今回はいよいよ英国浪漫派の2大巨頭、コールリッジとワーズワースだ。
S.T.コールリッジはヨーロッパでの名声の割に日本では意外と知られていないが、後の指輪物語やハリーポッターに繋がる英国ファンタジーの始祖と言っても良い巨匠だ。
(コールリッジ詩集 19世紀版 老水夫の詩 ギュスターブ・ドーレ挿絵版)
この詩集こそ英国浪漫主義の金字塔にして、その荘重たる韻律は彼の幻想世界に侵し難き聖性を加えている。
後述のワーズワースとの共著「リリカルバラード」は多分英国詩中の最高傑作だろう。
コールリッジの世界観の影響は文芸だけに留まらず後世のブリティッシュロックにも及び、伝説のレッドツェッペリンの歌詞やケルト的な響きにも受け継がれている。
挿絵のドーレは先週の失楽園に続いての登場で、当時の彼の人気の高さがここにもうかがえる。
今ではその詩よりもイギリス湖水地方の作家として有名なウィリアム・ワーズワースだが、ピーターラビットのビアトリクス・ポターもハリーポッターのJK・ローリングも彼の詩に憧れて湖水地方に移り住んだのだ。
(ワーズワース詩集 1897年版 湖水地方案内日本語訳)
夏の1日を詩画の水辺で涼しく過ごそうと、画は池大雅の清江遊船図を掛けた。
ワーズワースの田園詩には東洋の古詩にも似た多神教的な自然への祈りがあり、異国の叙景ながらこの隠者にも親しみ易い。
また彼が隠遁中の金策のために書いた「湖水地方案内」は、その後のナショナルトラスト運動の契機にもなった。
ただ残念ながらワーズワースの詩集も日本語版は大衆向けの口語訳しか無く、例によって原典の格調は失われている。
もう1人英国浪漫派で忘れてはならないのがアンドルー・ラングだ。
(ラング編纂装丁本の数々 19世紀)
ラングは有名なフェアリーブックス(神話伝説童話集)の編纂を始め、19世紀のファンタジー界をリードした大賢者だ。
彼の本には文も絵も装丁も含め、古き良き英国ビクトリア朝の文化芸術が凝縮されている。
世界の猟書家垂涎のフェアリーブックス類は全部で25冊あり、全て集めれば子々孫々まで残る偉大な文化資産となろう。
また随筆集「書斎」(The Library)は世のブックハンター達の聖典とも言うべき名著で、彼の古書蒐集を巡る逸話は尽きない。
梅雨が明けて鎌倉もだいぶ暑くなったが、晴耕雨読ならぬ晴れた酷暑日こそ家に籠って読書しか無い。
せめて屋内だけでも美しく、涼しげな風情で過ごしたい。
ーーーこれ着れば我も浪漫の歌人たり 藍地に白き蛾の舞ふ小袖ーーー
©️甲士三郎