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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『ストロー: 絶望の淵で』

2025年06月21日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

                                       
ジャナイアは貧しいシングルマザー。
娘は持病があり、医療費がかかる。
家賃の滞納でアパートの退去を迫られ、
給食費も滞り、娘に悲しい思いをさせている。
レジ係をしているスーパーではチーフに嫌味を言われ、
娘の通う学校から呼び出しを受け、
娘を福祉局に連れ去られ、
家の家財道具は道路に打ち捨てられ、
スーパーへ戻る途中、警察官に悪質な嫌がらせを受ける。
戻るのが遅れたため、ついにクビになり、
給料の小切手をもらいにに行くと、
そこに強盗が現れ、はずみでジャナイアは
チーフを射殺してしまう。
向かいにある銀行で小切手を換金しようとすると、
ピストルを持っていたため強盗と間違えられ、
通報され、警官隊に囲まれる。
事態はどんどん悪くなる一方で、
ついにはFBIが乗り出して来て、
突入されれば殺される。

という可哀そうな話だが、
監督のタイラー・ペリー
貧しい人の味方なので、
ジャマイアに寄り添って描かれる。

ほとんど黒人の出演者たち。
4分の3は銀行の中で描かれるが、
退屈はしない。

最後間近、ある事実が明らかになり、
監督に誤誘導されていたことが分かる。

悲惨な貧しいシングルマザーの話だが、
救いは銀行の支店長や人質のおばさん、
交渉役の女性警官など、
いい人たちが出てきて、心がなごむ。
銀行員の一人がスマホを使って銀行内をリアル配信したことで、
沢山の市民たちがジャマイニを応援するためにかけつける。

ジャマイアを演ずるのは、
タラジ・P・ヘンソン


「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(2008)で、
アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた人で、
さすがの演技。
支店長役はシェリー・シェパード

Netflixで6月6日から配信。


映画『金子差入店』

2025年06月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「差入店」とは、拘置所や刑務所の収容者に対する
差入を代行する業者。
ひも状のものは駄目、金属は駄目等、
差入にはいろいろ制限があるが、
それを熟知した店員が受け付けるので、
店にある商品(衣類や食料)ならば
必ず通過するという利点がある。

金子真司は刑務所や拘置所の近所で
「差入屋」を一家で営んでいる。

カッとしやすい性格で以前暴力事件を起こし、
服役した経験がある。
出所後、伯父が経営している差入屋を引き継いだ。
その日常の中、
近所の人の職業偏見
息子の学校でのいじめにも描く。
母親は男狂いで、真司のいない時を狙って来訪し、
妻から金をせしめる欠陥母親だ。

ある日、息子の幼なじみの女の子が誘拐され、
殺害されるという事件が発生する。
犯人の異常者はじきに逮捕されたが、
その母親が「差し入れをしたい」と店を訪れる。
差入だけでなく、面会代行もしているので、
その犯人と面会し、母親の手紙を代読する中、
金子は疑問と怒りが日に日に募っていく。

一方、金子は一人の女子高生と出会う。
彼女は毎日のように拘置所を訪れ、
自分の母親を殺した男との面会を求め、
拒絶されていた。

本映画はこの2つの話を軸に展開する。

差入屋という特殊な職業を扱った映画への関心で観たが、
依頼者とどう対応し、差入品を受け付け、
どんな風に仕分けして拘置所に持ち込み、
受理されるか、という
一連の流れが全く描かれていない。
なぜだろう。
差入屋からしか差し入れできない制度だというが、
どのように認可されているのか。
面会代行だの手紙の朗読など、本当にあるのだろうか。
(脚本段階で調べているだろうから、事実なのだろうが)

「差入店」などと看板を出しての店構えなど、
本当にあるのか、と思ったら
↓のとおり、

東京拘置所近くに実在する店舗の写真があるから、
事実なのだろう。
映画の店の所在地が住宅街にあるのも妙だと思ったが、
これも事実ベースか。
独占店舗だからかなり繁盛すると思うが、
異常者犯人の母親以外一人も客がいないというのは、
何だか不自然だ。

ドラマを織りなす二つの事件で、
近所の女の子を殺した犯人と
対面する苦衷はよく描かれているが、
もう一つの高校生の事件の方は
話が作り過ぎで真実味に欠ける。
もう少し実際に密着した
リアリティのある設定は出来なかったのだろうか。

