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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『罪名、一万年愛す』

2025年03月30日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

吉田修一の新聞小説。
産経新聞に2024年4月から9月まで連載したものを書籍化。

横浜で探偵業を営む遠刈田蘭平(とおがった・らんぺい)のもとを、
九州を中心にデパートで財をなした
梅田家の三代目・梅田豊大(とよひろ) が訪ねて来る。
創業者で成功をおさめ、現在は引退している祖父、
梅田壮吾の素行がおかしいというのだ。
壮吾は現在、長崎の九十九島に所有する
プライベートアイランド・野良(のら)島で余生をすごしているが、
夜な夜なある宝石を探していると、
住み込みの家政婦から連絡が入ったのだという。
その宝石の名前は「一万年愛す」といい、
ボナパルト王女も身に着けた25カラット以上のルビーで、
時価35億円ともいわれるものだ。

そんな折、壮吾の米寿(88歳)の祝いが野良島の豪邸で催され、
遠刈田も招待される。
離れ小島に集まったのは、
壮吾の息子の一雄と妻の葉子、
その双子の子どもの豊大と乃々華、
元警部の坂巻丈一郎。
それに住み込み家政婦の清子と
庭仕事から電気工事、船の操縦等なんでもする三上と
専属看護師の宗方。
島には、10人が泊まっていた。

既に公職を退いて15年になる元警部が
なぜ招かれたというと、
45年前、多摩ニュータウンの主婦が失踪する事件があり、
その時、壮吾が捜査線上に浮かび、
当時刑事だった坂巻の尋問を受けたことがあり、
それ以来の付き合いだったからだ。

祝賀会は台風が接近する中で行われたが、
翌朝、壮吾の姿が見えなくなる。
海は荒れており、
島から出た形跡はない。
寝室に置かれた封筒には、
「私の遺言書は、昨晩の私が持っている」
という謎の言葉が壮吾の筆跡で残されていた。
地下のシアタールームには、
映画のDVDが3本置かれていた。
「人間の証明」「砂の器」「飢餓海峡」
警察に連絡すると、
大型台風が接近中で、
明日にならないと、
島には到着できないという。

というわけで、
台風で閉じ込められた孤島という、
推理小説定番の「クローズドサークル」が出来上がる。

一体、壮吾はどこにいるのか、
生きているのか、死んでいるのか、
残された遺言書にかかわる言葉の意味は?
3本の映画に隠された謎は?
そして、45年前の主婦失踪事件との関わりは?
と謎が謎を呼ぶ展開になる。

映画3本について、
ある成功者が、隠したい過去を暴かれそうになり、
殺人に及ぶ、という共通点があげられるのが面白い。
その内容が後半投影してくる。

戦後の一時期に起こったある状況に焦点が当てられ、
物語の背景が明らかになる。
そしてラストに作者の吉田修一が登場し、
この小説が書かれた意図が分かって来る。

全体的な印象としては、
「悪人」や「国宝」の吉田修一にしては緻密さがなく、
まるでシナリオのよう。
もしかして本人が書いたのではないのでは、
と疑念を持つほどだ。
そんなはずはないのだが、
ちょっといつもの吉田修一とは違う

語りの「」とその後に続く
「」なしの語りが混ざるのが、読みにくい。
どうしてこんな書き方にしたのか。
意図が分からない。

宝石にまつわるミステリーかと思いきや、
戦後社会の出来事に話が及び、
最後はSFかファンタジーかオカルトの様相を帯びる。
不思議な小説だ。

 


映画『エミリア・ペレス』

2025年03月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

フランス発祥のスペイン語映画でありながら、
ゴールデングローブ賞では最多4部門を受賞、
アカデミー賞でも作品賞、監督賞を含む
最多12部門で13ノミネートを果たした映画が
ようやく日本公開。
相当風変りの作品のようで、
覚悟して出かけた。

優秀な弁護士でありながら、
無能なボスにこき使われて、
不遇の日々を送っていた弁護士のリタ。
そのリタが、顔に袋をかぶせられて拉致され、
袋を取ると、一人の男が待っていた。
その男は、メキシコ全土を恐怖に陥れていた
麻薬カルテルの頭、マニタスだった。
そして、マニタスの要望は、
女性になりたい、という驚くべきもの。
莫大な報酬を提示されて、
リタは性別適合手術をする優秀な医者を斡旋する。
潤沢な資金で手術は成功し、
マニクスの死亡が偽装され、
マニクスは新たに女性として生きていくことになる。

