鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

360 古歌学と古楽

2024-08-01 14:46:00 | 日記

ーーー歌舞の音の漏れ来る古都の裏路地の 影も灯りも短夜の夢ーーー

8月に入り暦では立秋ももうすぐだが現代の酷暑は9月末まで続き、散歩も夜でないと老身には厳しい。

今週はその長い夏を凌ぐために大量に集めた古歌学書と清涼クラシック音楽の出番だ。


大抵の古歌学は戦前の泰斗佐々木信綱の「日本歌学大系」なら活字で読めるので、一般的にはわざわざ読み難い草書体の中世手写本や江戸木版で読む必要はない。

しかし隠者はより強く古人達の想いが伝わって来る原典から離れ難いのだ。



中世の写本の大抵は断片的で古語の含みも多くやや上級者向けだ。

その中でこの「古来風体抄」は総合的な歌学書としてはわかり易く纏めてあり、BGMに典雅なハープ曲か静謐なピアノソロ曲でも聴きながら読めば、暑中にも快適な精神生活を送れるだろう。

美しき古楽と深遠なる歌論が自ずと離俗清澄の境地へ導いてくれる。

秋冬ともなればさらに幽玄なる中世和歌とロマン派の荘重なピアノコンチェルトの至福の取合わせが楽しみだ。

ーーー夕涼の書見に古楽侍(はべ)らせてーーー


荒庭の凌霄花の回りでは青揚羽が涼しげに舞い、珍しい烏瓜の花も咲いた。



写真の烏瓜の綿のような花には正に文人好みの趣きがある。

蔓物は放っておくと絡んだ本体を枯らしてしまうので嫌われ者だが、秋の赤い実も楽しみで私は荒庭の端に自生しているのを大事にしている。

我家の竹林も藤と山芋が盛大に絡んでもう整理不能の状態だが、晩秋の黄葉時には荒寥たる美を見せるのだ。

本は江戸時代の二条派歌学書の「和歌六體抄」だ。

BGMにはイタリアのバロックかチェンバロ曲が似合う。

ーーー仄暗く誘ふが如く木戸朽ちて 秘せる小径に烏瓜咲くーーー


邦楽では残念ながら現代の夏に合う物はなく、誰か現代人向けに涼しげな箏笛曲でも新しく作ってくれないだろうか。



と思いつつiTunes を見ていたら、知らぬ間に細野晴臣の名作「源氏物語」が出ていた。

10年ほど前にはiTunesに入っておらずCDも見つからず諦めていたが、このアルバムは和風のアンビエントとしては最高峰の音楽だ。

幽玄さも高雅さもあり、中でも「若紫」は日本の箏曲では三指に入る名曲だと思う。

和歌集や古歌学書を読むのにこれ以上のBGMは望めないだろう。

ーーー箏の音のやがて静まり外の世の 夕立の音雷の音ーーー


近所の箏師範の家が疫病禍のためかしばらく稽古の音が途絶えていたが、最近また聴こえるようになって嬉しい。

私も含め鎌倉の伝統文化を絶やさぬように、皆して細々とやり続けるしか無いだろう。


©️甲士三郎