鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

120 静謐の冬紅葉

2019-12-19 14:11:00 | 日記

鎌倉は避寒避暑の地で温暖なので、紅葉は12月に入ってからだ。
山は植林されていない自然の雑木山で、古い大和絵に見るような木々の色になる。
有名寺社でも極月は観光客も途絶え、静謐な紅葉を楽しめるのでお薦めだ。
立冬後ひと月以上もたっているので紅葉も今更の感があるが、歳時記には冬紅葉と言う都合の良い季語がある。

語感としては錦秋の絢爛たる紅葉と違って、季節の名残の寂しさを含む冷めた色合いの紅葉だ。
薄れ陽を纏いひっそりと佇む冬紅葉には、何かしら宗教的荘厳さが感じられる。

散り敷く落葉にも華麗な色合いは無く、山河も乾いた冬色の中に僅かに残る葉がぽつぽつと暖色を点じる。
オールドネガカラーのようにやや色褪せたノスタルジックな空間色が、孤独な散歩道に深い情感を加えてくれるのだ。

晩秋から初冬の枯山河を薄日が照らす光景は楽園浄土の終末を暗示して、静寂かつドラマチックな実に隠者好みの世界となる。
これが完全に枯れ尽くして雪でも積もってしまうと返って鮮烈な美しさや春への期待感が出てきて、終末観とは違う感じになるのが不思議なところだ。

隠者生活の要諦は俗事を離れ、より深い精神生活を送る事にある。
世人はよく誤解するが、釈迦も言っているように苦行は何の役にも立たない上に害悪でさえある。
むしろ身辺に楽園浄土を見付け出し、人生をより楽しむ為に色々思索するのが正道なのだ。

冬枯れの散歩道、名残の紅葉、薄れた冬陽、こんな世界の地味なディティールまで味わい愛しめるようになったら一人前の隠者と言えよう。

帰り道にはもう鎌倉宮の灯籠に灯が入って、冬紅葉の冷めた感じの赤を照らしている。

---灯に寄りて色を温めよ冬紅葉---

©️甲士三郎