唯一の楽しみは囲碁
実直な格之進は、囲碁にもその人柄が表れ、
それに惚れ込んだ両替商・萬屋源兵衛とも深い親交をしていた。


しかし、月見の晩、源兵衛の家に招かれた格之進は、
五十両の金を盗んだ嫌疑をかけられてしまう。
身の潔白を証明するために切腹しようとするが、
娘のお絹にいさめられ、
お絹が吉原に身を沈める代わりに、
五十両金を用立て、姿をくらます。

この本来の落語「柳田格之進」の話に、
格之進が彦根藩を追われたいきさつ、
冤罪を作った人物への復讐の話がからむ。
旧知の藩士により、彦根藩での冤罪、
格之進の妻を凌辱し、入水自死する原因を作ったという真相を知った格之進は、
妻への仇討ちとして、その男を探す。
男の足取りを捕えた格之進は、
ついに、対決するが、
その方法は、囲碁での勝負というものだった・・・

実は、私は落語「柳田格之進」は、
「中村仲蔵」の次に好きな落語の演目。
へんな改変をしていないかと心配したが、
源兵衛との交流など、
大変ていねいに作られていて、安心した。
脚色は加藤正人で、
「碁盤斬り 柳田格之進異聞」という小説にもしている。


この本、図書館で探したが、蔵書になかった。

監督は白石和彌だから、人間描写も的確。
格之進を演ずるのは、草彅剛
娘お絹を清原果耶、源兵衛を國村隼、
身請けする女郎屋の女将に小泉今日子という顔ぶれ。


この女将の部分には、「文七元結」も顔を出す。
中でも出色なのは、草彅剛で、
穏やかで実直で善良なる部分と、
阿修羅のごとき怒りと復讐の炎がほとばしる部分の両方を
うまく演じた。
江戸時代のある武士の典型を演じており、
物語の骨幹をささえる。
いつの間にか、こういう役をやれる俳優に成長していたんだね。

私は将棋も囲碁もやらない。
囲碁のルールを知らなくても鑑賞のさまたげにはならないが、
源兵衛の下で働く弥吉が囲碁を教わるエピソードがあるのだから、
囲碁の基本ルールを触れておけば、
それ以降の碁盤上での勝負に対する興味が増したのではないか。

柳田のために追われた家臣たちに
探幽の絵を売ってできた金を配る、という話が最後に出て来るが、
少々不明瞭。

時代劇は、武士としての矜持を通じて、
人間の高潔な精神を描くことが出来るから、好きだ。
この一篇も、そのようなものを描いて、胸を撃つ。

5段階評価の「4. 5」

拡大上映中。

 


映画『ミッシング』

2024年05月31日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

静岡県・沼津市で起こった6歳の幼女・美羽の失踪事件。
公園から一人で帰る数百メートルの間に消息を絶った。
マスコミで取り上げられるが、
3か月も経つと、世間からは次第に忘れ去られようとしていた。
母・沙織里と父・豊は、
駅頭でチラシを配り、情報を集めようとするが、
世間の関心は薄くなるばかり。

そして、沙織里と豊は、
あらゆる中傷にさらされる。
世間の悪意の噴出口・悪魔の凶器・SNSは、
その日、ライブに行って
幼い娘を弟に預けた両親を“育児放棄”“自業自得”と非難する。
弟・圭吾は犯人だと疑われ、
無理やり取材を受けたテレビでは、
幼女と別れた後の足取りが嘘だと疑われる報道がされる。
取材カメラマンも、「あいつが犯人だな」と予見する。

沙織里と豊は、温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。
未熟な母親は、鬱憤を夫や老母にぶつけ、喚き散らす。
沙織里の言動は次第に過剰になり、
心が崩壊していく。

そうした夫婦の状況と並行して、
唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田の視点が描かれる。
真実を報道したいという砂田に対して、
上層部は視聴率獲得の為に、
圭吾に対する世間の疑惑を煽るような取材を指示する。
警察からの電話を装って、
娘が保護されたというイタズラ電話をかける人もいて、
世の中の悪意が被害者家族を集中砲火浴びせる。