4年後、ロンドンのレストランで、
リタは女性となったマニタスに再会する。
マニタスはエミリア・ペレスと名乗った。


秘密を握っている自分を殺すのではないかと
恐れたリタだったが、
エミリアの新たな要望は、
残して来た子供たちと暮らしたい、
その手続きをしてくれというものだった。
リタの手配でメキシコに戻ったエミリアは、
マニタスの従姉妹と偽って、
元妻と子ども二人を呼び寄せ、
一緒に暮らすことになる。

麻薬王だった頃に犯した罪に心を痛めるエミリアは、
犯罪に巻き込まれ、行方不明になった人々の家族を救うために
NPOを興し、リタと共に慈善活動を始める。


昔の家族と一緒に暮らし、
尊敬を集めるようになったエミリアは幸福だったが、
元妻が再婚して子どもを連れて家を出ると言いだしたことから、
破綻が始まり・・・

偉丈夫のマニタスがなぜ女性になりたくなったのかは不明だが、
男性から女性に転換し、
外見は女性でも、
内面は男性という
存在自体がドラマチックだ。
そして、過去の罪滅ぼしをしようとするのも矛盾。
実は、私はこういう話は好物だ。
秘密を抱えた人間は魅力的だからだ。
息子から「パパの匂いがする」などと言われて、
喜んでいいのか、苦しんでいいのか
戸惑うシーンなど、胸に迫る。

一体、この話、どこに着地するのか、
と先が見えない展開に
画面に吸いつけられる。

ストーリーが斬新なだけでなく、
この映画、ミュージカルの形式を取る。
しかも、歌や踊りに移る手法がユニーク
登場人物の内面の吐露として、
変幻自在な変化をする。
ああ、ミュージカルでこんなやり方もあったか
と驚きと共に納得。
特に、エミリアが団体の代表としてスピーチをする時、
リタが「結局、根本は何も変わっていない」と
偽善者たちへの心の叫びを
歌と踊りで爆発させる「El Mal」のシーンは秀逸。

エミリアを演ずるカルラ・ソフィア・ガスコンは、
トランスジェンダー女性であることを公表し、
性別適合手術を受けた人。


この人のための役と言えるかもしれない。
しかも、男性の時と女性の時の両方を演ずる。
ああいう立派なガタイの女性が実在する外国人だから
成り立つ。

リタを演ずるゾーイ・サルダナは、


「アバター」 (2009) より
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014) の方が印象深いが、


順当にアカデミー賞助演女優賞を受賞。


妻を演ずるセレーナ・ゴメスらと共に、
カンヌ国際映画祭で
4人まとめて、アンサンブルで女優賞を受賞。

監督のジャック・オーディアールは、
カンヌ国際映画祭パルムドール〈最高賞〉を受賞した
「ディーパンの闘い」(2016)の監督と知れば、納得する。


絵作りのセンスは抜群。

特殊なテーマをクライム、コメディ、ミュージカルなど
様々なジャンルを交えて描いた、奥の深い作品だ。

ところで、アカデミー賞に12部門13ノミネートされていながら
結果は2賞(助演女優賞、歌曲賞)だけの受賞になったのは、
ノミネート発表の直後、
これからら会員が投票にかかる、という、
最悪のタイミングでの、
ガスコンのSNS上での不適切発言が原因らしい。
イスラム批判に始まって、
ブラック・ライヴズ・マター批判、
フェミニズム批判、ワクチン陰謀論、
スペイン政府首相批判、アカデミー賞批判(!)まで多岐にわたり、
この結果、「エミリア・ペレス」は賞獲りレースから脱落した、
と言われている。

ただ、フランス映画界最高の栄誉であるセザール賞では、
「エミリア・ペレス」が最多の7冠を獲得している。

5 段階評価の「4」

拡大上映中。

 


