空飛ぶ自由人・2

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『「慰安婦」はみな合意契約をしていた』

2024年01月30日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

副題に「ラムザイヤー論文の衝撃」とあるが、
ラムザイヤー論文とは、
ハーバード大学教授の
ジョン・マーク・ラムザイヤーが、


2020年12月、
法律・経済学の学術誌
「インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス」
のオンライン版に発表した
「太平洋戦争における性契約」と題する論文のこと。
これがメディアに報じられると、
韓国と欧米の学者から猛バッシングを受けた。
というのは、
ラムザイヤー論文では、
太平洋戦争中の日本軍の慰安所に従事した慰安婦たちが、
多額の前払い金による
年季奉公契約によるものだったことを論証し、
従来の「日本軍による強制連行説」、
「性奴隷説」を真向から否定するものだったからだ。

本書の筆者の有馬哲夫氏は、


このラムザイヤー論文を
公文書から検証して支持し、
反対者の批判に反論するのが本書。

有馬氏は、
1953年(昭和28年)生まれの早稲田大学教授。
ラムザイヤー論文を支持したことで、
反対勢力から「歴史修正主義者」という烙印を押されて
非難された。
歴史とは新たな発見があれば、
論文によって修正されるのは当然なので、
この烙印は単なるレッテル貼りに過ぎない。
有馬氏に反対する署名活動は、
既に6000筆の署名が集まっているそうだが、
数を頼もうとするのは、彼らの常套手段だ。

有馬氏は、こう言っている。

そもそも私は歴史学者というより
公文書学者なので、
一次資料から歴史的事実を明かにしていくだけで、
一定の見方というものがない。
私のゴールは、
これまで発見をされていない新資料によって、
これまで知られていなかった
歴史的事実を明らかにすること、
あるいはこれまで定説とされていたことを
覆すことだ。

その点で、ラムザイヤー論文は及第点。
だから、支持する。

本書には、巻末に、
そのラムザイヤー論文が全文掲載されている。
私も初めて読んだが、
日本語の一次資料を駆使して、
当時の外地での慰安婦の数も細かく掲載されており、
学術論文として信頼出来るものだ。

なお、ラムザイヤー教授は、
シカゴで生まれ、0歳時に来日、
18歳までは宮崎県に居住した人物。
日本語に堪能で、
日本語の資料を読みこなすことが出来る。
論文には、論拠となる資料が列記されている。
それに対して、批判者が日本語の資料をみ読みこなしたとは思えない。

この騒動の経過で、何より不思議なのは、
学術論文への批判は、
学術論文でなされるべきだと思うのだが、
そうではなく、
頭から論文が間違っていると決めつけ、
論文の撤回を求めるだけでなく、
教授の解任をハーバード大学に求めている点だ。
これに対し、掲載誌は、論文の撤回をしない決定をし、
大学も教授の解任には応じていない。
学問の論争は自由に行われるべき、
という観点から当然の結果だ。

もう一つ不思議なのは、
教授の同僚たちからも猛烈な批判がなされていることで、
学者なら、論文への批判は論文で、
ということは分かっているはずなのに、
そういう行動を取っていない。
そして、反対勢力は、署名を集めて撤回と解雇を求める。
彼らが本当にラムザイヤー論文を読んでいるのかは、不明。

2021年1月12日産経新聞の
英語ニュースサイトで取り上げられたことで、
韓国で猛批判が沸き起こり、
それを受けて、英語圏でも知られるようになった。
2021年2月中には、英語圏で反対活動が広まり、
ノーベル賞学者を含む有名学者が相次いで声明を発表、
学術誌からの撤回を求める署名活動も始まり、
声明や署名には高名な経済学者、日本研究家も名を連ね、
3月にはフィラデルフィア市議会で非難決議、
ホワイトハウスで質問が出るという事態になった。
日本においても、三つの歴史学会を含む
四つの団体が慰安婦は強制されたものであるとの声明を出した。

学術誌に掲載された、
わずか8ページの論文に対する反応としては、
常軌を逸している、と言えるだろう。
どこかで、誰かが組織的に画策しているとしか思えない。
ラムザイヤー論文で明らかにされては
よほど困ることでもあるのだろうか。
自らの理論が正しければ、
泰然としていればいいのに、
その理論の嘘が見抜かれてしまったために、
うろたえているとしか思えない。

