こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『クロノス・ジョウンターの黎明』梶尾真治

2022-10-22 21:19:30 | 読書感想
 
住島重工に勤める仁科克男は、職場近くのレストランの店主に見せてもらった自作の8ミリ映像に出てきた女性に一目惚れする。
しかしその彼女、清水杏子は、間もなく交通事故死したと聞く。

あまりにも心に残ったため事故の新聞記事をコピーしたのだが、その週の終わりに唐突にP・フレックという住島重工の系列会社に出向の辞令をもらう。

これまでのシリーズは、出来上がったクロノス・ジョウンターでのたくさんの人々の多様な過去への旅の形でしたが、今回はあの野方主導で、部品から組み立てられる過程が語られます。

本来、本社には何の利益ももたらさないであろうこの機械を、なぜ新会社まで立ち上げて作る事となったのか?
その理由はとてもドラマティックであり、ロマンティックでもありました。

梶尾さんお得意の、時間にまつわるプラトニックラブですね。
時間の流れとしてはこの作品が最初になるわけですが、出来れば『クロノス・ジョウンターの伝説』から読んでいただいた方が、より、面白く味わえると思います。

ぜひ!お読みください。損はさせません。
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『此の世の果ての殺人』荒木あかね

2022-10-20 20:07:09 | 読書感想
 
2023年3月7日、7.7kmを超える小惑星が、地球の、よりによって日本の熊本県阿蘇郡に衝突すると、半年前になって全世界の人々に知らされた。

日本人はもちろんの事、アジア及びオセアニアの住人は、南アメリカ大陸を目指して大移動を始めたというのに、ハルちゃんこと小春は、大宰府自動車学校でイサガワ先生に車の運転を習っている。
どこに行こうと、人類は滅亡するようではあったが。

そんな自動車教習所で、たまたま選んだ教習車のトランクから他殺体が見つかった。
しかもなぜかイサガワ先生が犯人を捕まえると言いだして、それにハルちゃんも付き合う事になる。
人類滅亡間近の混乱した世界で、犯人を捜し出して捕まえる事が出来るのか?

江戸川乱歩賞受賞作です。
SF要素の強い作品でありながら、しっかりとしたミステリでもある今作品。
現代では当然ではありますが、これだけ混乱した世界を舞台にしつつも、物語の作りは論理的で理性的。
とても面白く読めました。

ところで選考委員のお1人の新井素子さん。
一般論ではあるのでしょうが「地球が滅ぶっていうのに、何だって殺人?」って、あなたが仰いますか?(苦笑)
素子さんの『ひとめあなたに・・・』は、まさにそれが多いでしょうに(;^_^A
大好きな作品でもありますけどね。

まあそれはそれとして、混乱したこの世界でたくさんの人々の複雑な思いがからみあった中、犯人の動機だけがあまりにも身勝手で、単純極まりなく幼稚なものなので、対極の幼稚な考えかもしれませんが、イサガワ先生の気持ちに共感してしまいます。
でも、ハルちゃんの理性的な判断力も、だからこそ大事なんだろうなと考えました。
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『こいごころ』畠中恵

2022-10-16 20:04:59 | 読書感想
 
しゃばけのシリーズ最新作。

三野屋の2人の息子が麻疹にかかり治ったものの、まだ発疹がある状態の上の子が仲良しの伊和屋の2人の息子と遊ぶために店に行ってしまった。
案の定、息子たちばかりか子どもたちの世話をしていたお佐江にも感染して重症化してしまった。

すぐに上菓子を持って謝罪に行ったものの、三野屋は、もう一度詫びの品を届けたいが長く付き合うつもりの為、大げさでは無いものの本当に伊和屋が望むものを差し上げたいらしい。
それが思ったよりなかなか難題で、助言を求められた長崎屋の主、藤兵衛も悩んでいた。

