[映画紹介]
4月23日からNetflix で配信された、
1975年の東映映画「新幹線大爆破」の
50年ぶりのリメイク。
クレジットタイトルで、
75年版が原作であることを明示している。
新幹線に爆弾が仕掛けられ、
一定の速度以下になると爆弾が破裂するため、
停車することが出来ずに、走り続ける、
という設定だけをいただき、
後はほとんどオリジナルストーリー。
75年版が東海道・山陽新幹線で、
東京から博多へ向かう、ひかり109号なのに対し、
新版は、東北新幹線で、
新青森から東京へ向かう、はやぶさ60号。
ポイントとなる爆発時速も
75年版が80キロだったのに対して100キロ。
75年当時のひかりの最高時速210キロに対して、
はやぶさ最高時速320キロの反映だろう。
犯人の動機も解決方法も全く違う。
運航不能で停車中の他の列車との接触を避けるために
ポイントを切り換えて、下り車線に入るところと、
別な車両を並走させ、
乗務員室の扉同士で滑車付きロープを結び、
必要工具を渡すところは
75年版を踏襲している。
身代金も、75年版が逃走資金の
500万ドル(当時のレートで15億円)のドル札だったのに対して、
1000億円で、集める方法は政府に任せるという。
「テロリストとは交渉しない」政府は拒否するが、
それがある方法で国民から集めるのは
時代の反映だ。
75年版と大きく違うところは、
75年版が
①新幹線内部の状況、
②司令室での対応、
③犯人たちの動向と過去、
④警察の動き
との4側面から描いたのに対し、
新版では、
①新幹線内部
②司令室
との2面建てとなっている。
終盤近くまで犯人を明かさないため、
そうならざるを得なかったようだ。
時代を反映して、
SNSによる身代金集めや
車内の実況配信などが描かれる。
また、爆発までの時間を延長するために、
東京駅で東北新幹線と東海道新幹線の
線路をつなげ、
鹿児島中央駅まで走らせるというアイデアも出て来る。
話の途中で「109号事件」という言葉がしばしば登場するので、
何のことかと思ったら、
75年版のことだった。
次第に分かって来る犯人像も、
75年版からのつながりで、
そういう意味で、
リメイクというより続編と言った方がいいかもしれない。
ただ、75年版を観ていない人には何のことか分からない。
実に不親切。
更に言えば、
乗客の中で、ママ活不倫疑惑がスクープされた女性国会議員、
整備不良のヘリを小学校へ墜落させ、
児童の死者を出してしまった会社の元社長、
起業家YouTuberなどが出て来るが、
ちゃんとした説明もなく、
なんとなくしか分からない。
これも不親切。
何より、分からないのは、
時速100キロ以下で爆発する装置を
犯人がどうやって手に入れたか、
それどころか、
4台もどうやって取り付けたか、
は不明、というか、
ほとんど不可能。
75年版はそのあたりは明確にしていた。
それにしても、あんな動機で
350名の命を奪うかもしれない
犯罪をするのは、説得力に欠けると思うが。
脚本に問題あり。
最後の9名の救出作戦も
ほとんど無理筋だが、
まあ、映画だからね。
75年版は、
国鉄から協力を断られたのだが、
新版はJR東日本が特別協力しており、
実際の東北新幹線で撮影専用貸切列車を
7往復走らせて撮影したという。
そのせいか、
新幹線の疾走感は75年版より進歩している。
監督は樋口真嗣。
後ろの2車両を切り離し、
追尾してきた救助列車との間に橋をかけ、
340名の乗客を移すことに成功し、
60号に取り残された9人を救い出すのが
最後のミッションとなるが、
車両の切り離しが配線等で不可能なことは、
75年版で示されている。
ここは、映画のラストに
この映画に登場する人物、団体、車両、撮影地、
鉄道に関するルール、所作などは
実在するものに着想を得ていますが、
現実のものとは異なります。
ということで、言い訳していた。
まあ、映画だからね。
不満と言えば、
救出車両に乗客が移るところは、
もっとしっかり見せてほしかったのと、
停車後、9名の安否確認で車内に入るところは
もう少していねいにやれなかったか。
配信開始1週間後に
Netflix から発表された
非英語映画の週間グローバルチャートにおいて、
全世界で2位、
制作国の日本を始め、
4つの国と地域にて1位をそれぞれ獲得した。
Netflix で75年版も配信していたので、
50年ぶりに観た。
原作はなく、
脚本は映画オリジナル。
監督は佐藤純彌。
久しぶりに観たのだが、
当時の日本映画の強味である、
しっかりした作りに感心した。
当時のひかりは下のデザインで、なつかしい。
機材はアナログ感満載。
既に書いたとおり、
爆弾を仕掛けた犯人、
危機回避に全力を尽くす国鉄サイド、
徐々に犯人グループを追い詰めていく警察、
パニックを起こす乗客の姿の4本柱が
実にていねいに描写され、
それぞれのドラマが適切な味加減で描かれ、
当時の日本映画の誠実な製作姿勢がうかがえる。
なにしろ、主犯を演ずるのが高倉健で、
零細工場の経営に失敗した男の哀愁が漂う。
仲間の過激派くずれと
集団就職で都会に来た沖縄出身の青年
との結びつきもなかなかいい。
日本高度経済成長時代への批判が内包されている。
当時は三菱重工爆破事件など、
連続企業爆破事件が発生していた時期で、
警察関係者は神経をとがらせていた。
国鉄(当時)は協力を要請されたが、
ドル箱の新幹線を爆破する映画と聞いて震えあがり、
真似する人が出るからと、協力を拒否。
当時、新幹線に爆弾を仕掛けたという電話は
週に1本の割合でかかって来て、
その度に最寄の駅に停車させて検査するような状態だった。
国鉄は協力拒否どころか、上映中止を要請した。
東映は、仕方なく新幹線車内のセットを作って撮影。
窓外の景色はスクリーンプロセスを使った。
東京駅全景のカットや走行する新幹線のカットは盗み撮り。
想像の中での爆破シーンはミニチュアで撮影。
編集作業に手間取り、
完成は封切の2日前。
興行収入10億円を目標としていたが、
東京都心ではまずまずの入りでも、
当時は新幹線がまだなかった北海道や東北地方の客入りは悪く、
大阪などでは途中打ち切りに遭った。
製作費が高かったため、
国内興行では約2億円の赤字を出した。
1975年度キネマ旬報ベストテンでは第7位だったが、
読者選出では、ベストワンに選ばれた。
海外では評判を呼び、
東映に収入をもたらした。
ただ、海外版は短くして再編集され、
犯人側のドラマがカットされたため、
新幹線に次々襲いかかる危機を描く
息をつかせぬ展開となった。
それを観た東映幹部は、
「どうして日本の映画監督は、
無駄な部分にカネをかけるんだ」
と言ったという。
この短縮版は凱旋公演として日本でも上映されたが、
私は観ていない。
久しぶりに観て、
なかなかの成功作だと思った。
なお、一定の速度以下になると爆発するという
アイデアは、
ヤン・デ・ボン監督の「スピード」(1994)で
流用されている。
東映は原案権を主張して訴訟を起こすべきという声が上がったが、
岡田社長の「やめておけ」という一言で黙認した。