娘が失踪し、てがかりもなく、
出口のない闇に突き落とされた家族の苦悶が
周囲の状況を含め、大変ていねいに描かれる。
脚本・監督は、吉田恵輔
傑作「空白」でも思ったが、
この人のオリジナル脚本は細部にわたり配慮が行き届いている。
そして、演技陣。
今までのイメージを一新させる
体当たりで挑んだ石原さとみの新境地の演技。


人間的に未熟でありながら、
娘を取り戻したい母親の苦悶をあますところなく演ずる。
沙織里の夫・豊役の青木崇高
沙織里を持て余しながら、冷静であろうと努力する夫を活写する。


弟・圭吾の森優作も存在感のある演技。


更に、テレビ局記者の中村倫也
記者の矜持と上層部の誤った方針との間で苦悩する姿を的確に演ずる。

同僚がスクープし、東京のキー局に引きぬかれるなど、心中は複雑だ。


それ以外の俳優は知らない役者だが、
端々でリアルさを発揮する。
警察の相談窓口の隣で声高に苦情を訴える人物、
アーケードで喧嘩する男女、
チラシを受け取って、読めば分かる質問を投げかける老女など、
雑音溢れる世の中の描写は、
子どもを失った母親の孤独を強調する、
今までの常識を覆す描き方だ。

それにしても、SNSであることないこと書き散らす、
バカ共の何と多いことか。
被害者家族の気持ちを想いはかれない、愚か者たち。
いっそのこと、SNSでの書き込みは禁止したらどうか。
ただ、救いもあり、
チラシの配付で応援する近所の人々や、
応援カンパを集めてくれる豊の勤務先、
そして、チラシの印刷部数を減らしたのを
好意で同じ部数にしてくれる印刷屋の社長ら、
善意の人々も描かれる。

ラストはああいう終わり方しかなかったのだろうが、
後味は良くない。
しかし、人間を描くのが映画や小説の役割であるとしたら、
この作品は、まさに使命を果たしている。
沢山の人に観てもらいたい、良作

5段階評価の「4.5」

拡大上映中。

 


映画『PS―1 黄金の河』

2024年05月27日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

10世紀、南インドで繁栄を極めるチョーラ王朝。
スンダラ王の子供は男の兄弟と娘の3人。
長男のアーディタは北方で、
次男のアルンモリは南方で、
領土拡張のための戦いを繰り広げ、
妹のクンダヴァイは父王と共に都に残る。
しかし、パルヴェート侯を中心とした臣下たちは、
前王の息子を次期国王として擁立する陰謀を進めていた。
遠く離れた3人だが、不穏な動きを察知し、
これに対抗すべく密使を送り出す。
パルヴェート侯の美貌の妻、ナンディニは、
夫を陰で操り、チョーラ王朝に揺さぶりをかけようと画策するが、
その裏には、アーディタとの過去の悲恋があった。
孤児であったナンディニは、
皇太子の妻にふさわしくないと引き裂かれてしまったのだ。

こうして、兄の戦場、弟の戦場、都での謀反、
王と妹の対策、密使に選ばれた若い騎士・デーヴァンの動きが
モザイクのように物語を織りなす、壮大なドラマが展開する。


1950年、インドで生れた伝説的な歴史小説が原作。
インド南部のタミル地方に実在した
チョーラ王朝の宮廷を舞台にした愛憎と陰謀、
国の存亡を懸けた戦いの物語「ポンニ河の息子」
タミル語の週刊誌で4年に及ぶ長期連載となり、
著者のラーマスワーミ・クリシュナムールティ
完結後しばらくして死去したが、
1955年に全5巻2200ページ超及ぶ
大河小説として刊行されてベストセラーとなり、
今日まで70年にわたって新しい読者を獲得し続けるロングセラーとなった。


それから70年。
何度も映画化が試みられたが、
その壮大なスケールから難航を極め、
撮影技術の進化やインド映画界の大作主義指向を背景に、
遂に2部作に及ぶ一大映像絵巻として完成
王位継承を巡る陰謀と兄弟の力を合わせた戦い、
美貌の女性との悲恋、壮大なスケールの戦闘など、
娯楽映画の定番を織り込んだ、壮大な歴史絵巻。
「映画は娯楽だ」というインド映画らしさがあふれた作品。
冒頭のタイトルバックの音楽からワクワク感が止まらない。
歌も踊りもあるが、今までの映画とは一味違う。