築地場外市場

2025年03月28日 23時00分00秒 | 名所めぐり

築地本願寺から出て、
築地場外市場へ。

この四つ角。

築地は既に市場機能を持っていませんので、
「場外」という表現はおかしいですが、
伝統に従い、場外市場といいます。


鮮魚店、青果店、飲食店など
約400店舗以上の店がひしめきあっています。


朝の時間帯は業務用の仕入れで賑わい、
その後一般の買い物客や
食事を楽しむ観光客で賑わっています。

様々な海産物を味わえる場所として、
外国人にも伝わり、
来日外国人が集まります。

築地は地名のとおり海を埋め立てあらたに築いた土地です。
1675年(明暦三年)、
明暦の大火後の復興計画で、
隅田川河口部にあたるこの一帯が開発されて武家地となります。
横山町辺にあった本願寺も同大火で被災して築地に移ってきました。
本願寺の再建にあたっては
佃の門徒たちが海を埋めて土地を築いたと伝えられています。

江戸時代の築地は大半が武家地で、
大名の別荘地である中屋敷や下屋敷が多くつくられ、
下級武士の邸宅も分布しています。

現在の築地市場にあたる場所は
寛政の改革を断行した時の老中松平定信の下屋敷でした。

1923年(大正12年)の関東大震災の後、
震災で焼失した
日本橋魚河岸が移転してきたことが町を大きく変えました。

野菜も売っています。

乾きものも。

包丁も。

フルーツも沢山。

カニの足。

タコも。

帰国してから、美味い物を食べたと報告するのでしょう。

噂が噂を呼んで、東京のグルメ街となりました。

 


小説『沈黙法廷』

2025年03月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

赤羽駅に近い岩淵に住む独居老人が絞殺死体で発見された。
不動産屋から手付金として受け取ったはずの
3百万円が無くなっていた。
捜査線上に山本美紀という三十歳の女性が浮上した。
フリーの家事代行業で、電話で依頼を受けて、
その日、老人宅を訪問したものの、
不在だったため、家に戻ったという。
警察は重要参考人として身柄を押さえようとしたが、
タッチの差で大宮署に奪われてしまう。
実は、一年半前の変死事件の重要参考人として、
山本美紀の身柄が拘束されてしまったのだ。
自宅の風呂場で溺死した老人のもとに
山本美紀が家事代行で通っていたのだという。
それ以外にも、
さいたま市の独居老人の入水自殺にも、
山本美紀がかかわっていたらしい。
この場合、老人が作った遺書に
家事代行をしてくれた山本美紀への遺贈が
書かれていたという。
自筆のものでなかったため、
この遺言は無効となっている。

大宮署は、山本美紀を逮捕したものの、
検察は立件せず、
釈放されると、今度は赤羽署が代わって山本美紀を逮捕し、
裁判となる。
果たして山本美紀は犯人か。
それとも・・・

本編は、大きく3つの部分で構成される。
第一章は、赤羽署と大宮署の刑事たちの捜査の動向。
第二章は、国選弁護士の担当となった矢田部完(やたべ・たもつ)の動向。
これに仙台で働く青年・高見沢弘志の話がからむ。
3年前、ネットカフェで知り合い、
実家に連れていくはずが
約束の場所に現れず、
その後音信不通になった中川綾子という女性が
山本美紀だったことをテレビのニュースで知ったのだ。
また、並行して、孤独な老人に取り入って金品を巻き上げる
悪女として山本美紀像を作り上げた
マスコミの報道も描く。
第三章は、仕事をやめて傍聴のために上京してきた高見沢弘志の視点から
山本美紀の裁判を描く。
ある時点で、山本美紀が証言を拒絶するようになり、
それが「沈黙法廷」という題名の由来。

文庫本で738ページ。
大部だが、
停滞もなく、ページをめくる手が止まらない。

捜査方針を早々と美紀の犯行として絞り込む
警察の見込み捜査の弊害
マスコミの理不尽さも切り込む。
また、家事代行業の大変さも描く。

この程度の状況証拠で逮捕し、立件する
警察と検察が相当愚かしい。

山本美紀の人となりが真摯なので、
読者は美紀に感情移入し、
無実を疑わないようになる。

マスコミ報道について、
次の記述が目覚ましい。

山本美紀のプライバシーの暴き立てについても、
それを好んで受け止めている視聴者がいる一方、
嫌悪感を覚えている視聴者も多い。
テレビの関係者は気づいていないだろうが、
市民は必ずしもそれほど下司ではないし、
カネやセックスにまつわる
勘繰りだけが生きがいでもないのだ。

