空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

短編集『駐車場のねこ』

2024年03月30日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「襷がけの二人」で直木賞候補になった
嶋津輝の初短編集。
単行本「スナック墓場」を改題。
「オール讀物」新人賞受賞作「姉といもうと」を含む。

「ラインのふたり」

「ライン」とは、「LINE」ではなく、
工場での箱詰め作業のラインのこと。
霧子は、長年勤めたスーパーをリストラ同然に退職させられ、
ハローワークで同じスーパー関係の仕事を探すが、みつからず、
とりあえず、日当仕事の軽作業の工場に勤めている。
シャンプーの試供品の箱詰めなどが主な仕事だ。
そこで亜耶という女性と知り合い、通勤に車に乗せてもらっている。
パートの監視役が「ちゃんと手ぇ動かしてね」と言って回るが、
亜耶に言わせると、
霧子がちょっと手を休めているのに合わせて言っているというのだが・・・

「カシさん」

職人気質のクリーニング屋夫婦。
最近引っ越してきたらしい女性が
3日に一度位の頻度で洗濯物を持ち込むようになった。
最初は、下着まで持ってきたので、それは断った。
どうやら、洗濯機がないらしい。
名前をカシさんという。
お菓子の菓子だというが、
主人はいらない想像をしてしまう・・・

「姉といもうと」

姉の里香は、週5日家政婦をしている。
若いのに珍しいと言われるが、
幸田文の「流れる」に出て来る女中の姿にあこがれているのだ。
妹の多美子は、わけがあって、指がないが、
活動的で近所の老人夫婦が経営する
ラブホテルで受付をしている。
里香の勤めは午前10時から午後4時までで、
主人夫婦とは基本的に顔を合わすことはないが、
つい先日は忘れ物を取りに来たご主人と遭遇した。
珍しい名前で「保母」さんという。
妹の多美子が6年も付き合っている恋人の山名君を連れてきた。
山名君は外資系の証券会社に勤めているが、
その上司が保母さんという名前。
ある時、人間ドックから早帰りしてきた保母氏から
「鬼瓦多美子さんは、あなたの妹さんだよね」と訊かれる・・・

「駐車場のねこ」

布団屋の妻の民子は、
向かいのコインパーキングに住み着いた猫に
一日2回エサをやっている。
夫の治郎は役者にしたらいいほどのハンサム。
民子は足の痺れの治療のために入院し、
ねこに餌がちゃんとされいるか心配する。
夫と連絡が取れなくなり、
あとで、腹を壊して寝込んでいたという。
向かいのふぐ屋の女将が持ってきたものを食べたというのだが・・・

「米屋の母娘」

足をけがして歩けない母を心配して訪ねた益郎は、
商店街の端にある米屋で弁当を買う。
しかし、ご飯はうまいが、おかずが極端に少ないものだった。
その上、米屋の娘は、全く愛想がない。
それでも、益郎は、母を訪ねるたびに、
その米屋で弁当を買う。
実は、益郎は、女性にぞんざいに扱われると
気分が高揚する性質(たち)だった・・・

「一等賞」

ユキは、父母から買い物を頼まれると、
わざと健気(けなげ)な風を装うのを習い性にしていた。
一方、商店街には、アル中の後遺症で
商店街を徘徊してしまうアラオという男がいて、
人々は優しく見守っていた・・・
ある日、転んでケガをしたユキの顔を見て、
お店の主人は虐待を疑う。
そして、アラオの症状が進行して・・・

「スナック墓場」

「スナック波止場」は、近所の老人たちのたまり場で、
流行っていた。
常連客に高齢者が多いために死ぬ人が多く、
近所から「スナック墓場」と呼ばれていた。
オーナーが亡くなったので、
スナックも閉店になったが、
ママとハラちゃんと克子の女性店員は3人で集まって
1年に1回、同窓会を開いていた。
今日は、近所の大井競馬場。
克子は、ハラちゃんがパドックで「いい、強い」とつぶやいた馬が
勝つことに、気づく。
そこで、次のレースでハラちゃんの予言の馬券を買ってみると・・・。

と、あらすじを書くもの苦労するほど、
実は事件は起こらない
なにか起こりそうで、起こらない。
日常のようで、日常でない
不思議な個性の登場人物たちが
普通に暮らす様を描いて、
でも、どこか普通じゃない。
そして暖かい。
どこかであったような話でありながら、
どの話にも似ていない、
この作者独特の雰囲気が香りを放つ。

