鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

141 無明の花

2020-05-14 13:53:00 | 日記

脚の骨折もだいぶ癒えて来て、リハビリの散歩に出られるようになった。

自粛自粛の世間の迷惑にならぬよう夜明け頃にうろついているが、返って不要不急の不審者に見える気もする。

元より隠者も詩人も現世には不要不急の存在で、古人達も在原業平は己れを用無き身と儚み芭蕉は夏炉冬扇と言って、自分は世に不要な人間だと見なしていた。

武士であった我が父祖達もまた戦無き平時には不要な職種だったので、我が家系は「無用の用」に慣れていて今更どうと言う事もない。


---暗がりに毒色躑躅咲く道を 杖に縋りて夜明へ歩む---


躑躅は街灯下では化学染料のような色に見える。

都会の花壇の躑躅をネオンの光でSF風に撮影したら面白いかも知れない。

将来はサイバーパンク版の隠者ライフも考えてみよう。


暁闇から黎明の空の色は毎日見ても飽きない変化がある。

SNSで毎日空や雲の写真を撮っている人がいて、私では到底及ばないほど美しい写真で楽しませてくれる。

また壮大な自然の中で息を呑むような朝日夕陽や星景写真を見せてくれる人も多かったが、今は皆遠出を自粛中らしく旧作を出して凌いでいる。

隠者は精々身の周りの世界しか撮らないので、自粛しても余り変わりは無い。


明方は植物の生命感も眼に見えて旺盛で、夜閉じていた花も瑞々しく開いてくる。


上の写真は空もまだ明けきらぬ彼誰時(かはたれどき)だが、群れ咲く白花に合わせて少し明るめに写している。

---黎明の暗き緑に浮き上り 朝を漂ふ野辺の白花---

先行の類想作がありそうだが、負傷を言い訳にこれで御勘弁。

あとで知ったがこの花は洋種のハルジオンで、茎葉は食べられると聞いた。


だいぶ明るくなって来たので、こそこそと家に逃げ帰りティータイムにしよう。

今週は連日夏日になるそうなので、私も今朝からアイスコーヒーに切り替えた。


先週のネットオークションで、長年探していたアイスコーヒー用のイギリスアンティークのピューターマグを入手したので、さっそく初夏の風が入る窓辺で使ってみた。

投入れた黄あやめが風になびいて心地良い。

BGMは定番だがアシュケナージのショパンのピアノ曲集が良いだろう。

今年最初のアイスコーヒーなので、いつもよりちょっと高級なブレンドを買って来た。

今の疫病禍ではこんな些細な贅沢でも十分満足感が得られる。

正岡子規は病床生活でも、こんな卑近な喜びを句歌にしていたのだろう。

ーーー粗食もて惨禍の夏を耐えゆくに 古錫の器鈍く光りてーーー


©️甲士三郎


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