金子を演ずる丸山隆平は8年ぶりの映画主演。
こういう役は、
あまり露出の多くない俳優がやった方がいいが、
その点で、合格。
脇を真木よう子寺尾聰根岸季衣(としえ)、岸谷五朗らが固める。

異常犯人役の北村匠海の演技は
今までにない演じ方で驚かされた。

本作が長編初監督作となる古川豪
自らのオリジナル脚本でメガホンをとった。

 

犯罪者と接触する人間の苦悩という点で関心があったが、
半分満たされ、半分空振りだった。
ただ、特殊な職業を描くという着眼点は評価できる。
それだけに、実態の描写が少ないことは残念だ。

5段階評価の「3.5」

TOHOシネマズ他で上映中。


映画『エンディングノート』

2025年05月17日 23時00分00秒 | 映画関係

[旧作を観る]

2011年公開のドキュメンタリー。
Netflix で視聴。

定年退職サラリーマン・砂田知昭がガンにおかされる。
40年以上勤めた会社を退職、
第二の人生を歩み始めた矢先に、
健康診断で胃ガンが発見されたのだ。
既にステージ4まで進んでいる。
死を覚悟した砂田は、
最後のプロジェクトとして
人生総括の“エンディングノート”を作成する。
「死ぬまでにやらなければいけないTO DO リスト」。
それは、段取りの良さで会社の要職まで駆け上がった砂田の
最後の段取りだった。
そして、ガン発覚から半年後、
“エンディングノート”どおりに、
69歳で最期の時を迎える。

病と向き合い、
最後の日まで前向きに生きようとする父と家族たちの姿を、
次女が克明に記録していた。
次女は、
大学在学中からドキュメンタリーを学び、
卒業後はフリーの監督助手として
是枝裕和らの映画制作に従事していた砂田麻美。
昔から8ミリとビデオを回し、
病気発覚以前に撮った画像も使用する。
そこに出て来る
日本の高度経済成長期を支えた
会社一筋の熱血コラリーマンの様は、
ある年代の日本男児の典型的な姿だ。

砂田はエンディングノートにあるとおりに実践する。
孫と遊ぶ、神父に面会する、
葬儀の式場を下見する、洗礼を受ける、
そして、妻に愛してると言う。

病気の進展が早く、肝臓にも転移し、
年内には持たないとされた時、
最後の願いはアメリカにいる孫たちに会うこと。
その父の願いを叶えるために、
生まれたばかりの3か月の赤子を含む
三人の孫が急遽来日し、
家族と孫に囲まれて死を迎える。
ある意味、幸福な末期といえるのだが、
年齢的に少し早いのは確か。
また、日に日に衰えていく姿は痛々しい。

ナレーションは、砂田自身の言葉として描くが、
実際は次女の声
誰にでも訪れる死だが、
理不尽さだけでなく、
一つの諦念と現実を受け入れる様
胸を打つと共に、
高度成長期を支えた男の死にざまとして、
日本人の心に刺さる。

私は人が病気で死ぬ映画は極力観ないようにしているが、
途中で、まさにその種の映画だと気づいた時は、遅かった。

監督である次女の父への愛が溢れている映画。
日本の家族の典型でもある。
是枝裕和監督が製作に名を連ねる。

 

なお、私は死後を娘に託するファイルを既に作っている。
行きたいところは行ったし、
見たいものは見たし、
食べたいものは食べたし、
オペラもミュージカルも堪能した。
大方のやりたいことは成し遂げたので、
何時死期が近づいてもよい覚悟は出来ている。
ただ、国際情勢で3つの事柄だけは目撃したいと思う。
一つは北朝鮮の金体制が崩壊して、人民が解放されること。
一つは習近平体制が崩れて、中国が民主的な国家になること。
一つはプーチンが死んでウクライナが解放されること。
あと、アカデミー賞の第100回は見たいな。

 


映画『カウントダウン』

2025年05月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

舞台は香港
不法滞在者たちがうろつく
産業廃棄物集積所で火災が発生。
消防隊員たちが駆けつけ、
必死の救出作業の中、
高濃度セシウムの漏洩が判明。
香港政府は環境汚染問題のエキスパートと
精鋭の消防部隊を招集して対策を講じる。
一方、巨大な熱帯低気圧が香港に急接近。
セシウムが水に濡れると爆発し、
大量の放射能を放出する可能性があり、
そうなると、人口700万の香港が消滅してしまう。
台風到来までのタイムリミットは90分。
人々を救うことが出来るのか、
それとも未曽有の大災害が起こってしまうのか。
緊迫のカウントダウンが始まる・・・

