近年は5月中旬から7月初旬まで長雨が続き、昔と比べると梅雨が2〜3週間長くなった。
長くなった梅雨や夏場の猛暑を凌ぎ、いかに精神の充足を計るかが今後の日本人の新たな課題だろう。
長雨の時期の楽しみは、月並ながら先ずは読書だ。
古人賢人達も晴耕雨読と言っている。
花を飾り茶を淹れ気に入った音楽を聴きながらの読書は、地味ながらも隠者には無常の愉悦だ。
書中の世界に没入するには、模糊として降る長雨の日々が丁度良い。
(宮沢賢治 風の又三郎 古九谷花入 安南緑釉碗 炉鈞窯ポット 大正時代)
今の本はただ文字情報だけで良いならならネットで簡単に閲覧できるが、その時代精神を体現するような本はアーティファクト(聖遺物)として祀るべく是非初版本を入手しておきたい。
ただし宮沢賢治の場合は存命中に出版された物は少なく、初版本と言えど多くは没後の出版である。
次は雨籠りに読もうと先週由比ヶ浜通りの古書店で見つけて来た歌集。
(木下利玄 一路 オールドノリタケのティーセット 大正時代)
利玄の歌風は穏当素朴、岸田劉生の装丁と絵が実に大正浪漫風だ。
歌集句集は初版でも比較的安価なので、気に入った作家の物は是非手元に置いてティータイムにでも眺めて楽しもう。
一首一句でも誦じてみれば、皆も大正文士の気分になれる。
蕭蕭たる雨の夜には読み応えのある古典文学がお薦めだ。
こんな隠者でも本朝文芸の美文中の美文、雨月物語の一節でも音読すれば自ずと品格が身につく。
(雨月物語評釈と秋成研究書 重友毅著 青九谷徳利杯 幕末頃)
重友先生は国文学者だった我が亡父の師で、私も幼少の頃何度かお目に掛かっている。
短夜は父祖の時代を想いながら、江戸末の古九谷で糖類ゼロの酒精をちびちびやろう。
我々の世代は日本史上これまで無かった、長引けば2ヶ月に及ぶ雨季の新たな楽しみ方を工夫し、子孫に伝えられる美しい生活様式を確立する務めがあろう。
©️甲士三郎