平塚で仕事が終わり、しばし駅前をぶらつく。酒場、まだどこもやってないな。いや、下手に現場近くでぶらつくと、関係者と遭遇してばつの悪いことになる。ここは、ちょっと移動するか。平塚の2駅上りに辻堂という駅がある。そういえば、会社をやめたSぎんがここに住んでいると聞いた。会うつもりはないが、ちょっと辻堂まで行ってみようか。
〽焼けた素肌で夜風に乗って、辻堂あたりで気取ってようじゃん〽
やっぱ、サザンだよな。
駅前をぶらつくが、開いている酒場はない。そうだな。サザンに昼酒は似合わないし。ないよな。駅の南側を少し歩いてみたが酒場はない。それなら、銭湯はどうだとスマホで検索すると、「不動湯」というのがヒットした。しかも、それほど駅から遠くない。行ってみるか。
しばらく歩くと住宅街になった。意外に小さな街だった。歩くこと十数分、スマホを頼りに「不動湯」に着いた。まずは、その外観に圧倒された。松の木が不思議な角度で店を覆っている。ざんざの松のように、或いは歌舞伎の舞台のような風流なものではなく、斜めに松の木が伸びているといった方がいいかもしれない。建物も古いが、この松の木もそうとうな古木に違いない。下駄箱に行ってまた驚いた、そこにも木が生えている。想像するく、この銭湯は木を避けるように銭湯を建てたようだ。
「男湯」の扉を開けた。今も中央に番台がある。それだけでもう感動を覚えた。日本の銭湯は1日1軒の割合で減少してきたときく。今や浴場に向き合わない、入口に対面している番台が多い中、このクラシックスタイルは驚きだ。
460円を支払い、脱衣場へ。だが、驚くことにロッカーがない。あるのは地べたに置く、籐で編んだ籠であり。懐かしい。子どもの頃に行った八千代市大和田駅前にあった「鈴の湯」は籠だったし、昔は全てロッカーではなく、籠で済んだ。それがロッカーへと変わっていったのはやはり治安が悪くなったからなのだろうか。
ともあれ、スーツ姿の自分にとっては厄介だ。財布を持って歩いているのがバレバレだから。けれど、それを気にしていたら、銭湯には入れない。ここは覚悟を決めて、スーツや下着を籠に放り込んで浴場に入った。
こぢんまりとした関東特有の銭湯だった。ペンキ絵はなく、鬼押し出し風の石が浴槽奥に飾られていた。一体どこまでクラシックなんだ。
いいお湯だったといいたいところだが、実は籠に措いていた衣服と荷物に注意を払い、あまりリラックスできなかった。財布もあれば、スマホもある。もし盗られるようなことがあれば、「不動湯」は責任を持ってくれるのだろうか。しかし、そんな事は杞憂だった。
風呂場でサザンを歌う人がいることを期待していたが、誰もなく。常連の爺さんらは黙々と体を洗い続けていた。
辻堂の銭湯は予想以上にレトロであり、時間までもが止まっていた。
20軒がたったの3軒ですか。激減ですね。流行り廃りの世の中ですが、文化も一緒に失われていくのは寂しいものがあります。
銭湯は出来うる限り、まわりたいです。いずれ海南市にも!
それが今では大正温泉・宝湯・内海湯だけです(^_^;)