直木賞作家の佐々木譲による小説。
北海道新聞、中日新聞、東京新聞、西日本新聞、河北新報などに連載され、
加筆・修正されて2016年に新潮社から刊行。
2017年に永作博美主演でWOWOWでドラマ化された。
(実は私はドラマを観ているが、内容は忘れていた)

警察小説、法廷小説の側面があり、
更に冤罪小説でもある。
手を抜かない、詳細な記述は目を見張る。

 


映画『教皇選挙』

2025年03月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ローマ教皇の選出選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー。
信者数12億人を擁する
世界最大の組織の長だから、
影響力は大きく、世界が注目する。

カトリック教会のトップにして
バチカン市国の国家元首であるローマ教皇が、
心臓発作のため急死してしまう。
教皇が不在の状態を「使徒座空位時」という。
悲しみに暮れる暇もなく、
首席枢機卿を務める
トマス・ローレンス枢機卿は枢機卿団を招集し、
次のローマ教皇を選出する
教皇選挙(コンクラーベ)を執行することとなった。

100人以上の枢機卿がシスティーナ礼拝堂に集まり、

入口が封鎖された密閉空間で
投票が行われるが、
定足数の3分の2の得票数を獲得した人物が現れるまで、
投票が繰り返される。
立候補制ではなく、
100人以上いる枢機卿の中から
1名の名前を記入して、
投票するのだから、
よほどの強力な人物がいない限り、
なかなか決まらない。

この映画は、
その様子をじっと凝視する。

教会といっても、
信仰で団結しているわけではなく、
有力候補者として
リベラル派最先鋒の人物、
穏健保守派の人物、
保守派にして伝統主義者の人物
初のアフリカ系教皇の座を狙う人物、
など、多種多様。

しかも、枢機卿の中には、
教皇の死亡直前に解任されたらしい人物や、
教皇が秘密裡に任命した枢機卿が
開始直前に到着したりする。

途中、最有力とされていたアフリカ系の枢機卿が
30年前の性的スキャンダルで失脚したり、
それを画策した人物がいたり、
水面下では陰謀差別
スキャンダルがうごめく。
ローレンス自身が信仰に関する悩みを抱えている。

ローレンス枢機卿を演ずるのはレイフ・ファインズ


ジョン・リスゴーをはじめ、
ベテラン俳優たちが枢機卿を演ずる。

全体的に株式会社や団体の長選びのような様相で、
宗教的匂いは感じられない。
まあ、人間が作る組織だから、
人間臭い暗闘はあると思うが、
一方で、彼らは宗教的指導者でもあるわけで、
その要素が抜け落ちているのは、
少々偏った描き方だ。

そして、法皇が選出された後、
衝撃の事実が明らかにされる。
これにはちょっと驚いた。
法皇庁は重大な秘密を抱えることになったわけで、
もし真実が露見したら、
それこそ教会を揺るがす騒動になるだろう。
まあ、原作はミステリー小説ですからね。

先のアカデミー賞において作品賞を含む8部門にノミネートされ、
脚色賞を受賞した。
ローバート・ハリスの同名小説を映画化。

5段階評価の「4」

拡大上映中。

以下、映画では説明されていない、
コンクラーベに関するトリビアを。

教皇の逝去にはカメルレンゴといわれる枢機卿が立ち会う。
カメルレンゴ(Camerlengo)とは、
ローマ教皇庁の役職で、
教皇の秘書長。
枢機卿の中からローマ教皇によって指名される。
使徒座空位期間、教皇代理となる。
カメルレンゴは教皇の死の確認を済ますと、
元漁師であった聖ペテロにちなんで「漁夫の指輪」と呼ばれる
教皇指輪を教皇の指から外し、
枢機卿団の前でそれを破壊する。
「漁夫の指輪」には教皇が文書に押す印章が付いており、
これが教皇の死後に他者の手で不正に使用されることを防ぐためである。

教会法には教皇の生前辞任が認められているが、
実際には教皇が生前に辞任する事態は
ほとんど起こっていない。
しかし、2013年、ベネディクト16世が生前辞任し、
これにより719年ぶりに教皇の生前辞任を要件とする
コンクラーベが開催された。