というわけで、
「火災+放射能汚染+大型台風」という
三重の脅威が迫る中、
事態を回避するため奔走する人々の姿を描いた
ディザスターパニック大作。

最後の解決策は、
こんなことで汚染が止められるのか、
との疑問は湧くが、
まあ、映画だから。

専門家のファン役をアンディ・ラウが演ずるが、


その他の俳優は顔の区別がつかない。
入口で先着者に
俳優の顔をとはらえた12枚組のチラシが配られていたが、
それを見ても分からない。


原題は「焚城」というようだ。
燃える香港、という意味らしい。

監督は、元カメラマンのアンソニー・プン
従って、映像に手抜きはなく、迫力満点。
スケールの大きいパニックが展開する。
炎と爆発に包まれ崩壊する香港の街が描かれるが、
それは想像の中のこと。

香港映画史上初めて放射能汚染の恐怖に真正面から挑むが、
政府のせいではないので、
介入はなかったらしい。
ただ、会議の重要メンバーが
密かに家族に連絡して、
香港を離れるよう勧めるのは、どうなのか。
精鋭消防部隊が
「俺たちが香港を救うんだ」と言って命を捨てるが、
中国人も公のために犠牲になることをいとわないのは、
新たな発見。
福島第2原発を想起させる。

この物語はフィクションです、と
冒頭に謳っているが、
エンドロール前で
当事者たちの末路を明かす。
まるでドキュメントだ。

香港で初登場ナンバー1ヒットし、
年間興収第3位を記録。

大作なのに、
日本ではわずかな上映館で公開。
もったいない。

5段階評価の「4」

シネマート新宿で上映中。


映画『新幹線大爆破』

2025年05月05日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

4月23日からNetflix で配信された、
1975年の東映映画「新幹線大爆破」の
50年ぶりのリメイク
クレジットタイトルで、
75年版が原作であることを明示している。

新幹線に爆弾が仕掛けられ、
一定の速度以下になると爆弾が破裂するため、
停車することが出来ずに、走り続ける、
という設定だけをいただき、
後はほとんどオリジナルストーリー

75年版が東海道・山陽新幹線で、
東京から博多へ向かう、ひかり109号なのに対し、
新版は、東北新幹線で、
新青森から東京へ向かう、はやぶさ60号
ポイントとなる爆発時速
75年版が80キロだったのに対して100キロ
75年当時のひかりの最高時速210キロに対して、
はやぶさ最高時速320キロの反映だろう。
犯人の動機も解決方法も全く違う
運航不能で停車中の他の列車との接触を避けるために
ポイントを切り換えて、下り車線に入るところと、
別な車両を並走させ、
乗務員室の扉同士で滑車付きロープを結び、
必要工具を渡すところは
75年版を踏襲している。
身代金も、75年版が逃走資金の
500万ドル(当時のレートで15億円)のドル札だったのに対して、
1000億円で、集める方法は政府に任せるという。
「テロリストとは交渉しない」政府は拒否するが、
それがある方法で国民から集めるのは
時代の反映だ。

75年版と大きく違うところは、
75年版が
①新幹線内部の状況、
②司令室での対応、
③犯人たちの動向と過去、
④警察の動き
との4側面から描いたのに対し、
新版では、
①新幹線内部
②司令室
との2面建てとなっている。
終盤近くまで犯人を明かさないため、
そうならざるを得なかったようだ。

時代を反映して、
SNSによる身代金集めや
車内の実況配信などが描かれる。
また、爆発までの時間を延長するために、
東京駅で東北新幹線と東海道新幹線の
線路をつなげ、
鹿児島中央駅まで走らせるというアイデアも出て来る。

話の途中で「109号事件」という言葉がしばしば登場するので、
何のことかと思ったら、
75年版のことだった。
次第に分かって来る犯人像も、
75年版からのつながりで、
そういう意味で、
リメイクというより続編と言った方がいいかもしれない。
ただ、75年版を観ていない人には何のことか分からない。
実に不親切
更に言えば、
乗客の中で、ママ活不倫疑惑がスクープされた女性国会議員、
整備不良のヘリを小学校へ墜落させ、
児童の死者を出してしまった会社の元社長、
起業家YouTuberなどが出て来るが、
ちゃんとした説明もなく、
なんとなくしか分からない。
これも不親切。