第一王子アーディタにヴィクラム


第二王子アルンモリにジェヤム・ラヴィ


若き騎士デーヴァンにカールティ


妹王女クンダヴァイにトリシャー・クリシュナン
悲恋の美女ナンディニにアイシュワリヤー・ラーイ


なかなか顔の区別がつかない。

監督・共同脚本・共同製作はインド映画の巨匠マニラトナム
音楽監督が、2008年の「スラムドッグ$ミリオネア」で
米アカデミー賞の歌曲賞と作曲賞を獲得したA・R・ラフマーン
この方「踊るマハラジャ」(1995)も担当している。
ミュージカル「ボンベイ・ドリーム」も彼の作品。
音楽が映画にとってどれほど効果を揚げるかがよく分かる。
特に、アーディタのナンディニへの恋情を歌い上げる場面は、しびれる。

原作が壮大すぎて1作では収まらず、
2部作に。
今回公開された「PS-1 黄金の河」は2022年製作、
続編の「PS-2 大いなる船出」は、翌2023年製作で、
6月14日から公開される。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

 


映画『胸騒ぎ』

2024年05月23日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

イタリアでの休暇中、あるデンマーク人夫婦が、
オランダ人夫婦と出会い、意気投合する。
どちらも夫婦と子供一人の3人家族ということで、うまが合う。
後日、オランダ人夫婦からの
“お元気ですか?  我が家に遊びにきませんか?”
という自宅への招待状を受け取ったデンマーク人夫婦は、
週末、娘と共に、車で、人里離れた彼らの家を訪れる。


しかし、会話や行動で、些細な違和感が生まれ、
オランダ人夫婦のおもてなしに居心地の悪さを覚える。
息子は舌がなく、言葉を話せないし、
医師と言っていたオランダ人が、実は働いていないことも分かる。
危機感が高まって、
一旦は挨拶もせずに帰国の途につくが、
娘が大切にしていた兎のぬいぐるみを忘れたことから、引き返し、
週末が終わるまでの辛抱だと自分たちに言い聞かせる。
オランダ人夫婦も態度を改め、
友情が芽生えたかに見えたが、
深夜、あることを見た夫が家族と共に自動車で逃げ出す。
ところが、ガソリンがゼロに近く、
やがて止まってしまう・・・

冒頭のイタリア旅行以外は、
ほぼ二つの家族だけの6人芝居
ささやかな違和感が広がり、
それが徐々に大きくなり、加速度的に高まって、
恐怖に至るまでの
心理スリラー
最近、北欧のサスペンスは良作が多い。

第38回サンダンス映画祭で上映されるや
衝撃的な展開と不穏な作風が話題になり、
各国の映画祭を席巻。

メガホンをとったのは、
デンマークのクリスチャン・タフドルップ監督。(脚本も) 
休暇を過ごした旅行先で出会った家族の家を6カ月後に訪れ、
気まずい思いと我慢を強いられる羽目になった実体験から
本作の着想を得たという。

共通語である英語では無難な会話をするのに、
それぞれの言語では本音が出る。
英語とデンマーク語は字幕が出るが、
オランダ語は字幕が出ない。
何を言われているか分からない不安。
この配慮は日本輸入会社の配慮か? 
それとも、監督の指示? 

じわじわと恐怖が高まる経過が秀逸。
最後になって、オランダ人夫婦の意図がはっきりするのだが、
後味の悪さは天下一品
映画を観ていやな気持ちになりたくない人は避けた方が無難。

オランダ人夫婦を演じた俳優は、
実生活でもパートナーだという。

後味は悪いが、
映画的には成功しているので、
5 段階評価の「4」

アメリカで、ジェームズ・マカヴォイ主演で
リメイクが決まっているという。
アメリカだから、結末を変えるか? 

ヒューマトラストシネマ有楽町他で上映中。