結局、物よりも困り事を解決する事でお詫びに代えたようですが、ここまで来るのにもそう簡単に行く訳ではありません。

他の話も、妖の力を失くしかけて取り戻したいと願っている妖狐のために動いたり、なぜか藤兵衛が一太郎の誕生日を祝いたいと言いだしたり(当時は正月に一斉に年をとったのです)なかなか変わった話に事欠かないようでした。

あとの「遠方より来る」「妖百物語」についても、彼ららしい怖くも面白くもある物語でした。
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映画『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』原作:乙野四方字

2022-10-13 20:21:16 | 映画
先日、感想を書いた乙野四方字さんの小説は、この作品のスピンオフです。
と、いうか、この二作品も乙野さんが原作なんですけどね。

で、どちらから観るかは本来なら、好きな結末を目指して・・・なのでしょうが、私の時間の都合上で、先に9時過ぎから上映される『僕が愛したすべての君へ』を観賞しました。
こちらだと基本的には、和音との幸せで平穏な人生を送れるはずなのですが、それでも人生にトラブルはあり、しかもパラレルシフトも絡んできたりで、一筋縄では行きません。
もちろん『君を愛したひとりの僕へ』からの影響が多分にあります。

休憩を挟んで『君を愛したひとりの僕へ』では・・・切ないですねえ。
暦も栞も和音も。
本当に、この順番で観ると切ないんですよ。
原作を先に読んでいるから、「逆に読めば幸せだから」と、いくらかは自分を納得させるのですが、それでも。

だからこそスピンオフ作品の『僕が君の名前を呼ぶから』で、皆が救われるわけですね。

あ!あと、Twitterでも書きましたが『君を愛したひとりの僕へ』については特に注意喚起を!
スタッフロールのあとまで物語が続いていて、最後まで観ないと本当に結末が分からないのです。
お気をつけください。

最後に、意外とパラレルワールドって、知らない方もいらっしゃるのですね?
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『レッドゾーン』夏川草介

2022-10-12 20:53:46 | 読書感想
 
長野県の片田舎にある病床数二百床弱の『信濃山病院』

二年前の二月三日。
横浜港にあの大型クルーズ船が着岸した日には、この病院の人々も、まだまだ対岸の火事気分だった。
それが二月十六日には、院長の決断により該当患者を受け入れる事になるとは、思いもしなかった。
院長の決定に真っ向から反対したのは、肝臓専門の内科医、日進。
確かに彼の反論は、真っ当なものだった。

初めの頃は、内科部長の三笠が一人の患者を直接診察するだけだった。
しかし間もなく病院内にコロナ診療チームとして、消化器内科の敷島と、何と!日進も選ばれてしまった。
それからもコロナ陽性患者は増え続け、それなのに周囲の病院は大病院も診療所も診療拒否。
状況はひっ迫しているのに、それらの病院は未だに他人事気分。
医療に携わらない人々と、状況の把握の仕方があまり変わらなかった。

その上、一般の人々の医療関係者への忌避感はひどく、かと言って同じ立場だったらと思うと理解も出来て、やるせない思いにとらわれるのだった。

最初に書いた通り、物語はクルーズ船着岸から始まり今年の五月までコロナ最前線で対応してきた人々、その家族との関係と思いや、ご近所の方々と一般患者との関係性なども描かれています。

私自身は福祉関係の為、まだ対岸の火事に近いものがありそうなのですが、それでも同じ法人内ではピリピリした感覚を感じていました。
この作品を読む事によって、いくらかでもその感覚の原因は、少しはありますが理解出来ました。

正直、物語の医師を始め関係者に「やーめた!」と言われても、非難出来る程、一般の人々がまともな行動が出来ていたとは思えないんですよね?
現在の現実世界でも人というものは弱いから、どうしても自分が楽な方向に考えて行動してしまうので、科学的にはおかしい行動をなさっている方々も多いなあと考えています。
それでも強制出来るものでもないので、こちらが気をつけて行動するしかないのでしょう。
逆に、私の方でもおかしいところはあるのかもしれません。

早い沈静化を願いつつ、感想になっていないのかもしれませんが、この文章を終わらせたいと思います。
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