こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『首里の馬』高山羽根子

2020-08-31 19:45:22 | 読書感想
 
沖縄の港川と呼ばれている一帯、かつての外人住宅から徒歩で行ける地域の中にある、一軒のコンクリート建築。

そこは、地元の人間ではないが若い頃から全国各地を転々として民俗学を長く研究し、人生の最終の場所として住むように決めたという順さんが、この島の資料館、と言いつつあくまで順さんの私的な資料を保存する場所として買ったものだった。

主人公の未名子は、中学、高校のあいだ、休みの日や学校に行けなかった日に自習道具を持ちこんで、そうして学校を卒業してからは仕事のない昼の間中、ずっと資料館の整理を手伝っていた。

誰に向けてでもない資料館という性質から、周囲の人々からは得体のしれない不気味なところと認識され、例え周囲に害を及ぼしてなくても嫌われてしまうという理不尽。

小説によっては、他人に打ち解けにくい未名子が人に馴染めるよう努力するのかもしれませんが、そうは行かず、はた目からは謎の行動を始めるところに、逆に好感が持てました。
私自身、かなりな人見知りで馴染みにくいと思いますので、何となく、いくらかは理解できます。

私にとっては、面白い物語でした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『泡沫の歌 森鴎外と星新一をつなぐひと』小金井喜美子 星マリナ編

2020-08-28 19:30:19 | 読書感想
 
購入から2年間も積読にしていてごめんなさい。ようやく、読みました。

小金井喜美子さんは、星新一さんのおばあ様で、森鴎外の妹さんです。
その方の和歌を中心にして、鴎外と星新一さんをエッセイ、手紙、日記、写真などのリレーでつないだものです。

確かに、星さんの娘さん・マリナさんの仰るように、喜美子さんの和歌の題材は独特です。
遺体解剖で脳髄が出てきたり、ドクロ、ミイラなどが出てきます。
もちろん、季節の移り変わりや風景も愛でておられますが、ダンテらの見つる地獄が出てくる辺りもなかなかなものです。
現代の和歌は浅学にて存じ上げませんが、喜美子さんの方が、今よりも個性的で面白いのではないでしょうか?

ヤマとカワの話も載っていましたし、とても、楽しめました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『黄色い夜』宮内悠介

2020-08-27 19:46:42 | 読書感想
 
ルイこと龍一は、恋人のスミカを日本に置いて、E国に、国そのものを乗っ取るためにやって来た。
E国は、クリスチャンが八割、ムスリムが二割のカジノを観光資源とする国である。
そこは、十年近くの闘争の果てエチオピアから独立したが、住民は、海水を淡水化した水を飲み、飢え、下水も無いような生活を強いられており、自殺率も高い。
中でも紛争の続く国境地帯の意見は―もう、どちらの国だっていい。

E国の螺旋状の塔であるカジノでギャンブルの運とシステムエンジニアの知識、そして、この国で新たに作った人脈で国王と渡り合おうとする度胸が凄いです。

宮内さんは、狭い日本で暮らしている私には、考えの及ばない広い視野と多角的な視点で、物事を見ておられるように感じます。
この短い物語でさえ、大きな世界が見渡せるようです。
それは、あまり幸せな世界ではありませんが、国を乗っ取るという思いもつかない思考が見られます。
これからの作品も楽しみです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『湯けむり食事処ヒソップ亭』秋川滝美

2020-08-24 20:03:26 | 読書感想
 
昭和二十年代に建てられた温泉旅館『猫柳苑』は、四年前から給食の提供を廃止し、その分、安価で温泉を堪能してもらう形に変更した。
初めは戸惑った常連客も、夕食は徒歩圏にある飲食店で好きなものを食べ、二十四時間入浴可能な風呂を楽しむための宿として評価も定着している。

と言いつつ、一階にある食事処『ヒソップ亭』で朝食は出しており、店主の真野章のこだわりで、有償で朝食を出す旅館にだって劣らないと自負している。
実は、夜メニューもあるのだ。

しかし、上げ膳据え膳の時には常連客だったお客様の中には、他所に行ってしまった方々もいらっしゃる。
その辺りを何とかしようと、章の幼なじみであり、猫柳苑の経営者かつ支配人の望月勝哉に掛け合ってみるが、先代の料理長が引退後すぐに亡くなった事が痛手だったらしく、章にも無理はさせたくないと、聞いてもらえない。

どちらかと言えば、身軽なひとり旅が多かった私としては、一人で泊まれる温泉旅館というのは、とても魅力的に思えますが、なるほど、主婦には何も言わなくても食事が出てくるというのは、魅力的でしょう。

あと、これが書かれた時は、まだコロナウイルスがここまで大変になるとは思っていなかったでしょうが、続きが書かれるとしたら、どうなるのかも気になりますね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『奇譚ルーム』はやみねかおる

2020-08-21 19:42:18 | 読書感想
 
ルームという名のSNSを利用している主人公は、ある日、自分の部屋のコルクボードに、なぜか『奇譚マニア』というルームへの招待状がとめられているのに気づく。
それには、本日午後5時からルームを開く事や、入室のためのパスワードなどが書かれていた。

愛用のノートパソコンを立ち上げて入室すると、様々な動物のぬいぐるみのアバターの人々が待っていた。

ホストは『マーダラー』と名乗り、ここにいる人々を、1人づつ殺していくと宣言する。
ただし、指名した順番に奇譚を披露してもらい、面白ければ助けるとも言うのだ。

『マーダラー』は、みんなが入室した後に声だけが聞こえて姿を見せる事が無いので、主人公は、メンバーの1人が2つの人格を装っているのではないかと考え、推理し、試してみる。
『マーダラー』は何者なのか?また、連続殺人は止める事ができるのか?

私も初めは、ある予測をしてはいましたが、それを遥かに超えてきましたね。
そう来たかー!という気分です。
私も、もう1ひねりすれば正解だったかもしれないのにー!と、後からは、いくらでも言えますね。
次々と、登場人物が殺されていく最後の最後に、少しだけですが救いがあったのは、良かったです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする