新型コロナウイルス感染症などの 新型のウィルスの感染拡大を防ぐことを名目とし「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下/特措法)」「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下/感染症法)」等の改正案が 開会中の国会で可決・成立したのはご案内のとおりであります。
今回の法改正では「対策の実効性を高めるため」として、事業者や感染者 さらに医院への罰則等、いわばペナルティーを科することが盛り込まれています。
「改正特措法」では、緊急事態宣言の対象区域で 都道府県知事が飲食店などの事業者に休業や時短営業を命令できるようにし、応じない場合は30万円以下の過料を科すことができるようになり、さらに 命令を出す際には事業者への立入り検査などをできるようにし、検査の拒否には20万円以下の過料が課せられることになりました。
さらに、宣言発令の前段階に 知事が予防的措置を行う「まん延防止等重点措置」も新設され、この措置の中は 知事は事業者に「時短営業」などを命令でき、応じない場合は20万円以下の過料を科すことができることとなっています。
他方「感染症法」改正案では、感染者が入院を拒否した場合には50万円以下の過料が科されることとなりました。
また、感染者が 感染経路などを巡る保健所の調査への虚偽回答や調査を拒否した場合には「30万円以下の罰金」を科すと共に、医師(病院)に対しては、厚生労働相や知事が(医師らに対し) 病床の確保を勧告できる規定も明記、それに正当な理由なく従わなければ「病院名の公表」も可能 となっています。
この法改正は、いわば行政側に〝強権〟を持たせることで 感染者の行動履歴の把握や感染経路の特定 さらに入院措置などの事務作業を円滑かつ正確に行ない、ひいては感染拡大を最小限に止(とど)めることを目的としているものですが、一方で その職を担う行政職員が、そのこと(強権)を〝虎の衣(い)〟として 市民に対し行政罰をチラつかせながら〝供述〟を求めるようなことになりはしないかとの「強権政治(行政)への懸念」が寄せられているところであります。
かかる法改正のうち「改正感染症法」においては、主に保健所職員が感染者の行動履歴や濃厚接触者の特定などの調査を行なう際に、いわば「個人」に対し「従わないと過料を科しますよ。」との〝強権〟が駆使できるものでありますが、さきにNHKのインタビューに応じた 長野市保健所のK所長が、この法改正を歓迎するのでは無く むしろ戸惑いをもって受け止めていることを吐露されたことが報じられ、そこに「長野市の保健行政の良識」を垣間見ることができたのでありました。
「中核市」である長野市は、県から独立した形で独自に「保健所」を有しており、今回の新型コロナウィルス禍においても、感染者の把握や公表などの事務作業を「長野市(保健所)圏域」の括(くく)りの中で、いわば〝自主独立〟の運営を行なっております。
そんな渦(禍)中において、長野市圏域でも多くのコロナ陽性感染者が発生、その都度に情報公開が求められる中においても、長野市の意を体(たい)し矢面に立ったK保健所長は、一貫して「感染者のプライバシーを守る」との姿勢を貫(つらぬ)き通しておられます。
私も 幾度となく「感染者発生の報告会見」に足を運ぶ中、ときに踏み込んだ情報が欲しい記者たちが情報公開を迫る中「それは(感染者)個人の情報につながる恐れがある。」として毅然として開示内容を最低限に収め、もって感染者(の個人情報)を守り抜いたK所長の一貫した好姿勢を (私自身)非常に印象深く胸に刻んだものでありました。
そんな、名実共に 長野市の保健行政のリーダーであるK保健所長の「感染者に寄り添う」との一貫した姿勢は、今回の法改正に対する見解にも表されておりました。
インタビューの中で K保健所長は、長野市のコロナ陽性感染者に向き合う姿勢の大前提として 先ずは「新型コロナウィルス感染症が発生して以降、長野市の現場(保健所)では 保健師をはじめ 全ての職員が、常に理解と協力をいただく形で感染者と信頼関係を結び対応しています。」とされ、
そのうえで、今回〝罰則〟が設けられたことについては「正直なところ、われわれのこれまでの取り組みと少し方向性が違うのかなと受け止めています。」と述懐されていました。
つまり それは、これまでも長野市(保健所)が 決して感染者を責めたり申告を強要するのでは無く、あくまで 図らずも感染してしまったことの(感染者の)心情に寄り添い、そのうえで必要最低限の情報を聴き取るという地道な作業を継続していることの裏付けでもあったのでした。
そのうえでK保健所長は、今回 国が感染経路の調査等の際に罰則(過料)を定めたことに対し「(保健所の)調査の権能が強化されてヨカッタ」では無く、むしろ逆に「罰則の導入で 感染症対策にマイナスの影響が生じることを懸念しています。」と述べておられました。
「罰則がうしろ(=いわゆる虎の衣)にあって「あなたは絶対に(調査を)拒否できないんですよ。」という形で 調査や入院を進めていくと「だったら受診や検査を受けない方が事(こと)が大きくならずに済むのではないか。」と考える人が出て、感染者が潜在化しかねないのではないでしょうか。そのこと(罰則を受けるのなら黙っていようという風潮)が、感染症の拡大という意味で懸念される状況(感染者の潜在化)に向かうことを非常に心配しているのです。」と述べておられました。
さらに〝罰則による効果〟については「感染者一人ひとりが、納得して調査や入院に協力していただくことで 治療自体がしっかり進むし、さらなる感染拡大防止に必要な対応も行なえるのです。(罰則などをかざして)強制力をもって対応しても、おそらく真の目的は達せられないと思います。」と述べておられたのです。
そのうえで「現場を担う立場として、今回 罰則等の創設はありましたが、長野市(保健所)は今後も「感染者に寄り添う姿勢」を貫いてゆきます。法律の運用にあたっては、国から「通知」の形で示されるのかもしれませんが、(国においては)罰則等を 感染拡大防止の1つの手段として捉えるということは、ぜひ慎重に行なってもらいたい。」と結んでおられました。
一連のインタビューに応じるK保健所長のお話しは、今回のコロナ禍における長野市の姿勢を代弁するものでありました。
いわゆる「罪を憎んで 人を憎まず」の姿勢…感染拡大防止には全力を尽くすものの、そのために 感染した人を責めたりプライバシーを暴いたり、ましてや罰則を武器に感染者に迫るようなことは 最大限に為すべきではないとの考え方は、私たち長野市民にとって非常に安心できるところであり、逆に言えば このような好体制であれば、市民としても でき得る限り協力的に(保健所に)向き合ってゆこう、と思えるものではないか と。
感染者数自体は減少傾向にあるものの、まだまだ先の見えない新型コロナウイルス禍。
そのうえで今後は、ワクチン接種など 新たなステージを迎えようとしている中で、とりわけ各種施策の実施主体となる市町村は、事務事業が煩雑を極める中で より一層の市民のご理解ご協力をいただきながら前へと進むことを求められており、そして、その大前提には「市(保健所)と市民との信頼関係」が不可欠ではないかと強く認識するところであります。
それが、やれ罰則だ やれ過料だとかを前提に(市と市民が)向き合えば、そこには不信感が募るばかりでありましょうが、私は、これまでの市(保健所)の姿勢と 今回のインタビューでのK保健所長の発言を受けた中で「長野市(保健所)は これからも、これまで培ってきた意識をもって事(こと)に当たっていただきたい。そのうえで 私たちも、いかなる難局においても「信頼関係」を前提に乗り切ってゆくべきである。」と 自らをも鼓舞し、それを改めて全体に伝播すべきことを再認識いたしたところでありました。