あの花この花と取材に飛び回った花時も終り、先週末の風雨の後の山々は急速に芽吹きの色を増して来た。
近所の路地にも光が溢れ、物みな輝いて見える時だ。
遅桜とリラが隣り合って散る散歩路で読もうと、小さな古い詩集を持って来た。
(青い小径 初版 竹久夢二)
大正の詩集はみな小型で可愛らしい上に、天金に木版刷りの表紙口絵など豪華な装丁が多く愛着が湧く。
この本はだいぶ傷み汚れていて補修もしたが、私には古陶と同じように時代相応の汚れがある方が美しく思えるのだ。
夢二の初版本は以前から高価でなかなか入手し難かったのが更にこの1〜2年で倍以上に値が上がり、もうこの隠者如きの手には負えないだろう。
竹久夢二の作品はみな詩歌としてより本として一級品なのだ。
晩春の散歩の楽しみは路傍の草の小さな花々だ。
ーーー風光り草上に古書開く時ーーー
(どんたく 初版 竹久夢二)
春野に座してお気に入りの詩集の頁を開けば、ほんの数分でも深い充足感がある。
さらに周囲の光や風に合った音楽があれば至福の時間だ。
写真はこれも夢二の詩画集だが、野に置いてこれほど様になる本も少ないだろう。
惜春の散歩路には大正浪漫の詩集が良く似合う。
そろそろ家に帰って茶菓の時間だ。
(祇園双紙 初版 吉井勇)
ここもついでに夢二装丁の吉井勇の歌集を飾り、昭和初期の古民芸の花器茶器を取り合わせて一服だ。
同じ夢二の表紙で吉井勇の「祇園歌集」は以前紹介したが、この「祇園双紙」も小型で散歩のお供にも良い本だ。
茶菓も珈琲に蓬饅頭の和洋折衷が大正時代の歌集にはふさわしく思える。
今週はおまけで写真をもう1枚、樹々の芽吹が丁度良い色となっている鎌倉宮の杜。
名残の花と種々の芽吹の色が社殿を囲み、瑞々しく調和している。
この麗しき春色の景色はわずか4〜5日しか持たず、その後は葉緑素が増えてきて全てが若葉色から深緑となって行く。
山桜の1週間に芽吹の1週間と続く、我が谷戸の彩りが最も劇的に変化して行く日々を精々心に刻もう。
©️甲士三郎