何より、分からないのは、
時速100キロ以下で爆発する装置を
犯人がどうやって手に入れたか
それどころか、
4台もどうやって取り付けたか
は不明、というか、
ほとんど不可能。
75年版はそのあたりは明確にしていた。
それにしても、あんな動機
350名の命を奪うかもしれない
犯罪をするのは、説得力に欠けると思うが。
脚本に問題あり
最後の9名の救出作戦も
ほとんど無理筋だが、
まあ、映画だからね。

75年版は、
国鉄から協力を断られたのだが、
新版はJR東日本が特別協力しており、
実際の東北新幹線で撮影専用貸切列車
7往復走らせて撮影したという。
そのせいか、
新幹線の疾走感は75年版より進歩している。

監督は樋口真嗣

後ろの2車両を切り離し、
追尾してきた救助列車との間に橋をかけ、
340名の乗客を移すことに成功し、
60号に取り残された9人を救い出すのが
最後のミッションとなるが、
車両の切り離しが配線等で不可能なことは、
75年版で示されている。
ここは、映画のラストに

この映画に登場する人物、団体、車両、撮影地、
鉄道に関するルール、所作などは
実在するものに着想を得ていますが、
現実のものとは異なります。

ということで、言い訳していた。
まあ、映画だからね。

不満と言えば、
救出車両に乗客が移るところは、
もっとしっかり見せてほしかったのと、
停車後、9名の安否確認で車内に入るところは
もう少していねいにやれなかったか。

配信開始1週間後に
Netflix から発表された
非英語映画の週間グローバルチャートにおいて、
全世界で2位
制作国の日本を始め、
4つの国と地域にて1位をそれぞれ獲得した。


Netflix で75年版も配信していたので、
50年ぶりに観た。

原作はなく、
脚本は映画オリジナル
監督は佐藤純彌

久しぶりに観たのだが、
当時の日本映画の強味である、
しっかりした作りに感心した。
当時のひかりは下のデザインで、なつかしい。

機材はアナログ感満載。

既に書いたとおり、
爆弾を仕掛けた犯人、
危機回避に全力を尽くす国鉄サイド、
徐々に犯人グループを追い詰めていく警察、
パニックを起こす乗客の姿の4本柱が
実にていねいに描写され、
それぞれのドラマが適切な味加減で描かれ、
当時の日本映画の誠実な製作姿勢がうかがえる。

なにしろ、主犯を演ずるのが高倉健で、
零細工場の経営に失敗した男の哀愁が漂う。
仲間の過激派くずれと
集団就職で都会に来た沖縄出身の青年
との結びつきもなかなかいい。
日本高度経済成長時代への批判が内包されている。

当時は三菱重工爆破事件など、
連続企業爆破事件が発生していた時期で、
警察関係者は神経をとがらせていた。
国鉄(当時)は協力を要請されたが、
ドル箱の新幹線を爆破する映画と聞いて震えあがり、
真似する人が出るからと、協力を拒否
当時、新幹線に爆弾を仕掛けたという電話は
週に1本の割合でかかって来て、
その度に最寄の駅に停車させて検査するような状態だった。
国鉄は協力拒否どころか、上映中止を要請した。
東映は、仕方なく新幹線車内のセットを作って撮影。
窓外の景色はスクリーンプロセスを使った。
東京駅全景のカットや走行する新幹線のカットは盗み撮り。
想像の中での爆破シーンはミニチュアで撮影。

編集作業に手間取り、
完成は封切の2日前。
興行収入10億円を目標としていたが、
東京都心ではまずまずの入りでも、
当時は新幹線がまだなかった北海道や東北地方の客入りは悪く、
大阪などでは途中打ち切りに遭った。
製作費が高かったため、
国内興行では約2億円の赤字を出した。
1975年度キネマ旬報ベストテンでは第7位だったが、
読者選出では、ベストワンに選ばれた。

海外では評判を呼び、
東映に収入をもたらした。
ただ、海外版は短くして再編集され、
犯人側のドラマがカットされたため、
新幹線に次々襲いかかる危機を描く
息をつかせぬ展開となった。
それを観た東映幹部は、
「どうして日本の映画監督は、
 無駄な部分にカネをかけるんだ」
と言ったという。
この短縮版は凱旋公演として日本でも上映されたが、
私は観ていない。

久しぶりに観て、
なかなかの成功作だと思った。

なお、一定の速度以下になると爆発するという
アイデアは、
ヤン・デ・ボン監督の「スピード」(1994)で
流用されている。
東映は原案権を主張して訴訟を起こすべきという声が上がったが、
岡田社長の「やめておけ」という一言で黙認した。