教皇葬儀は死後4日から6日の間におこなわれる。
その後、教皇庁全体が9日間の喪に服する。
筆頭枢機卿は全世界の枢機卿を招集し、
次の法皇を選出する選挙を行う。
教皇選挙は通常、教皇の死後15日以降におこなわれる。
全枢機卿がそろわない場合、
選挙の実施を最高で20日まで伸ばすことが出来る。

枢機卿(すうききょう、すうきけいと二つ読み方があったが、
    今では、「すうききょう」に統一されている)は、
カトリック教会における教皇の最高顧問という位置付け。
重要な案件について
教皇を直接に補佐する「枢機卿団」を構成する。
従って、教皇の逝去で
次の教皇を選ぶ職務は枢機卿団に委ねられる。
つまり、教皇選出選挙の選挙権と被選挙権は、
枢機卿だけが持っている。
枢機卿は、原則として司教の叙階を受けた聖職者の中から
教皇が自由に任命し、任期は設けられていない。
男性信徒であれば誰でも枢機卿に選ばれる資格がある
ことになってはいるが、
実際にはほとんどが大司教または司教から選ばれている。
女性には史上、教皇になる資格が与えられたことはない。
今まで、日本国籍保持者の枢機卿は7名いる。

枢機卿は緋色の聖職者服を身にまとう。
緋色は、信仰のためならいつでも進んで命を捧げるという
枢機卿の決意を表す色。
キリストの血を象徴する色、という説もある。

枢機卿は、13世紀初頭にはわずか7人しかなかったが、
その後、増員し、
現在では、
教皇選挙の有資格者は80歳未満の枢機卿に限り、
その人数は120人までという制限が設定されている。
映画の中では107人分の資料を作っている。

教皇の選出には、名前の発声など3つの方法があったが、
今では、投票による決定のみとされている。

投票は、
バチカン宮殿内のシスティーナ礼拝堂でおこなわれる。
1978年10月のコンクラーベまでは、
投票を行う枢機卿たちはシスティーナ礼拝堂内に閉じ込められ、
新教皇が選出されるまでは礼拝堂から出ることを禁じられていたが、
2005年からは変更され、
枢機卿団はシスティーナ礼拝堂に缶詰にされることはなく、
バチカンに新築されたサン・マルタ館という
5階建ての聖職者用宿舎で生活しながら、
システィーナ礼拝堂に投票に赴くようになった。
しかし、外部との接触を厳重に禁じられ、
新聞社やテレビ局などのマスコミと連絡を取ることの禁止はもちろん、
携帯電話は預けられ(取り上げられ)、
聖マルタ館の電話やインターネット回線が切断され、
聖マルタ館とシスティーナ礼拝堂には、
携帯電話使用や盗聴を防止するためのジャミングが流されるなど
電子的にも厳戒態勢がしかれている。

選挙当日の朝、
枢機卿団はサン・ピエトロ大聖堂に集まってミサをささげる。
午後、枢機卿たちはバチカン宮殿内のパウロ礼拝堂に集合して、
そこから聖霊の助けを願う歌である「ヴェニ・クレアトール」を歌って
システィーナ礼拝堂へと移動する。
現代ではこの行列はテレビ中継される。
礼拝堂に到着すると、
首席枢機卿の先導のもとに宣誓文がとなえられる。
宣誓の内容は、もし自分が選出された場合
聖座の自由を守ること、選挙の秘密を守ること、
投票において外部の圧力を受けないことである。
続いて枢機卿は一人ずつ福音書に手を置き、宣誓を行う。

宣誓が終わると、
教皇庁儀典長の「全員退去」の宣言とともに、
儀典長と講話を行う聖職者を除き、
枢機卿団以外は礼拝堂から退出する。
退出を見届けた儀典長は
入り口に進んで内側から鍵をかける。
テレビ中継はここで終わる。

続いて講話者が、残った枢機卿団に向かって
現代の教会が抱える問題と
新教皇に求められる資質についての講話をおこなう。
講話が終わると儀典長と講話者は退室し、
枢機卿たちだけが残る。

