小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

自前の思想

2012年12月07日 | エッセイ・コラム

「外国から原料を輸入して加工し、モノを輸出しないと日本は喰っていけない」は、かつての常識だった。
今でもそう思っている人はいるだろうが、そんなことはまったくない。ちょっとした勘違い。
現在、日本のGNPに占める対外輸出比率は16%。その依存率の世界順位は170位ぐらい。
それほどに外需依存率が極めて低いことを頭に叩き込もう。

明治以降、日本が近代化へ邁進するうえで富国強兵、殖産興業という観点から「貿易立国でなければならない」という幻想をもつようになった。
しかし、日本という国は古来より基本的に「鎖国」にひとしい島国で、大たいが自前のもので需給が成り立ち、人々はそこそこに生活してきた。
気候は温暖で森が多い。海の幸、山の幸など食べ物に恵まれている。
生活に必要な資材はほとんど木材など植物で賄われ、その治水などのインフラはもちろん高度な職人加工技術を磨いてきた。

いまだって空き地があれば2,3か月で雑草が生い茂る。
こんな現象は日本では当たり前だが、世界的には極めて稀有である。
まして一年中、美味しい生水が飲める。川が近くになくても、近所に井戸を掘れば水がこんこんと湧いてくる。
中国でお茶が発達したのは、そもそも生水が飲めなかったからだ。
飲めるように煮沸する、と同時に葉っぱを煮出して香りをつける。
生水がまずい中国でお茶の文化が生まれたのは必然だったのだ。

生きるための知恵が文化の原型をつくる。
ともあれ、日本は、地震や台風など自然災害が多く飢饉も多発したという一面はあるものの、
そんな負の面を克服する生活技術が発達し、基本的には豊かな自然の恩恵に与ったきたといえよう。

戦後、終身雇用、年功序列なんていう日本独特のシステムも、日本ならではの豊かな環境、文化から生まれてきたといえる。
(これこそ良くも悪くも「自前の思想」だろう)
かつて日本が「ジャパンアズナンバー1」とかいわれて世界を席巻していたころ、階級社会が根強い欧米の経済学者は、日本の隆盛の背景は「護送船団方式」や「終身雇用」などのシステムにあると分析した。
と同時にそんな「分かち合い」的資本主義ともいえるジャパノロジーは真似ができないと羨んだ。
そこからである「グローバルスタンダード」という経済思想がユダヤ&アングロサクソンによって強力に打ち出されたのは。

何かを生産する、そのコストの大半は人件費である。将来的には人口の多い中国、インドに生産拠点を移し、一大マーケット化する。政治的な不安定状態になれば、周辺の人件費の安い東南アジア諸国で補完する。
自分たちはそれをマネージメントするソフトウェア、情報技術、それらの開発ノウハウやサービスおよび知的所有権で基本的に食ってゆく。さらにあわよくば金融商品を買ってもらう。
そんな経済戦略を完遂するには、とーぜん先進諸国の日本にも同じルール、しきたりを遵守していただきたい。
「それがコンプライアンスでっせ!」と、外国人が関西弁を使ったわけではないが、対米従属の政府・官僚のみならず一流企業の経営者も、外国からの巧みな脅しと誘導に乗ってしまった。
アメリカの年次改革要望書はその嚆矢で、これは単にロビーイングによる要望の取りまとめ文書に過ぎず、米政府の国会決議でもなんでもない。
にも拘らずすんなりと迎合し、国を挙げてその要望にしたがう施策を打ち出すのは、日本のエリートがなんら「自前の思想」をもっていないという証左であろう。

小泉内閣時代には構造改革と称して、労働者の非正規雇用を正当化する法制化をはじめ、外資系企業が障壁なく日本マーケットに参入できる規制緩和が次々と行われた。
良い面もあったかもしれないが、円高・デフレという経済基調はこれで決定的になった。
このときは一種のショック療法的効果で日本経済は好調になったが、もって3年だった。
格差がますます広がり、経済の低迷は深刻化するばかり。
そしてあの3.11。まやかしの原発中心のエネルギー政策。デフレ下での増税決定。

こんどの選挙では各党が同じような争点を掲げ、その取捨選択を迫るだけのスローガン連呼作戦はみっともない。選挙民をほんと舐めている。
少なくとも20年、30年後の具体的なイメージ、経済・社会状況が目に見えるように語ってくれる政党は一つもない。
なぜなら「自前の思想」がないからだ。

少子高齢化がさらに進み、デフレ経済のもとでの成長路線はありえない。
あらゆる面でのダウンサイジングが求められているのだ。

私たちの生活にもかなりの痛みが伴う覚悟はできている。
だからこそ具体的かつイメージ豊かなビジョンを描いてもらわなけばならないのだ。

具体的ビジョンが無理なら、たとえば予算は前年度比で無条件にマイナス3%で執行する案はどうか。
とりあえず福祉など社会保障の予算はそのままにし、公共事業や特別団体などの補助金は一律削減。
(そのまえに特別会計と一般会計の枠はなくし、歳入は一元管理にする。国会運営は決算委員会を中心に、そのすべてが公開される)
国家予算をあてにする企業は大変なことになるだろうが倒産することはないだろう。

さらに決算で結果をだせなかった官僚・管理者に対しては、信賞必罰の原理を導入して、役職の降格や昇給ストップ・減給が実施される。
こうなれば傷だらけの私たち庶民だって、まあ納得がゆくだろう。
現行の予算編成なんて95%がルーチンワークというか単純作業の積み上げ方式だ。
結果に対して厳しい制度を設けることは、官僚のみならず、政治家自身の倫理と技量がアップするはずだ。

以上のようなグランドデザインに基づきを未来を設計し、まず国家の土台を固める。
TPPへの参加や増税論議は、それからでもじゅうぶん間に合う。
私は10年連続のマイナス3%縮小予算をおこなえば必然的に増税は避けられるし、東北の復興や脱原発もスピーディに実現できると思う。(10年後にはいまの国家予算の70%規模となり、それは少子高齢化社会の身の丈に合うはずである)
もちろん以上のすべてに関して、対米政策の本質的な見直しが根幹にあり、中国との多面的な交渉も必要となる。

やりたいことの願望をすぐに口に出す、実行しようとする政治家はプロではない。
機が熟すまで待てる忍耐力と、まず自前の思想なり分析力をもってもらいたい。
自分が菲才だと思ったら、「ノー」といえるブレインを採用しよう。

私は安易な量的緩和はよいとは思えない。まず着実なデフレと円高の脱却を、10年スパンぐらいのしっかりした経済施策で展開する。
内需を徹底的に掘り起こし、そこに若い人材だけを登用する。
そうすれば日本経済は好転すると確信している。
「自前の思想」をもつ若い人材に期待したい。
(今度の選挙でいるだろうか? いないだろうな。とりあえず過去から主張が変節していない。誠実な感じがする。こんな個人ベースで見極めるしかないか)

※実質物価上昇率とインフレ目標との相関関係、さらにそれが及ぼす為替レート政策など正直言ってわからない。
しかし、3,11以降にわかに異常な円高になったことは自然現象ではない。これは人為的なものだ。
80円が100円になるだけでどれだけ景気がよくなるか。内需依存の日本経済であっても私には予測できる。
このことの分析は私の責ではない。


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