オール読物新人賞審査員が皆高評価だったという。
玄人好みなのだ。
話に何の仕掛けはないけど
淡々と上手く、
すいすい読めて味わい深い。
どの話も懐かしい感じを醸し出す。

どなたかが、21世紀版向田邦子と言って、
いくらなんでも褒め過ぎだとは思うが、
もしかして、そうなるかもしれない。

「襷がけの二人」の紹介ブログは、↓。

https://blog.goo.ne.jp/lukeforce/e/e7e8ab9ba9a5b275c9f73b742b194c84 

関係ないけど、この写真↓。

笑えますね。

 


映画『ゆるし』

2024年03月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

宗教二世の問題を扱った映画。

新興宗教「光の塔」の信者である松田恵の娘・16歳のすずは、
教団の教義に反する(競争の禁止)からと
学校のマラソン大会に出場拒否し、
クラスの学友からのいじめにあう。
唯一理解者のクリスチャンの友達とも、
誕生カードを母親に破られたことで(誕生日の祝いは、異教の習慣と禁止)
気まずい関係になってしまう。


学校で教団への献金袋を盗まれたすずは、
献金しないと救われないと半狂乱になる母親から
ベルトでぶたれる折檻を受け、
お金を借りるため祖母のもとを訪れる。
虐待の事実を知った祖父母はすずを保護するが、
母親が乗り込んで来て、
取り返されてしまう。


更にいじめで犯されたすずは、
「汚れている」と母親から拒絶され、
を考える・・・

宗教二世の虐待の実態を
娘・母・祖母の三世代の視点から描いた人間ドラマ。
自身も新興宗教で洗脳された過去を持つ平田うらら監督が、
ある宗教二世が残した遺書に感化されて製作を決意し、
自ら監督・脚本・主演を務めて完成させたという。

実は、この映画、59分しかない。
それでは正規の入場料を取るのに
気が引けたのか、
上映後、トークショーが付く。
私が鑑賞した時は、
平田監督と公認心理士の方で、
二人共新興宗教から脱会し、
洗脳を解かれた過去を持つ。
その経験談を交えてのトークは興味深かった。

しかし、映画の出来栄えは、
脚本・演出・演技・音楽全てにおいて、
料金を取って、映画館で上映するレベルには達していない
酷なようだが、映画という媒体の品質の維持の観点から、
そう断定せざるを得ない。
全体的にチープな映像で、
制作費はいくらだったのだろう、
と思っていたら、
監督自ら179万円だとあかしてくれた。
監督は若干24歳で、
大学4年生の時、作ったという。
映画製作経験のない女性の作品。
つまり、自主映画
従って、入場料は
この運動に対するカンパという意味で支払われると考えたらよい。

ただ、新興宗教と家族の問題は、
これほど巷間をにぎわせているにもかかわらず、
テレビも映画業界も取り上げる気配を見せない。
宗教団体からの反駁を恐れてのことだとしたら、情けない。
本作でも、モデルは明らかに「ものみの塔」(エホバの証人)なのに、
忖度が目立つ。
さすがに聖書は聖書のままだが、
引用聖句は、明らかに伏せている。

エホバの証人・・・
1870年代にアメリカ合衆国で
チャールズ・テイズ・ラッセルによって設立された
キリスト教系の宗教団体。
独特の聖書解釈をしており、
正統的なキリスト教からは、異端とされる。
国によっては、カルト集団に分類されている。
子供を伴っての訪問伝道、
兵役拒否や輸血拒否、
学校での剣道授業の拒否などで
世間を騒がせる。
厳格な戒律があり、
若年者へのムチやベルトでの折檻も問題視される。

監督自身も圧迫を受けたことを語っていたが、
様々な困難の中、
足りない予算を工面して、
自分で脚本を書き、自分で監督し、自分で出演して、
映画という形で世に残し、
拡散しようとする
その心意気は評価したい。

アップリンク吉祥寺で上映中。

この後、大阪や地方での上映会を開催するという。

なお、ほぼ同じ時期に
未成年が引き起こした殺人事件と
被害者遺族との葛藤描く
「赦し -ゆるし- 」という映画も公開されているので、
間違えないように。

私は、間違えた。

 


