[書籍紹介]
「襷がけの二人」で直木賞候補になった
嶋津輝の初短編集。
単行本「スナック墓場」を改題。
「オール讀物」新人賞受賞作「姉といもうと」を含む。
「ラインのふたり」
「ライン」とは、「LINE」ではなく、
工場での箱詰め作業のラインのこと。
霧子は、長年勤めたスーパーをリストラ同然に退職させられ、
ハローワークで同じスーパー関係の仕事を探すが、みつからず、
とりあえず、日当仕事の軽作業の工場に勤めている。
シャンプーの試供品の箱詰めなどが主な仕事だ。
そこで亜耶という女性と知り合い、通勤に車に乗せてもらっている。
パートの監視役が「ちゃんと手ぇ動かしてね」と言って回るが、
亜耶に言わせると、
霧子がちょっと手を休めているのに合わせて言っているというのだが・・・
「カシさん」
職人気質のクリーニング屋夫婦。
最近引っ越してきたらしい女性が
3日に一度位の頻度で洗濯物を持ち込むようになった。
最初は、下着まで持ってきたので、それは断った。
どうやら、洗濯機がないらしい。
名前をカシさんという。
お菓子の菓子だというが、
主人はいらない想像をしてしまう・・・
「姉といもうと」
姉の里香は、週5日家政婦をしている。
若いのに珍しいと言われるが、
幸田文の「流れる」に出て来る女中の姿にあこがれているのだ。
妹の多美子は、わけがあって、指がないが、
活動的で近所の老人夫婦が経営する
ラブホテルで受付をしている。
里香の勤めは午前10時から午後4時までで、
主人夫婦とは基本的に顔を合わすことはないが、
つい先日は忘れ物を取りに来たご主人と遭遇した。
珍しい名前で「保母」さんという。
妹の多美子が6年も付き合っている恋人の山名君を連れてきた。
山名君は外資系の証券会社に勤めているが、
その上司が保母さんという名前。
ある時、人間ドックから早帰りしてきた保母氏から
「鬼瓦多美子さんは、あなたの妹さんだよね」と訊かれる・・・
「駐車場のねこ」
布団屋の妻の民子は、
向かいのコインパーキングに住み着いた猫に
一日2回エサをやっている。
夫の治郎は役者にしたらいいほどのハンサム。
民子は足の痺れの治療のために入院し、
ねこに餌がちゃんとされいるか心配する。
夫と連絡が取れなくなり、
あとで、腹を壊して寝込んでいたという。
向かいのふぐ屋の女将が持ってきたものを食べたというのだが・・・
「米屋の母娘」
足をけがして歩けない母を心配して訪ねた益郎は、
商店街の端にある米屋で弁当を買う。
しかし、ご飯はうまいが、おかずが極端に少ないものだった。
その上、米屋の娘は、全く愛想がない。
それでも、益郎は、母を訪ねるたびに、
その米屋で弁当を買う。
実は、益郎は、女性にぞんざいに扱われると
気分が高揚する性質(たち)だった・・・
「一等賞」
ユキは、父母から買い物を頼まれると、
わざと健気(けなげ)な風を装うのを習い性にしていた。
一方、商店街には、アル中の後遺症で
商店街を徘徊してしまうアラオという男がいて、
人々は優しく見守っていた・・・
ある日、転んでケガをしたユキの顔を見て、
お店の主人は虐待を疑う。
そして、アラオの症状が進行して・・・
「スナック墓場」
「スナック波止場」は、近所の老人たちのたまり場で、
流行っていた。
常連客に高齢者が多いために死ぬ人が多く、
近所から「スナック墓場」と呼ばれていた。
オーナーが亡くなったので、
スナックも閉店になったが、
ママとハラちゃんと克子の女性店員は3人で集まって
1年に1回、同窓会を開いていた。
今日は、近所の大井競馬場。
克子は、ハラちゃんがパドックで「いい、強い」とつぶやいた馬が
勝つことに、気づく。
そこで、次のレースでハラちゃんの予言の馬券を買ってみると・・・。
と、あらすじを書くもの苦労するほど、
実は事件は起こらない。
なにか起こりそうで、起こらない。
日常のようで、日常でない。
不思議な個性の登場人物たちが
普通に暮らす様を描いて、
でも、どこか普通じゃない。
そして暖かい。
どこかであったような話でありながら、
どの話にも似ていない、
この作者独特の雰囲気が香りを放つ。
オール読物新人賞審査員が皆高評価だったという。
玄人好みなのだ。
話に何の仕掛けはないけど
淡々と上手く、
すいすい読めて味わい深い。
どの話も懐かしい感じを醸し出す。
どなたかが、21世紀版向田邦子と言って、
いくらなんでも褒め過ぎだとは思うが、
もしかして、そうなるかもしれない。
「襷がけの二人」の紹介ブログは、↓。
https://blog.goo.ne.jp/lukeforce/e/e7e8ab9ba9a5b275c9f73b742b194c84
関係ないけど、この写真↓。
笑えますね。