クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

盆棚に作る先祖の霊を祀る棚は? ―はにゅう詩情―

2014年08月13日 | 民俗の部屋
お盆になると“盆棚”を作る。
先祖や新仏を祀るための祭壇だ。

盆棚、精霊棚、水棚とも呼ばれていて、
仏壇の脇や床の間、座敷などに設置する。
もっとも、地域や家によって設置場所はさまざまで、
室外というところもある。

盆棚は、仏壇とは別に祭壇を設けるのだが、
ぼくの家では仏壇をそのまま利用していた。
仏壇の両脇に笹のついた竹を立て、縄を架ける。
そして、そこに色紙やほおずきをつり下げるのだ。

盆棚を改めて組み立てたり、位牌を動かしたりする手間がない。
母方の実家も同様で、お盆になっても仏壇に線香をあげている。
かつては盆棚を作っていたのかもしれないが、
少なくともぼくが物心ついたころから仏壇=盆棚の形式だった。
したがって、空になった仏壇にいるというオルスサマはいないことになる。

ところで、お寺ではお盆になると施餓鬼がある。
ぼくはお寺のない地域に住んでいたため、
施餓鬼にはとんと馴染みがない。
その単語を知ったのもかなり大きくなってからだ。

しかし、不思議なものである。
ツレの実家がお寺のため、施餓鬼棚作りの手伝いに行くのだ。
棚を作り、位牌を立て、お供えものを置き、花を飾る。
お寺バージョンの盆棚のようなものだ。

このセッティングがわりと骨が折れる。
重いものを運ぶし、形式通りに物を置かなければならない。
体力と神経を使う。

とはいえ、苦ではない。
本尊さまが見ている中で作業するのは心地よい。
それに本が多い。
大学で教鞭を執っていたという先祖がいるため、
あちこちに本があってそれが心をくすぐる。
と言っても、接点のない本ばかりなのだが……

午前中に手伝いに行って、終わるのは夕方頃だ。
お寺によっては短時間ですますところもあるだろうし、
もっと時間をかけるところもあるかもしれない。
休憩時間は読めもしない経典を手にとって眺める。
雨がシトシトと降る日にお寺で本を開けば、
落ち着いた心持ちになれるかもしれない、などと想像してしまう。

そろそろ稲の穂が見え始めた田んぼの上をトンボが飛んでいる。
先祖の霊がトンボとなって帰ってくるとも言われる。
今年も先祖が帰ってくる。
地獄の釜のフタが開き、新仏も無縁仏もやってくる。
ホラー的な意味ではなく、日本人が一番「霊」を感じる時期だと思う。

先祖はこの日を楽しみに待っているのだろうか。
暑い日が続いているとはいえ、少しずつ秋の気配を見せる空の下を、
トンボが気持ちよさそうに飛んでいる。
コメント
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