星のひとかけ

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nonchalant な…:『迷子たちの街』 パトリック・モディアノ

2021-12-14 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
12月の冬の日に 7月のパリの物語を読んでいました。


20年ぶりにパリに降り立った男、、 過去を棄て 異なる国に住み 異なる言葉をあやつって生きてきた男。。 20年の時を隔てたパリの街が 男の記憶を呼び覚ます、、。 19歳の僕、、 そこで出会った男たち、 女たち、、。 決して忘れられないひとりの女性、、

記憶をさかのぼる物語だから、 冬の寒さのなかで 炎暑のパリを想うのも良いでしょう。 19歳の自分を追憶するには (読み手にとっても) きっと ある痛みがともないますから…。 

 ***


  そこで僕の視線はこのマダム・ブランへと注がれた。僕に背を向けノンシャランに肘をレセプションのカウンターについていた。コンシェルジュの電灯が、そのブロンドの髪を照らし出していた。彼女はベージュの毛皮のジャケットを着ていた。





『迷子たちの街』 パトリック・モディアノ 平中悠一・訳 2015年 作品社 (原著は1984年刊) 


あるひとつの言葉に衝撃をおぼえる、、 という体験をひさびさにしました。 衝撃、、 というか、 その言葉によって 火花のように新鮮なイメージが喚起される、 という体験。。 本のなかで眼にしたあるひとつの言葉、、

《ノンシャラン》という言葉。


この言葉、、まったく忘れ去っていました。 忘れ去っていた、ということに自分で気づいて その意味がよみがえってきた時、 まるで眼が覚めるように新鮮でした。。 ノンシャランなんて言葉、、 自分で使ったことも、 どこかで眼にしたことも、、 それこそ20年くらい無かった気がします。

この小説には その《ノンシャラン》という言葉が ぜんぶで4回(たぶん)出てきたのですが、 あまりに新鮮だったために 出てくるたびに (ノンシャラン…だ) と、口元が自然にほころんでしまうのでした、、


べつに この言葉が物語の重要な要素というのではないのです。 私が勝手に《ノンシャラン》という言葉に反応しただけです。。 でも、 ノンシャランという言葉がつくりだすパリのイメージ、 どんな時代か、、 どんな男たちか、、 女たちか、、。 それはやっぱり パリでしか存在し得ない言葉のように思えます。。 ノンシャランな…

 ***

物語とは離れて・・・

ノンシャランという言葉に、 私がこんなにも新鮮な驚きをおぼえたのは、 このコロナの世の中になってから、 自分の感情や さまざまな物事に対する感じ方や 価値観や、、 それらがどんなに凝り固まってしまっていたかを あらためて気づかされたということに通じます。 ノンシャラン、 その意味する肩の力の抜けた、、 こだわりのない、、 どこか余裕のある態度や ものの感じ方、 考え方、、。 それとはどんなにかけ離れていたことか、、。

以前にちらっと書いた事がありましたが、、 もしおばあさんになったら、、 パリのアパルトマンに住んでいるような老女になりたい、、って。。 そのイメージはまさに ノンシャランな感じというのがぴったりの言葉なのです。。 ぎすぎすしない、、 大騒ぎしない、、 世の中のことにいちいち振り回されず、 でも自分流の美意識を持って、、

、、 最後のところがいちばん大事。。 ノンシャランな、 という形容詞には その背後にしっかりとした気品が備わった上でないと。。 それがなければ 単なるずぼらとか だらしなさとかにしかならない。。 だから難しい、、 というか、、 ムリ、、(笑) ノンシャランが似合うような老女になるのは…。

でも、、 なんだかこの凝り固まった昨今の世では、、 ノンシャランな佇まいを もうちょっと思い出すようにして生きていこうかな… と、そんな風に思っています。 理想の老女をめざすためにも…

 ***

話を物語に戻して・・・


パトリック・モディアノさん。。 1945年生まれの仏の作家。 
これまでほとんどまったく知らないままでした。。 2014年のノーベル文学賞受賞者だということも、 この本を読み終えるまで知りませんでした。 だから 今回読んだ作品が この作家さんを特徴づける作品なのかどうなのかもわかりませんし、 いつ書かれた作品かも、、(37年も前に書かれたのだとも)知らずに読み終えたのですが、、 その文体、、 文章の運び方、、 描かれていく場面の連なり、、 物語の組み立て方、、 どれもが面白かったです。

訳者のかたが 「モディアノ作品を原文、フランス語で読む時の感覚を、さらには違和感を、日本語版でもヴァーチャルに、可能な限り体験してほしい」 と書かれているように、 訳文にはたいへんこだわって訳されたのがよくわかり、 その訳文を含め(私はフランス語はまったくわからないので) モディアノ作品の魅力の一端を感じさせてもらえたようで とてもわくわくする読書でした。

検索すると、 モディアノ作品はいろんな方が翻訳されているので、 今度、 ぜんぶ違う方の翻訳でモディアノ作品をいくつかまとめて読んでみようという気になっています。



きょうは寒いですね、、


ミルクティーでも飲みましょうか…



風邪ひかないでね。。
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