投票は所定の用紙に無記名で行われ、
手書きで推薦者を記入し、容器に入れる。
第1日目の午後、最初の投票が行われる。
この第1回の投票で決まらなかった場合、
2日目以降からは毎日午前2回、午後2回の計4回の投票が行われる。
3日目になっても決まらない場合は、
1日投票のない日が挟み、
祈りと助祭枢機卿の最年長者による講話がおこなわれる。
次に7回の投票がおこなわれて決まらない場合、
再び無投票の日が入り、
今度は司祭枢機卿の最年長者が講話をおこなう。
続く7回の投票によっても決まらない場合も、
同じようなプロセスが繰り返され、
今度は司教枢機卿の年長者が講話をおこなう。
更に7度の投票によっても決まらない場合は、
最後の投票で最多得票を得た
上位2名の候補者による決選投票に移行する。

時には、何日も何日も時間がかかることがあり、
「コンクラーベ」は日本語で「根競べ」と言われている。

それぞれの投票後には、
1枚ずつ名前が読み上げられ、
票の集計、数の検査の後、
投票用紙は串刺しにされ、焼却が行われる。
つまり、投票結果は神のみが知るものとなる。
用紙焼却は午前午後それぞれ2回目の投票後に行われ、
新教皇がまだ決まらない場合には、礼拝堂の煙突から黒い煙を出し、
新教皇が決まった場合には、白い煙を出して外部への合図とする。
過去には未決の場合湿らせたわらを混入し燃やして
黒い煙を出すようにしていたが、
黒とも白ともつかない灰色の煙が出て
情報が混乱したことがあったため、
明確に色付けする目的で、
黒煙の場合は過塩素酸カリウム・アントラセン・硫黄の化合物を、
白煙の場合は塩素酸カリウムや乳糖、松脂の混合物を
投票用紙に混ぜて燃やすようになり、
さらに2005年の教皇選挙からは、
新教皇が決まった場合、
白い煙が出た直後にサン・ピエトロ大聖堂の鐘を鳴らして
正式な合図とすることになった。

1179年までは投票者の過半数をとれば教皇に選出されていたが、
その後、投票の3分の2以上の得票を得ることが条件とされた。
教皇選挙では自分の名前を書くことは認められないが、
無記名投票のため、事実上はあり得る。
しかし、自分自身への投票を防ぐ巧みなシステムが作り上げられた。
つまり、必要な得票数を3分の2+1票と定めたのだ。

これらのシステムは、カトリック教会の歴史の中で
何世紀もかけて、
他国の干渉を防止し秘密を保持するため練り上げられてきたものである。       
投票によって、一人の枢機卿が必要な票数を獲得すると、
礼拝堂内に枢機卿団秘書と教皇庁儀典長が呼び入れられる。
首席枢機卿は候補者に対し、教皇位を受諾するかどうか尋ねる。
教皇に選出された者は、
就任時に自身の教皇名を自ら決める慣習になっている。

新教皇はあらかじめ用意されていた
3つのサイズ(誰が選出されるか分からないので、複数サイズを準備)の
白衣の中から自分の体に合うものを選んで身にまとう。
そこで枢機卿団が待機している礼拝堂に戻り、
カメルレンゴから、新しい「漁夫の指輪」を受け取り、
祭壇近くにすえられた椅子について
枢機卿団一人一人からの敬意の表明を受ける。

次に助祭枢機卿の最年長者が
サン・ピエトロ大聖堂の広場を見下ろすバルコニーに出て、
ラテン語で新教皇の決定を発表する。
そして新教皇がバルコニーにあらわれて、
「ウルビ・エト・オルビ」(Urbi et Orbi、「ローマと世界へ」の意)ではじまる
在位最初の祝福を与える。
かつて教皇は教皇冠を受けていたが、
ヨハネ・パウロ1世によってこの戴冠式は廃止されている。

コンクラーベを扱った映画は
「天使と悪魔」「ローマ法王になる日まで」
「2人のローマ教皇」など
多数ある。
今回のように、教皇選挙だけに絞った映画は初めて。

ローマを訪問した観光客は、
コンクラーベの開催期にぶつかると、
せっかくヴァチカン美術館を訪問しても、
システィーナ礼拝堂には入れず、
ミケランジェロの描く
「最後の審判」

も天井画も


見ることが出来ない。
という不運。