地下鉄博物館

2024年03月28日 23時00分00秒 | 名所めぐり

東西線葛西駅を通ったので、


地下鉄博物館に行ってみました。

地下鉄の高架線の下にあります。

休日とあって、開館時間10時前から行列


家族連れが多いようでした。

入口のチケット売り場。

大人220円、子供100円。

こんな床に導かれて、

入口は、地下鉄の自動改札風。

これが東京の地下鉄網


東京メトロ9路線180駅と
都営地下鉄4路線106駅の
総計13路線286駅(2020年6月6日現在)。
路線・駅数は、
世界各都市の地下鉄路線で4番目に多い。


東京メトロ副都心線と都営浅草線を除く
全ての地下鉄路線が都心の千代田区を経由します。

丸の内線車両。

中にも入れます。

特別展。

これが初期の地下鉄車両。

中には人形も。

当時の駅名。

当時の改札。

「地下鉄の父」早川徳次(のりつぐ)。


「何かしら、この世で最初の仕事がしたい」という望みを抱き、
外遊先のロンドンでそれを見つけた。
それが、地下鉄。
当時の東京は「市電」という路面電車網が出来ていたが、
地下なら、踏み切りも要らず、信号待ちもない。

大隈重信、渋沢栄一らを動かし、
資金集めをして
東京地下鉄道株式会社を立ち上げ、
専務取締役となり、
関東大震災の翌年、ようやく起工式に持ち込む。
昭和2年、
まず上野~浅草間が運行を開始する。
そして、次第に西方向に進み、
浅草~新橋が完成。
品川まで延ばす予定であったが、
資金が途絶え、新橋までとなった。
そして、五島慶太が渋谷から新橋までの路線を完成し、
二つの路線がつながって、
今の渋谷~浅草の銀座線が完成。

という苦労話を↓の本で読んだことがある。

私は昭和33年に東京に出てきたが、
当時、地下鉄は銀座線と丸の内線の2本しかなかった。
渋谷では、地下鉄の乗り場が3階にあり、
驚いたものだった。

管理システム。

運転席のシュミレーター

東京の交通網の模型。

銀座線の運転席。

世界の地下鉄。

工事の様子。

これを回転させて掘ります。

↑はシールド工法。

↓は開削工法の手順。

出口も車両風。

外からも見えます。

興味深い展示でした。

 


小説『ミノタウロス現象』

2024年03月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

2025年、
世界中で怪物が出現するようになった。
最初に現れたのは、
オーストリアのエスリンク地方。
牧場に突如現れたそれは、
ミノタウロスの姿をしていた。

ミノタウロス・・・
ギリシャ神話に登場する体が人間、頭が牛の怪物。
クレタ島の迷宮に幽閉されたという。


ケンタウロスと混同されるが、
ケンタウロスは体が馬で、上半身が人間の怪物。


どうやら、ギリシャ人には、
異種合体の願望があったようだ。

遭遇した牧場経営者は、
3メートルを越える巨体の怪物に殴られ、ケガをする。
ただ、目撃者がいないため、
作り話だと疑われた。

次に現れたのは、1月半後。
インドネシアのジャカルタ市街の高層マンション。
繁華街に隣接しており、
大通りへ飛び出た怪物の姿は
野次馬のスマホを介して、
世界中へ拡散された。

3体目が現れたのは、
ニューヨークの休館中の美術館・・・
と怪物の現れる頻度は増し、
やがて1日1件に迫る。

射殺された怪物のDNA解析により、
怪物のDNAは牛と同じだと判明する。
宇宙人の地球攻撃の尖兵説、
某国の新型兵器説、
と諸説が沸騰するが、
人類の脅威とはならないことが分かって来る。
それは、怪物が巨体の割に弱かったから。
拳銃程度の武器であっさり駆逐されるのだ。

話は一転し、
京都市南部に位置する眉原(まゆはら)市。
女性市長の若干25歳の利根川翼は、
元バンドのベーシストだったが、
様々な偶然が重なり、
泡沫候補であったのに、
市長に当選してしまった政治的素人。
私設秘書の羊川葉月(ようかわ・はづき)の支えを受けて、
なんとか市長職をこなしている身。
羊川は翼に市長選出馬を勧めた人物で、
翼に「破壊」を期待して、付いたという。

その眉原市にも怪物が出現した。
出現場所は市議会議場。
怪物は射殺されるが、
その前に怪物の着ぐるみを来た市議会議員が
射殺されてしまう。
その議員は、その日、市議会で重大発表をすると予告していた。
何故怪物が出現するのに
合わせたかのように、
議員が着ぐるみを着ていたのか、
と、殺人事件の謎解きと
ミノタウロス出現の謎が同時進行して展開する。

