倉野立人のブログです。

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令和6年能登半島地震 ~災害で助かった命が失われる〝災害関連死〟の非情~

2024-01-13 | 日記

よりによって元日に発生することとなってしまった「令和6年能登半島地震」は 時間経過と共に被害の実態が見えてくることになり、それは即ち被害拡大という形で表(あらわ)されることとなっています。

従前にも述べましたが、地震そのものの犠牲者は 被災の瞬間には相当数が発生し、その数は(非常に残念ではありますが)「発見」という形で(その数が)計上されることになります。が、災害の直接的な犠牲者は増え続けることはありません。

ところが(そのうえで) これは 増して非常に残念なことでありますが、発災後に その数(死者数)が悪しけく右肩上がりで増え続けている実態がある…これが「災害関連死」であります。

「災害関連死」とは 災害によって直接的・物理的に生命を脅かされた「事故死(水死・圧死等)」ではなく、災害によって負った傷の悪化や 避難生活中の身体的・精神的負担によって起きた疾病が原因となって死亡するケースのことをいいます。

いわば、災害を逃れ せっかく助かった生命が その後の(避難)生活の中で失われてしまうという、残念極まりない「死」なのです。

 

 

 

災害関連死が具体的に定義づけられたのは、1995年の「阪神淡路大震災」がきっかけとのこと。法的な定義は「災害による傷病の悪化や避難埼葛(きとう)における身体的負担によって死亡する」というケースの中で『災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づいて災害が原因で死亡したと認められたもの』と定義されています。

 

私だけでなく 多くの方々が、今回の「令和6年能登半島地震」において連日報道されている被災状況のレポートに接する中で、避難生活や避難所の劣悪な状況を見聞しては胸を痛め そして、発災後2週間余りが経過する中で ここのところ連日に亘り「災害関連死が▽名」と報じられていることに慚愧(ざんき)の念を深めておられるところです。

「せっかく大災害の難を逃れたのに、その後になって むざむざ死ななければならないのか…」

 

「災害関連死」は、過去の大災害の中でも数多く発生していることが記禄されています。

その傾向については、持病などの「既往症者」が多いこと・高齢者が多いこと・死亡時期は発災から1ヶ月から3ヶ月で多く発生すること・原因は 避難所生活が3割/避難中の疲労が2割/病院機能停止が2割 というようなもの(傾向)だそうです。

具体的な災害関連死の事例は下記のようなものが挙げられています。
 病院の機能停止による初期治療の遅れや既往症の悪化
 交通事情等による初期治療の遅れ
 避難所等への移動中の肉体・精神的疲労
 避難所等における生活の肉体・精神的疲労や災害のストレスによる肉体・精神的疲労
 救助・救護活動等の激務 等

そして「災害関連死」は、過去の災害においても多発していることが判ります。いくつかの事例が挙げられています(「東日本大震災」については、分母(被災者の総数)があまりに多いため割愛します)

▼熊本地震(2016年/平成28年発生)

熊本地震での死者数の273人のうち、実に8割に上る223人が「災害関連死」でした。

▼新潟県中越地震(2004年/平成16年発生)

新潟県中越地震でも、死者数68名のうち8割に及ばんとする52名が「災害関連死」でした。

 

このように、過去の大きな災害においても「災害関連死」は、少なからず というよりも、非常に多く発生していることが数字に表(あらわ)されています。

(前掲のとおり)災害を逃れ せっかく助かったのに、その後の(避難)生活の中で死に至ってしまうことは、かえすがえすも残念極まりないところです。

 

 

で、災害関連死を防ぐためには「K・T・B」の3要素が重要であることが言われています。

これは「トイレ・キッチン・ベッド」の略とのこと。

汚いトイレを避けて清潔なトイレにすること・冷たく栄養の不十分な食事を避けて滋養のある暖かい食事を提供すること・床での雑魚寝を避けて就寝環境を整えること を指(さ)しています。

 

 

 

 

で、この「災害関連死を防ぐ3要素」を 今回の「令和6年能登半島地震」に当てはめてみると…それが尽(ことごと)く満たされていないことが感じられ、それは即ち 今後も被災地(能登半島エリア)で災害関連死が増え続けるのではないかとの懸念材料になるところです。

例えば「T」のトイレ問題。

被災地においては上下水道の寸断に起因する断水はもとより いわゆる生活用水自体が不足している状況となっており、それはすなわちトイレ環境の悪化の要因となっています。

日頃のトイレが使えない→仮設トイレに利用が集中するも数が限られている→生活用水が不足し清潔な洗浄ができない→汚れて不衛生な環境に陥る→トイレの回数を減らすために水分摂取を控える→脱水症状や血中濃度髙による梗塞(こうそく)・口腔内の水分(唾液)不足による(口腔内の)細菌増加による誤えん性肺炎等の疾病増加 との〝負のスパイラル〟に陥る。