慰安婦問題については、
4つの柱がある。
①朝鮮人慰安婦20万人説
②慰安婦強制連行説
③慰安婦性奴隷説
④終戦時の朝鮮人慰安婦虐殺説
しかし、これらの説を裏付ける一次資料は、
日本人も韓国人も世界の誰も見たことがない
という不思議。

普通考えても、
①②の20万人もの女性を強制連行などしたら、
その移動手段、管理体制から考えても、
不可能だと思うが、
学者たちは、そうは考えないのだろうか。
抵抗運動や集団脱走などあったはずだが、
そんな事件は報じられていない。
(ちなみに、「反日種族主義」を書いた一人、
李宗勲が綿密な調査から
複数の算定法を使って、
朝鮮人慰安婦の数は3600人前後だと言っている。
納得できる数字である) 
④の、敗戦時、日本軍が証拠隠滅のため、
慰安婦を何十万人も殺したというなら、
その遺体はどう処理されたのか。
事実なら、証拠がないはずがない。
③の性奴隷説は、
実際、兵隊は金を支払って行為を行ったのであり、
慰安婦たちは、相応の金を受け取っていた。
兵隊の何十倍の収入を得ていたという証拠も揃っている。

というわけで、全部捏造された歴史だということは、
少し考えれば分かるのだが、
学者たちは、それに固執し、
ラムザイヤー論文に対して
いきり立って反対の声をあげる。
何か困ることでもあるのだろうか。

ラムザイヤー論文で
新たに知ったことが沢山ある。
たとえば、日本軍が慰安所を設置した理由。
設置した、というのは正しい表現ではなく、
日本軍は駐屯地の近くに
民間業者が半ば軍公認の売春宿を作ることを奨励した、
ということなのだが、
その理由は、性病の蔓延を防ぐためだった。
それは、1918年のシベリア出兵の際、
性病が軍を壊滅状態に追い込んだためだ。

古今東西を問わず、
どんな軍隊も兵士の性に関して3つの選択肢しか持っていない。
①レイプを放置する(ソ連がそれだ)
②買春を放置する
③軍事売春所を作って、兵士の性を管理する
日本軍は、①では、地域住民の反発を買う、
②では、性病が蔓延する
ので、③を選択したのだ。

日本軍は、売春所に協力する代わりに、
娼婦に定期的な検診を受けるよう要求し、
性病にかかった慰安婦は
治るまで客を取らないように指導した。

なお、当時、売春は合法で、
国内法でも国際法でも違反していない。
その証拠に、日本を厳しく裁いた極東国際軍事裁判でも、
慰安婦制度も個々の慰安所も訴追されていない。
問題視されないのは、
それが、合法だったからだ。

そして、貧困が原因の女性たちが
それをビジネスとして受け入れた。
つまり、目的は金。
そうでなくて、
誰が慰安婦などになるものか。

当時、売春は認可事業だった。
娼婦になるためには、
契約書の他に5種類の書類が必要だった。
承諾書、酌婦営業許可書、調査書、
印鑑証明、戸籍謄本だ。
これらの書類は「同意」がなければ
準備できるものではない。
そして、これらの書類を見せなければ、
渡航許可書をもらって、
慰安所のある海外に渡航することは出来ない。
この仕組み一つ取っても、
強制連行説が嘘だと分かるだろう。

普通に考えても、
娼婦だって人間だ。
損得勘定くらいするだろう。
ラムザイヤー論文の
大金の前渡金と年季奉公というのは納得できる。
それは、強制連行説の全面否定。
だから、
ラムザイヤー論文に
過剰な反応をしたのだ。

ラムザイヤー論文を貶めるために、
反対派は卑劣な手を使っている。
①人格攻撃(日本政府から金をもらって書いた 等)
②モラルでの非難(「女性の人権」を持ち出す 等)
③過去の制度を現在の基準で批判
④レッテル貼り(歴史修正主義者 等)
⑤イメージ操作
⑥示した根拠を無視
⑦資料の捻じ曲げての解釈
⑧揚げ足取り

