今週は旧暦の年末に当たるので、この1年間隠者の病眼を補佐してくれた古式写真機の良さを語っておきたい。
およそ1世紀前のレンズとファインダーを通した曖昧模糊とした映像は、私を現実世界から夢幻界へと導いてくれる。
ただそれに気付いた写真家達が競ってクラシックカメラを買い求めた為に価格が暴騰し、今ではもう私の手の届かない物になってしまった。
(ライカDⅡ DⅢ ニッケルエルマー3.5cm 5cm 13.5cm ヘクトール7.3cm ドイツ1931〜32年製)
若い頃から隠者の一番の愛機で、多くの旅を共にしてきた。
今の一眼レフと比べれば断然コンパクトで、何より電気を全く使わないので長旅も山奥に籠っても安心だ。
当然フルマニュアルなので操作にも経験と勘が必要となる。
今日の35mmフルサイズ規格の元祖がこのバルナックライカなので、レンズだけならアダプターで現行のデジカメでも使用できる。
(向かって右 コンテッサネッテル テッサー10.5cm f4.5 ドイツ1920年製)
私が使っているカメラの中では最も古い物で、蛇腹部分をたたんでコンパクトに出来る。
6x9cmのロールフィルムを使用する。
往年のコダクロームのブローニーフィルムも、近年のクラシックカメラブームで再生産されるようになり喜ばしい。
(左 ローライフレックススタンダード テッサー7.5cm f3.8 ドイツ1932年製)
テッサーは当時としては驚異的に鮮鋭なレンズで、色々な機種に採用されている。
二眼レフ独特の6x6cmスクェアサイズは、今のインスタグラムでも人気が再燃している。
上から覗くファインダーで、磨りガラスに写った左右逆像は周辺光量の低下の効果で別の世界を覗き込んでいる気分になる。
また二眼レフのクラシックなデザインが現代の街中ではとてもエレガントに見えて面白い。
古式写真機は他にもいろいろ使っているが、ここで作例写真も出しておこう。
(ライカDⅢ ニッケルエルマー3.5cm f3.5使用)
秋口のブログでこれと同趣の薄原の写真を使ったと思うが、今見るとこちらの方がシンプルで良かったかも。
レンズ銅鏡内のフレアーで、幻視の風と光が写った。
コントラストが低く柔らかな描写が寂光楽土の景に合っていると思う。
古い写真機を卓上に並べていると、明日にでも写真とスケッチの旅に行きたくなる。
芭蕉の「漂泊の思ひやまず」の気持ちが良くわかる。
早く病魔騒ぎが鎮まって、またこの愛機達と夢幻の春野へ旅立ちたいものだ。
©️甲士三郎