鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

206 幽隠の古詩

2021-08-12 13:24:00 | 日記

前回も話したが、この数ヶ月で古書画の軸があちこちで大量に投売りされている。

こんな生涯1度あるか無いかのビッグチャンスでは、私の手が届く物は躊躇せずに予算を投入する事にした。

狙いは現代では人気の低下している文人画だ。

古人の幽居で書かれた蒼古たる詩画の軸を飾れれば、この隠者の幽隠レベルもまたひとつ深めてくれるだろう。


実際に古詩を飾ってみれば遅まきながらこの歳で、新たに詩軸の良さと味わい方がわかって来た。


(蘭画賛 貫名海屋 崧翁 江戸時代)

「芳香を秘めて花幽かなり」の秘と幽の使い分けが実に上手い。

君子蘭は春先に小さく目立たない花を咲かせる。

その地味ながら気品のある姿が古人達の好みに合っていて、沢山の詩画などに描かれて来た。

この軸を飾って日々眺めていれば、この5文字くらいなら私でも作れそうな気になってくるのが怖い。

ただし貫名崧翁は幕末三筆として名高く、書は到底私如きの及ぶ所とは思えない。


画を味わうには眼を離さずに凝視する訳だが、詩の場合には始めはじっと見るがやがて眼を閉じて詩句を反芻したり茶を飲みながら思い返したり出来る所が良い。


(茶詩 頼山陽 江戸時代)

お茶は良いよね、と言った詩。

前回触れた山紫水明処の文人達はまた、当時興隆した煎茶道の先導者でもあった。

実際この軸の前で茶を飲み眼を閉じれば、夢幻界で古の詩人達の座に加わった気分になれる。


もう1枚は芙蓉秋果に太湖石の画賛。


(画賛 菅茶山 江戸時代)

田能村竹田の画に茶山が付けた詩だが、まだ数カ所読めていない。

この解読は先々の楽しみに取っておこう。

2人の友誼と温雅な人間性だけは一見で伝わってくる。


他にもネット市場には読めればきっと良い詩だろうに、私を含めて現代人には解読不能な詩軸が沢山ある。

読者諸賢には読める人も多いだろうから、試しに一つ入手してみてはいかがだろうか。

ただし書道界には今だに臨書と言う模写の悪習が蔓延っていて、悪質業者によって簡単に贋作に変化し得る物が山ほどあるのでご注意を。

それでもネットオークションなら家で印譜集や資料と照らし合わせながら、じっくり鑑定出来るので昔よりは買い易い。


©️甲士三郎