そして、論文撤回を叫ぶ学者たちの反論における
共通の思想は次のとおり。
①敗戦国日本は全ての悪の責任を負うべきだとする東京裁判史観
②被植民地国が不法に搾取されたとする日帝史観
③女性の権利を制限するすべての行為を
 その背景の如何に関わらず非難対象とする
いずれも低次元で表層的な反論であり、
客観的証拠を伴わない感情論で支配されている。
そして、過去の出来事を
今の価値観で判断しようとする
間違った試み。

本書でラムザイアー論文本体を読み、
反対派の主張を読み、
有馬教授の反論を読んでいて、
暗澹たる思いがした。
真実に迫る論文を
寄ってたかってなきものにしようとする人々の
暗いメンタリティ
一体どうしてそんなことが出来るのだろう。
70年以上前のことを
妄想で捏造し、
それを主張するだけでなく、
それに反する事実の提示を
総出で抹殺しようとする人々。

この歴史的嘘、
国家的冤罪
いつまで続けるつもりなのだろうか。

 


映画『ハロー!? ゴースト』

2024年01月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

2023年公開の台湾映画
12月18日からNetflixで配信

天涯孤独で、絶望感から自殺を繰り返すアウェイ。
しかし、なぜかいつも失敗する。
今度も瀕死の状態で発見されたアウェイは、
生死の境を彷徨うが、再び救出される。
ところが、搬送先の病院で治療中に、
4人の幽霊に出会う。
ヘビースモーカーの中年男、
泣くのをやめない女、
おせっかいなおばあさんに
生意気なガキ。
その4人の幽霊は、
退院するアウェイに着いて来て、
家に住みついてしまう。
もちろん、アウェイにしか見えないのだが、
時々、アウェイの体に取り憑いて、
変な行動を取らせるから困る。
霊媒師に見てもらうと、
この世に未練を残して死んだ人たちだから、
4人が果たせなかった願いをかなえてあげないと、
あの世に旅立たないという。
彼らを成仏させるために、
アウェイの奮闘が始まる・・・

という、コメディ。
幽霊の出し入れが秀逸で、
アウェイの慌てふためく様を笑っていると、
終わりから15分くらいのところで、
突然、話が一転する
4人の幽霊が何者だったのか、
が分かった段階で、
涙、涙の涙腺決壊の展開となる。

実は、この映画はリメイクで、
元は、2010年の韓国映画。


チャ・ テヒョン主演。

さっそくHuluで観てみたところ、
大筋は同じだが、
細かいところで改変が。
オリジナルで4人の幽霊の一人がスケベオヤジだったのが、
くじ当選に執念を燃やす老婆に。
主人公が恋心を燃やす相手がホスピスの看護師だったのが、
消防署の救命士に。
彼女の身内の死が、父親ではなく、兄に。
主人公が記憶を取り戻すきっかけが
のり巻きのセリから仙草ゼリーに、等々。

監督はシエ・ペイルー
主人公役は、ツェン・ジンホア

全体的に、台湾版の方がすっきりとまとまっている感じがした。
兄の伝言を伝える場面での、ひねりがなかなかいい。

インドネシアでもリメイクされているらしい。

3作品それぞれの幽霊たち。

韓国版↓。

台湾版↓。

インドネシア版↓。

 

                                                                                


日本の子どもは世界でいちばん礼儀正しい

2024年01月28日 23時00分00秒 | 様々な話題

「日本の子どもは世界でいちばん礼儀正しい
 イギリス育ちの息子が日本の小学校に入学して大感動したワケ」
という興味深い記事が出ている。

イギリス在住で著述家の谷本真由美さんの
「世界のニュースを日本人は何も知らない5」
に掲載されたもの。


「世界のニュースを日本人は何も知らない」のシリーズは、
このブログでも「1」と「2」を紹介したことがある。
もう「5」まで来ていたか。

その要約が↓。

○谷本さんの息子は、
長い間、日本の学校に行くことが夢だった。
アニメや動画で日本の学校が紹介されて、
興味を持っていたのだ。

○ついに日本の学校に行くことが出来るようになり、
その感想は、素晴らしいものだった。

○まず、先生方がイギリスとは全く違う
イギリスの先生たちはごく一部を除きビジネスライクで、
お金のためにやっている人もおり、
子どもの好き嫌いがひどく、
親身になる感じではない。
自分の担当以外の仕事は一切しないし、
時間になればさっと帰ってしまう。
嫌いな子どもには話しかけないし、
怒るときは小学生に対しても軍隊口調で怒鳴りつける。