捜査を担当する警視長の輪久井(わくい)宏一は問う。
「この中に、怪物の出現を予測、
あるいは出現自体をコントロールできる方法を
把握しておられる方はいらっしゃいますか」

そして話は、郷土史家の永倉秀華博士による
ある屋敷内での迷宮の考察があり、
地球人が穴倉に住んでいた時代に
宇宙人が訪れ、
怪物発現のシステムとして、
ある形の迷宮を残して行った、
という仮説に至り、
テキサスの人物モーリス・ジガーが主導して、
全世界が同時にある形の迷宮を建設し、
怪物の出現を待つ、
ということになり、
その結果、
15メートル級の巨大な怪物が全世界に出現し・・・。

と、怪物出現のプロセスが明らかになったところで、
怪物コントロールのルールが様々説明され、
それらに熟知し、
既に怪物出現の実験を繰り返していた人物がいて、
と意外な方向に発展する。

ユニークな作品が受賞することが多い
メフィスト賞受賞者・潮谷験らしい、
奇想天外な第3作。

「迷宮」と「迷路」の違いなど、新たな知識もある。

怪物の出現とコントロールの仕組みがユニーク。
というより、全体がユニーク。
その中には、文明批判や政治批判や
食糧問題の解決も含まれている。

ただ、殺人にからめてミステリーの形式を取っているが、
取って付けたような内容で、
怪物出現の謎一つに絞った方が良かった気もする。

読むのが楽しかった。

 


映画『ペナルティループ』

2024年03月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

岩森淳は恋人の唯を何者かに惨殺されてしまう。
その犯人・溝口に対し、
綿密な計画を立てて復讐し、刺殺し、
池に沈めるが、
翌朝目覚めると、前日に戻っており
溝口も生きている。


同様な計画で再び殺そうとするが、
溝口の方にも殺された記憶が残っており、
計画を察知して逃げるために、
微妙に殺人方法は変更を重ね、
最後は溝口殺しを果たす。


そうした日々、
同じ6月6日が繰り返されるうち、
次第に殺す側と殺される側に
不思議な友情連帯感のようなものが生れて来る。
やがて、「今回が最後」という告知がなされ、
溝口にも伝えた上で殺人する。
すると、次の目覚めは6月7日。
タイムループが解けたのだ。

その後、岩森は、ある人物に会い、
事態の秘密が解明される・・・

という、私の好物、タイムスリップものの一つ。

ちょっと潮谷験の「時空犯」と似ている気がするが、
同じ日が繰り返されるというのは、
先行作品が沢山ある。
それを殺人にからめたのが新機軸。
更に殺された側も記憶が継続するのが目新しい。

恋人が殺された時の岩森の職業は、
建築物のミニチュア製作者だったが、
ループの中では、
植物プラント工場の技術者ということになっており、
溝口は同じ工場の作業員。
どうやって溝口を犯人として特定できたかは、
後になれば推測できる。

段々、殺すの飽きてきて、
ボーリングを一緒に遊び、
「もう、今日は殺さない」と宣言しても、
どうしても、溝口を殺すことになってしまう。
その現場にいた人物は、
「あなたは、『同意』していますから」
と謎の言葉を言う。

殺される方も慣れてきて、
「殺すよ!いい?」、「OK!」みたいなノリになって、
このあたりは、笑える。
繰り返しの反復が
角度や視点を変えて描かれるのは、
よく工夫されていると思う。

8回(多分)続いたあたりで、
終了の告知がなされるのだが、
そこから後は、
一種の「○オチ」と言われるもので、
ああそうだったのか、
とは思うが釈然とはしない。
まあ、タイムループそのものが、
「釈然」の範疇を越えているのだけどね。
その先の展開は、
もっと釈然としない。
恋人の唯の存在が曖昧で、
これも釈然としない。
ラストも釈然としない。

このあたりが
もう少し緻密に作られていれば、
一歩進んだタイムループものになっただろうが、
惜しい。
題材としては、
犯罪被害者の遺族の心の傷の回復の問題なので、
一歩深めれば、傑作になっただろうに。

岩森を若葉竜也、溝口を伊勢谷友介が演ずる。
伊勢谷は事件後の復帰作だが、
いい味を出している。

荒木伸二監督のオリジナル脚本。

5段階評価の「3.5」

新宿武蔵野館他で上映中。