こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『遠い他国でひょんと死ぬるや』宮内悠介

2019-11-30 19:58:04 | 読書感想
 
中小TV制作会社でディレクターをしている須藤宏は、大正生まれの詩人・竹内浩三の足跡を追って仕事でフィリピンに渡ったが、退職して再渡比するまでに五年かかった。

日本軍と日本人が残してしまった遺恨もさることながら、宗教や民族間の差別と偏見など問題が山積みの中、目的のミンダナオ島は、全体が戒厳令を布かれているほど物騒な地域となっていた。

タイトルからして物騒ですが、それに違わず不思議な力を持つ女性に始まり、ストーカーをしている財閥の御曹司、分離独立を求めて戦う青年など、一人だけでも立派な物語ができそうなくらい内容が濃厚です。
そして、須藤自身も最後には・・・。

様々な人々の多様な思いが幾重にも積み重なって、簡単には語れないものがあります。
『あとは野となれ大和撫子』の時も思いましたが、ひょっとして宮内さんって、ジャンルどころか文学さえ超越した作家さんなのではないでしょうか?
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『Iの悲劇』米澤穂信

2019-11-29 20:31:09 | 読書感想
 
南はかま市では、現市長・飯子又蔵氏の肝いりで、彼の故郷で廃村の蓑石再生のために甦り課が設置され、Iターン支援推進プロジェクトが実行された。
課のメンバーは、課長の西野秀嗣、新人の観山遊香、そして主人公の万願寺邦和であった。

しかし、第一陣として来た二家族からして、隣りづきあいが上手く出来ずに去る事になってしまった。
本格的にプロジェクトが始まり、やって来た十世帯も、何かしらのトラブルを起こしていく。

初っ端から不安を感じさせてくれましたが、読み終わっての感想としては「そこからかいっ!?」です。
まあ、そもそも、米澤さんんが普通の小説を書くはずがありませんでした。
前提が誤りだったんです。ごめんなさいですね。

読者としては、いっそ、爽快感を感じるほどなのですが、万願寺氏にしてみたら、暗澹たる気分でしょうね。
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『時空旅行者の砂時計』方丈貴恵

2019-11-26 19:53:22 | 読書感想
 
加茂冬馬は、急性間質性肺炎になってしまった妻を助けるため、彼女の実家である竜泉家の呪いを解くべく、マイスター・ホラと共に、1960年の竜泉家の別荘へと跳んだ。
当時、そこで連続殺人が起こると共に、土砂崩れも発生し、皆がのまれてしまったのだった。

そこへの移動の瞬間を、当時の記録者であるところの竜泉文香に見られてしまった事が逆に良かったようで、事情を知った上で、他の者には東京から来た探偵として招き入れてもらえた。
しかし本来なら、事件が起こる前に到着するはずだったのに、マイスター・ホラのデータと実際の発生時間がずれていて、文香の父と従兄弟の光奇は殺されていた後だった。
それでも、冬馬たちは残りの人々を守ろうとするが。

ミステリにタイムトラベルまで持ってきて、論理の破綻が無いようにするのが大変だと思うのですが、新人賞の応募のために書かれた作品だそうで、いい時代になったのか大変になったのか、判断が難しいところですが、読者には幅が広いわけで嬉しい限りです。
もっとも、昔なら異端扱いでしょうから、それまでの作家の方々の苦労には頭が下がります。
もちろん、この作品が優秀なのが選ばれた一番の理由なわけですがね。
本当に、鮮やかなお手並みでした。素晴らしかったです。
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『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません 第二部 神殿の巫女見習いIV』香月美夜

2019-11-22 19:43:36 | 読書感想
 
マインを嫌う神殿長が不穏な画策をしている時、彼女自身は弟の誕生や色インクの開発など、忙しくも充実した日々を過ごしていた。

ところが、孤児院に捨てられていた赤子が身喰いだったことによって、事態が急激に変化してしまう。

せっかく溺愛する弟カミルが生まれたばかりなのに、マインはもちろん、両親やトゥーリ、マインに関わって来た人々にとっても辛い選択でしたね。
私もまさかこんな急展開が待っていようとは、思いもしませんでした。
その前に、ジルヴェスターから受け取ったお守りの効力がそういうものだというのも、意外でした。
まあ、永の別れではありませんので、きっとまた、家族と交流できる機会もあると思いたいです。
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『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』森晶麿

2019-11-21 19:50:50 | 読書感想
 
執事までいる岩藤家の令嬢すずは、蔦野医科大学の合格発表に向かった。
しかし、彼女の自己採点では楽々合格圏内だったはずなのに、結果は不合格。
他にも合格圏内でありながら不合格にされ、事務局に訴え出ていた女生徒がいたのを見た事で、なおさら不信感を抱いたすずは、自力で調査してみる事にした。
何しろすずは、自分自身をジョン・H・ワトソンと定義して暮らしているのだから。

さらに、調査を開始した矢先、なぜか上野の路上生活者の一人が、本質的にシャーロック・ホームズを体現しているように感じられ彼に声を掛けたところ、名称はともかく、名推理をして見せたのだった。

ここまで書くと、ただの夢見がちなイカれた女子高生のたわごととしか思えないのですが、この物語の中での彼は、類いまれなる推理力を発揮してしまうのです。
それでいて、しっかりとしたミステリに仕上がっており、化け犬まで出てくる辺りが念が入っています。
時事ネタまであってニヤリともさせられ、いっそう楽しめました。
お薦めです。
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