○ところが日本の先生方は子どもたちを
まるで家族や親戚のように扱ってくれて、
心底温かい対応をしてくださる。
筆者の息子がゲロをはいてしまったときは、
先生が自ら掃除をしてくれた。
これはイギリスではありえないこと。
掃除はすべて外注の業者がやるからだ。
業者の人がいつもいるわけではないので、
そういう汚れた教室は閉鎖され、
ひどい場合は3日間も放置される。
一方、日本の学校では
先生が5分も経たずに片づけてしまい、
子どもたちは手伝ってくれた。

同級生は大変親切で、
新参者であり、単なる訪問者にすぎない、
息子に気を配り、
挨拶を欠かさず、
仲良く遊んでくれた。
小学1年生でもこんな大人のような振る舞いができることに、
息子は大変な衝撃を受けた。
登下校時にも同級生が気を遣い、
「いっしょに帰ろうよ」と声をかけてくれ、
下駄箱の場所やさまざまな物の使い方を教えてくれた。

○イギリスの学校では
新参者は警戒され、
友だちは何カ月もできず、
持ち物が古いとか髪型のことなどを揶揄するのが当たり前で、
とても意地悪な子どもがいる。
クラス内では人種や親の職業で派閥ができてしまっており、
誕生会に招いた招かないでいじめが横行。
暴力的ないじめもある。

○日本で通った小学校は、そんな厳しい現実とは無縁で、
息子がお客さんだったからというわけでもなく、
そのクラスの子たちは普段から仲が良く、
みんなで親切にし合っていて
全体が友だちのような雰囲気だった。

○息子が驚いたのは、
生徒たちは「カナヘビ」というトカゲを飼育し、
虫かごに入れて「かわいいね」と
撫でたりして大事にしていたこと。
イギリスの学校では小動物や爬虫類を飼うことはない。
虫や爬虫類を発見すると、踏み潰して殺したり、
いたぶって遊んだりする子どもが多くいる。
小さなものを大事にする感性のある子どもは少なく、
自然にもあまり興味を抱いていない。

○イギリスの子どもたちは裕福な家の子でも、
ゴミを床や道に投げ捨て、
並ぶべきところできちんと並ばず、
人を押しのけ、私語だらけで大騒ぎし、
気を遣わず、意地悪をし、
トイレを汚し、
食べ物を床に投げて足で踏み潰し、
カーペットになすりつける。
大人の「使用人」が掃除すると思っているからわざとやるのだ。

○日本の子どもたちは
全体的に礼儀や共感性がしっかりしており、
小さな子でも「非認知能力」が恐ろしく発達している。
記憶力や学力テストで数値化できる能力は「認知能力」であり、
算数や国語など試験の成績に当たる。
これに対して、非認知能力とは
「社会情緒」に関する能力のことで、
感情の動きをつかさどる。
それは「社会性」「協調性」「忍耐力」「意欲」
「自己肯定感」「予測力」「共感性」などで構成される。
もっと具体的にいうと以下のようなことだ。
  ◇同級生の体調を気遣う
  ◇相手の都合を考えて予定を調整する
  ◇お客さまのニーズを察知する
  ◇グループ活動をやり目的を達成する
  ◇ものごとをやり遂げる
  ◇周りの人と上手にコミュニケーションをとる

○息子が遭遇した学友や街で出会う日本の子どもたちは、
かなり高いレベルで成熟した非認知能力を身につけている。
親が学校へ迎えにいっても、
小学1年生がきちんと挨拶をしたり、
たいへん丁寧に世間話をしたり、
下駄箱に靴をきちんとしまう。

○待ち時間に観察していたところ、
遠足から帰ってきた5年生は
バスから下車して点呼が終わるまで10分かからなかった。
統制がまったくないイギリスやフランス、アメリカの子どもなら
同じ行動に40分ほど要するはず。

○だから日本の公立校に通う
ごく普通の小学生が
イギリスの小学校に転校した場合、
その子どもは礼儀や行動評価で
全学年のトップになってしまうだろう。

えっ、イギリスの学校って、本当にそんなにひどいの?
と思ってしまうが、
イギリス在住の人が
こうして本に書いているくらいだから、
本当なんだろう。

日本人は、江戸時代から、
町人の子どもでも、
寺子屋で教育を受けた。
明治以降、教育に力を注ぎ、
識字率は100パーセント。
漢字、ひらがな、カタカナをこなす。
中国では一つの漢字に一つの音だが、
日本では、同じ漢字でも数々の読み方があり、
それを全部身につけている。
26文字しかないアルファベットを駆使する欧米でさえ
識字率が低いことを考えると、
日本人の頭脳と教育の力の大きさを誇りたい。

「世界のニュースを日本人は何も知らない」の1と2についての
過去のブログを再読してみたが、
欧米、特にイギリスと比べて
日本がどれほど住みやすい国かが分かって興味深い。

そのことを日本人自身が知らない、ということが不幸だ。

 


『コンビニオーナーぎりぎり日記』

2024年01月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介] 

三五館シンシャの職業日記シリーズ、
第18作目(多分)。
この日記シリーズ、
普通知らない職業のことを知ることが出来るのはいいが、
総じて筆者の文章がヘタなのが難。
ただ、本書はなかなか血の通った文章で、
気持ちが伝わって来る上出来な一冊。

以前、「コンビニオーナーになってはいけない」という本を紹介したが、

これは、それとは違う雰囲気の本。

筆者の仁科充乃(にしな・よしの) さんは、
1990年代に、
夫婦でファミリーハート(どう考えてもファミリーマート)のオーナーになり、
30年継続。
次の契約更改をするかどうか、迷っている。

テレビ番組などで、
コンビニ経営の大変さは
情報が入っているが、
30年の豊富な経験からの体験談は貴重だ。

何が大変かというと、
仕事が多すぎる
本部から送られて来る商品を
確認し、仕分けし、棚に並べ、売るだけでなく、
チキンを揚げたりの作業もしなければならない。
宅配便の受け付けもするし、
チケットや預かり荷物のお渡し、
公共料金やネット通販の送金もある。
廃棄物の処分、清掃、本の返品作業。
配送は日にトラックが何回も。
1便、2便、3便、
常温便、パン便、冷凍便・・・

コンビニが多くなり過ぎたために、
客の取り合いだけでなく、
従業員の奪い合いも起こる。
そのシフトの作成も大変だ。
パートやバイトは慢性的に不足。
シフトに空きが生じた時は、
オーナー自らが埋めなければならない。

従って、普通のサラリーマンのような家族の団欒など出来ない。
夫婦でやっている店は、
そのどちらかが店に出ていなければならないからだ。

仁科さんの店は、
夜9時から奥さんが店に入り、
10時からワンオペ(一人で店を回す)。
午前4時に夫と交代。
家に帰って寝る。
その間に子供の世話もしなければならないし、
近所の付き合いもしなければならない。

この夫婦の場合、
ご主人は9年休みなし
奥さんは連続1057連勤だ。

コンビニ1店舗あたりの平均売上は、
セブン・イレブン約65万5千円、
ローソン約43万6千円、
ファミリーマート約48万9千円。

契約形態には、2種類あり、
1FCは土地と店舗はオーナー持ち。
2FCは土地と店舗を本部から借りる。
ロイヤリティ(もうけの中から本部に支払う分)は前者36~49%、
後者は65~70%。
働いて稼いだ分の半分から3分の2は、本部に取られる。
契約期間は10年。
契約を継続すると、
改装費800万ほど、
10年間貯めた貯金を吐き出すはめになる。

大きな借金をして店を始め、
借金がなくなったころ、
契約が切れ、
再び借金をしてリニューアルオープンし、
やっと返済が終わったころ、
再契約の時期が来る・・・
を繰り返す。
これは、もしや昔の小作人と同じ?
と思うことがある。