しかして、今回の被災地(避難所)のトイレ事情はどうか…報道等によると、液状化現象等で上下水道インフラの被害はことのほか大きく、それに伴い 避難所のトイレも劣悪を極めていることが伝えられています。

また例えば「K」キッチン(食事)問題

被災後の被災地や避難所では、一定期間の食事は固く冷たい非常食を余儀なくされ 特に高齢者は嚥下(飲み下し)が難しいことから十分な口径物の摂取ができにくい状況に陥ります。また、食事内容も偏(かたよ)ったものにならざるを得ず、それは高血圧や循環器系疾患につながりやすくなります。

それに、そもそも災害のショックで 食欲そのものも萎(な)えてしまう人も少なからずおられることでありましょう。

ただ今回の災害でも 各地から炊き出しボランテアが駆けつけてくださり、温かい食事が供されていることが伝えられているのは有り難い限りであります。

さらに「B」ベッド 雑魚寝問題は…。
避難所の状況を見れば、体育館などの床に(直(じか)に)横たわる「雑魚寝」が多く、またマイカー車内での座位での仮眠も少なからずあるとのこと。床で寝ることはストレスや深い眠りにつけない寝不足の要因・また床に近いことで埃(ほこり)を吸引しての肺炎・免疫力低下・呼吸器系疾患の要因となり、座位での仮眠はエコノミークラス症候群による血栓の要因ともなっています。

これらをして非常に残念ながら、能登半島の被災地における「K・T・B」は 未達状況にあることを再認識させられてしまうところです。

 

また 事例として挙げた「熊本地震」や「新潟中越地震」そして今回の「令和6年能登半島地震」の共通点として 発生した場所が中山間地域などのローカルエリアであること、それは即ち  被災地の地勢が不利であること・そこに住む方々の多くが高齢者であることを再認識させられるところです。

高齢者にとって、被災そのものはもとより 避難所生活も非常にキツいものがあるでしょう。

まず仮設トイレ。特に従来型の水洗タイプは便器の下部がタンクになっていることから トイレ内に入るまでに大きな段差があり、足の悪い人は難儀であること・また(従来型の)多くは「和式」であることから使用に耐(堪)えられないこともあろうと思います。

また 血圧などの常備薬を飲み続けなければならない人は、災害によって それら摂薬行為が途絶することは、医療の途絶と同じ。直ちに健康被害につながることが懸念されます。

また(前掲の)口腔内の不衛生からくる肺炎・食欲不振や運動不足など、高齢者にとっては大きなハンディを負わされる環境に陥っていることも伝えられています。

このことについて、齢(よわい)95才になるオフクロに水を向けたところ「あたしゃ とても無理。もしそんなことになったら、ここで死ぬわ。」と即答されたものでありました。

 

不測の災害によって多発する「災害関連死」何ともやるせない思いにさせられるところであります。

そして、何より問題(課題)なのが、このこと(災害関連死)が 災害の度に発生していること→(発生が)分かっていながら 抜本的な対策が講じられていなかったと言わざるを得ない状況(現実)にあることではないか、と思わされるところなのです。

1995年に発生した「阪神淡路大震災」から約30年、この間 いくつもの大災害を経ていながら、今回の「令和6年能登半島地震」でも次々に災害関連死が発生している事実…事(こと)はここに及んでしまっておりますが、私たちは いま一度、この未達ぶりを反省しなければならないのではないでしょうか。

この〝変わらない状況〟が続けば、いずれ 災害関連死をも「人災」と定義づけられることになることを憂慮する者の一人です。

 

一方、この状況(大規模災害の度に多発する災害関連死)を「防ぎようがない」と〝分析〟する人もおられます。

「地震大国に暮らし、それも中山間地域に特に高齢者が多い状況の中で 地震などの大規模災害が起きれば、その対応にも限界がある。災害が起きても いつもどおりの社会生活や 医療・介護サービスを維持しようったって、それは不可能だ」とのシビアな意見です。それも ごもっともと聞かされるところです。

しかし 私たちは、だからといって努力を放棄するのではなく、さまざまな経験を踏まえ「今度こそ」の意義をもって 減災に取り組むべきでありましょう。

今回の「令和6年能登半島地震」においても、遅まきながら ホテル等への「1,5次/2次避難」が始まっており、高齢者などの社会的弱者を優先しながら「KTB」の環境があるエリアに避難していただくこととなっています。

「対応が遅々とし散発的」と これまで以上に厳しい評価が寄せられる今回の大震災。今後のイイ意味での巻き返しを求めるところです。

 

「災害は いつも課題を 突きつける」

日々の災害関連のニュースに触れるにつけ、思わず詠んだ五七五でありました。