田端の立ち飲み屋がどうしても見つからない。居酒屋放浪記No0147で当地に出向いて以来、もう一度足を運んだが、やはり立ち飲み屋は発見できなかった。立ち飲みラリー京浜 東北線編は田端駅で足留めをくらったのである。
にっちもさっちもいかない状況に業を煮やし、わたしはインターネットの力を借りることにした。非常に不本意ながら、前に進むため苦渋の決断をしたのだ。すると、2件の立ち飲み屋情報がヒットした。やはり、田端にも立ち飲み屋は存在したのだ。
秋も深まったある日、その店に向かった。何故か、会社の同僚T根川君とA藤君も一緒に。
田端駅に着くと、小雨が降っていた。北口を出た我々は右に折れた。つまり、東に向かったのである。
田端はどこか寂しげな空気を湛えている。東側の陸橋は電灯も少なく、尚更暗い。突然の雨に帰宅の人びとも俯いては足早に帰宅を急ぐ。やがて陸橋が突き当たりを迎え、階段で地上に下りると、そこは喧騒を離れた落ち着いた町が現れる。
目指す店は間もなくのはずだ。
路地を曲がり、それらしい雰囲気の家々が連なっている。その一角に一際古臭い看板を掲げた店がある。「立飲スタンド 三楽」だ。店の戸は閉まっており、中を窺うことはできない。その雰囲気はすこぶる入りづらいのだ。もし、入らなくて済むならばどこかよその店に行こう、と思わせる趣である。恐らく、何十年とこの場所で入るか否かの人間ドラマが繰り広げられたに違いない。
意を決して扉を開けてみた。ガラリとレールが音をたてて開け放たれると、そこには実にひなびたコの字カウンターの立ち飲み屋が現れたのである。
我々は店に入り、左側のカウンターにつこうとした。すると、これまたひなびたお爺さんが「そっちは」と言って、我々を遮るのである。入口から向かって左側は立ち入り禁止区域のようだ。
そのとき、わたしはピンときた。
そのエリアは常連さんのためのスペースなのだ。我々は仕方なく逆サイドのカウンターへと移り、まず瓶ビールを2本ほど頼んだのである。ビールはキリンラガー(450円)。生ビールのサーバーも店の奥に見えるから、メニューにあるのだろうが、こうした店ではリスクが高い。サーバー内は雑菌でいっぱい。というお店も珍しくない、と友人の酒屋から聞いたことがある。くたびれた店は瓶ビールを頼むに限る。
実際、後で頼んだレモンハイ(240円)に使われたビアジョッキはばっちかった。ジョッキの底に茶渋、厳密に言えばビール渋がこびりついていたのだ。しかし、このジョッキはかなりの年代モノだった。随分昔のサントリーモルツのロゴマークが施されていたからである。
ともあれ、我々は乾杯してつまみを物色しはじめた。
この店で肴の主役はおでんである。
立ち飲みでは主役が焼き鳥になる店が多いなか、おでんとはまた情緒があっていい。
1品90円。3品食べると250円になる。
わたしは、はんぺんとこんにゃく、そして大根を頼んだ。
大根は出汁がしみてほどよく茶色に染まっている。一口食べてみると驚くほどうまい。 文字通り関東風の昆布出汁。濃いめのスープはまさに東京の伝統だ。
そうするうちにドカドカと人が入ってきた。その彼らは先ほどの聖域のコーナーに陣取る。常連が来たようだ。案の定、そこは常客たちのスペースだったのだ。
彼らが入ってくると、店の爺さんと婆さんはもうニッコニコ。我々に対しては警戒しているかのように仏頂面で通していたが、常客に対しては口は滑らかで笑顔の応対。
その変身ぶりには、少し唖然とした。
A藤君はそんな雰囲気にのまれ、どこか所在なげだ。
無理もない。わたしもなんとなく居心地が悪いのだ。
店を出て、飲み直すことにしよう。
我々は、外へ出て次の店に。
外はもう雨はやんでいて、我々は駅の方へと足を向けた。
この店の支払い方法はキャッシュオン・デリバリー。
くれぐれも店に入って、左手のコーナーに行かないように。そこは、常客だけが権利を持つ爺さんと婆さんの優しい対応つきのスペースなのだ。
にっちもさっちもいかない状況に業を煮やし、わたしはインターネットの力を借りることにした。非常に不本意ながら、前に進むため苦渋の決断をしたのだ。すると、2件の立ち飲み屋情報がヒットした。やはり、田端にも立ち飲み屋は存在したのだ。
秋も深まったある日、その店に向かった。何故か、会社の同僚T根川君とA藤君も一緒に。
田端駅に着くと、小雨が降っていた。北口を出た我々は右に折れた。つまり、東に向かったのである。
田端はどこか寂しげな空気を湛えている。東側の陸橋は電灯も少なく、尚更暗い。突然の雨に帰宅の人びとも俯いては足早に帰宅を急ぐ。やがて陸橋が突き当たりを迎え、階段で地上に下りると、そこは喧騒を離れた落ち着いた町が現れる。
目指す店は間もなくのはずだ。
路地を曲がり、それらしい雰囲気の家々が連なっている。その一角に一際古臭い看板を掲げた店がある。「立飲スタンド 三楽」だ。店の戸は閉まっており、中を窺うことはできない。その雰囲気はすこぶる入りづらいのだ。もし、入らなくて済むならばどこかよその店に行こう、と思わせる趣である。恐らく、何十年とこの場所で入るか否かの人間ドラマが繰り広げられたに違いない。
意を決して扉を開けてみた。ガラリとレールが音をたてて開け放たれると、そこには実にひなびたコの字カウンターの立ち飲み屋が現れたのである。
我々は店に入り、左側のカウンターにつこうとした。すると、これまたひなびたお爺さんが「そっちは」と言って、我々を遮るのである。入口から向かって左側は立ち入り禁止区域のようだ。
そのとき、わたしはピンときた。
そのエリアは常連さんのためのスペースなのだ。我々は仕方なく逆サイドのカウンターへと移り、まず瓶ビールを2本ほど頼んだのである。ビールはキリンラガー(450円)。生ビールのサーバーも店の奥に見えるから、メニューにあるのだろうが、こうした店ではリスクが高い。サーバー内は雑菌でいっぱい。というお店も珍しくない、と友人の酒屋から聞いたことがある。くたびれた店は瓶ビールを頼むに限る。
実際、後で頼んだレモンハイ(240円)に使われたビアジョッキはばっちかった。ジョッキの底に茶渋、厳密に言えばビール渋がこびりついていたのだ。しかし、このジョッキはかなりの年代モノだった。随分昔のサントリーモルツのロゴマークが施されていたからである。
ともあれ、我々は乾杯してつまみを物色しはじめた。
この店で肴の主役はおでんである。
立ち飲みでは主役が焼き鳥になる店が多いなか、おでんとはまた情緒があっていい。
1品90円。3品食べると250円になる。
わたしは、はんぺんとこんにゃく、そして大根を頼んだ。
大根は出汁がしみてほどよく茶色に染まっている。一口食べてみると驚くほどうまい。 文字通り関東風の昆布出汁。濃いめのスープはまさに東京の伝統だ。
そうするうちにドカドカと人が入ってきた。その彼らは先ほどの聖域のコーナーに陣取る。常連が来たようだ。案の定、そこは常客たちのスペースだったのだ。
彼らが入ってくると、店の爺さんと婆さんはもうニッコニコ。我々に対しては警戒しているかのように仏頂面で通していたが、常客に対しては口は滑らかで笑顔の応対。
その変身ぶりには、少し唖然とした。
A藤君はそんな雰囲気にのまれ、どこか所在なげだ。
無理もない。わたしもなんとなく居心地が悪いのだ。
店を出て、飲み直すことにしよう。
我々は、外へ出て次の店に。
外はもう雨はやんでいて、我々は駅の方へと足を向けた。
この店の支払い方法はキャッシュオン・デリバリー。
くれぐれも店に入って、左手のコーナーに行かないように。そこは、常客だけが権利を持つ爺さんと婆さんの優しい対応つきのスペースなのだ。
毎日、どこかで忘年会をやっているのでは?
今年、もう一回くらい飲めるかな?
う~む、無理かも。
ヴェトナム行ったらビアホイのんで見て。
ダラットにはないかもね。
そうね、だから新しい客は特に必要無いんだよね、きっと。まさか新規オープンの店でこういう店は少ないだろうからね。我々が店を選ぶ権利があるように、店だってお客を選ぶ権利はあるものね~。
ここのお爺さんとお婆さんは。
多分、跡継ぎもなく、いずれひっそりと無くなってしまう運命にあるかもしれません。
それを考えたら、もう少し応援する文章が書けなかったかな、と今は反省しています。
あと10年もしたら、この歴史がありそうなこの店も多分…。