店じまいを決めた人の言葉。

「蓄え? あるわけない。
うちは借金をして始めて、借金返して終わり。
20年やってマイナスにならなかっただけ良かったよ。
でも、もう経営者はコリゴリ」

本部が応援する開店3日間の売上は全部本部のもの、
というのも不思議。
そのことを知った親戚は、
「あんたたちのもうけになると思って、沢山買った。
知ってたら、4日目以降に買ったのに」と。
開店ご祝儀で、
オーナーにあげたらどうなのか。

始めてしばらくは、
人間不信に陥ったという。
客の見下した態度、暴言に傷ついたのだ。

コンビニの仕事を始めて、
私は心が確実に汚れていくのを感じた。

わがままな客は、
威張りちらし、無理難題を要求する。

もう一つの心痛は、
食品の廃棄
消費期限が近づいた食品は、売ってはならない決まり。
廃棄が辛くて、

きっと自分大量の食料を捨てた罰で、
飢え死にするだろうのではないかと考えた。

しかも、廃棄した分は、お店持ち。
独特の計算法で、
おにぎり10個仕入れて2個廃棄したら、店が損をする。
値引き販売は禁止だったが、
公正取引委員会の指導で、
ようやく値引き販売が出来るようになった。

商品の廃棄時間が来ると、
店内にそれを知らせる音楽が流れる、
ということを本書で始めて知った。

家の食事は、
全て廃棄でまかなえるという。

サラダ、肉料理、魚料理、
お惣菜、果物、そしてデザートまで、
毎食フルコースだ。
私たちはここ2年ほど、
ほぼ毎日廃棄を食べて生きている。

回って来るSV(スーパーバイザー)との確執もある。
良いSVは、店のためを思い、
草取りなどをしてくれる。
本部の方針が変わって、
SVが監視役になってしまったりする。
工夫して作ったポップを
「勝手なことをするな」と外されたこともあるという。
最初の頃は店舗経験のある人がSVになったが、
次第に店舗経験のない若造がするようになった。

(本部から)われわれがブラブラ遊んでいるとでもいうかのように、
次々と細かな指示が飛んできた。
「今だってこんなに忙しくてぎりぎりでやっているのに、
これ以上できない!」
現場を知らないで、
思いつくままに仕事を命じてくる本部に
怒りを覚えたこともある。

それでも次第に変化はある。
ある時の本部社長の訓辞。

「少しでも店の負担を軽減するよう、
さまざまなことを見直し、
細々としたことも変えていく」
という宣言があった。
そして実行に移してくれた。
以来、次々と出されていた細かい指示は
バタリと止んだ。

働いても働いても、本部に吸い上げられる。
読んでて辛くなるような記述が続く。
それでもやめないのは、
客との交流や従業員との信頼関係など、
日々の生活に歓びがあるからで、
そのあたりの機微がよく描かれている。

いろいろあっても、
それでも、世間にコンビニは増え続けている。
もう日本の社会になくてはならない存在だ。
そして、来店した外国人が驚き、
日本のコンビニは世界一という評価が定着している。
アメリカで始まったコンビニは、
日本で花開いたと言えよう。

 


ドラマ『侵入者たちの晩餐』

2024年01月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[ドラマ紹介]

1月3日に日本テレビ系で放送された新春スペシャルドラマ。
脚本がバカリズムで、独特の世界が展開する。

家事代行サービス会社で働く清掃人の田中亜希子は、
同僚で料理代行担当の小川恵から、
元アイドルで起業した社長・奈津美が脱税をしており、
自宅に大量の金を貯め込んでいるらしい、
という噂を聞く。
日頃から会社のやり方や待遇に不満を抱いていた亜希子は、
恵がヨガ教室で知り合った江藤香奈恵も誘って、
3人で社長の家に侵入し、
タンス預金を盗み出すことを計画する。
盗まれたことが分かっても、
表沙汰出来ない金だから、
社長も通報しないだろうとの予測によるのだ。

奈津美が週末からハワイ旅行へ出かける、
という話を聞いた3人は、
社長のすきを突いて盗んだ鍵の複製で、
夜、奈津美の豪邸マンションに潜入。
しかし、どこを探しても隠された現金はみつからない。

家探しの最中、もう一人の侵入者の空き巣狙いを発見、
からしスプレーで目つぶしし、
三人がかりで縛りつけるが、
その処理に困ってしまう。

その上、情報が間違っていて、
社長がハワイに出かけるのは、翌日から。
エステから社長が帰って来てしまう
亜希子たちは、家のあちこちに隠れるが、
先に社長がコソ泥と遭遇してしまったため、
仕方なく、亜希子は、社長の前に姿を現す。
いろいろあった後、
更にもう一人の侵入者が現れて・・・

と、次々と予期せぬ出来事が起こっていく。

よく工夫された脚本で、
装置一つ、登場人物6人の、
アメリカで言うウェルメイドプレイの趣。
5人の侵入者と社長の
出し入れに妙味がある。
時間経過さえ上手に処理すれば、
舞台劇にしてもいいくらいだ。

始めの方で、
侵入を正当化するために、
話し合う、亜希子たち会話が楽しい。

「それはさすがにマズいじゃない?  泥棒だもの」
「そもそも罪を犯してるのは、社長なんだから。悪は向こうじゃん」
「悪は向こうかもしれないけど、こっちも善ではないよね?」
「まあ、善ではないけど、普通の泥棒ほど悪じゃなくない?」
「でも結局自分の懐に入れるんだから、十分悪じゃない?」
「考えてみ。うちら今まであの社長に低賃金でさんざんこき使われてきたじゃん」
「それはそうだね」
「でしょ? だから、その分を取り戻すって思えばよくない?」
「にしても、数億円は取り戻し過ぎじゃない?」
「じゃ分かった。必要な分だけ取って、あとは寄付すればいいんじゃない?」
「寄付? どこに?」
「なんか、そういう、世の中の困った人を助けるところに」
「赤十字的な?」
「そう。それなら、どっちかっていうと善じゃない?」
「善なのかな? 入口は悪だからなあ」
「でも人助けもしているからさ、最低でもトントンじゃない?」
「トントン?」
「うん、善と悪トントン」
「トントン・・・ちなみに、仮に3億円あった場合、いくら寄付すんのよ?」
「3億だったら、それこそ1億円ガツンと寄付して、残り2人で分けようよ」
「1人1億? もらい過ぎじゃない?」
「そう?」
「なんか、そこまでもらっちゃうと、トントンっていうか、大分悪寄りな感じしない?」「じゃ分かった。2億円寄付して、5000万、5000万」
「5000万も?」
「でも2億も寄付してるからさ、2億円って相当だよ?」
「まあ、そうだけど」
「でしょ? やらない? 人助け」
「人助け?」
「そう。3分の2が寄付だから、メインは人助けって言えるでしょ。あとはオマケ。仲介料」
「仲介料ではないと思うけど」
「割合的には、それくらいじゃん」
「まあ、そうだけど、泥棒は泥棒だもんな」

また、社長の豪邸の豪華な暮らしに、
犯罪の罪意識が消し飛んでしまう、
というのもうなずける。

家捜ししてもタンス預金が見つからず、
電話で経理係に確かめてみると、
どうやら、社長が脱税しているという情報は勘違いらしい、
と悟った三人が
罪滅ぼしにと、社長の部屋を掃除したり、
残った食材で料理を作ったりというのも
笑わせる。

香奈恵と社長の意外な関係も驚かされるし、
最後の展開で、
思わぬ形で侵入が表沙汰になる上に、
事態の真相が明らかになるのも面白い。

バカリズムは、
国内外の賞を総ナメにした
連続ドラマ「ブラッシュアップライフ」でも、
卓抜したアイデアで注目されたが、
この作品も、才能を感じさせる出来。

出演者たちの顔ぶれがなかなかで、
三人の女侵入者に菊地凛子平岩紙吉田羊


他の侵入者に池松壮亮角田晃広
女社長に白石麻衣

セリフの面白さと
シチュエーションの卓越さ、
意外が度重なる展開と
伏線の巧みな回収、
テンポの良さで、
1時間半があっという間に過ぎ去る。

ただ一点、残念なのは、
ある「モノ」の重さを的確に表現できなかったことか。

演出は水野格

Netflix、Tver、Huluでも視聴できる。