鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

112 雨情の古都

2019-10-24 14:51:26 | 日記
例年の鎌倉なら10月中旬から11月は穏やかな行楽日和が続く筈が、今年は台風や雨催いの日が多く肌寒い気温のせいで廃都の秋寂の感が一際深いように思う。
今日は雨に濡れてしっとりとした色調の古都を吟行しよう。
雨なら普段は混んでいて行かない鶴ケ岡八幡も多少は静かだろう。

---雨風に客を並ばせ蒼然と 階(きざはし)高く武神荒ぶる---

傘の花が咲くと言い夜目遠目傘の内なら皆美人と言うが、参列の景は昨今の洋装のビニール傘よりひと昔の和服に蛇の目唐傘の方が遥かに美しかったろう。

台風で折れた客殿の椨。

---倒木に野分の後の青き雨---

天然記念物の銀杏の大枝を何故か切り捨てた挙句その数年後に本幹をも倒してしまって以後、哀れにもここの宮司には天罰が続いているようだ。
先月の源平池の大柳に続きこの﨓も野分にやられた。
惨禍は神威の青い寂光に包まれ、俗に塗れた八幡宮には珍しく武神の威厳がある。

本殿の右下が若宮で、その奥の路を行くと頼朝の白旗神社がある。
ここまで来る観光客は少なく、さすがに清浄な雰囲気がある。

---神域の樹々に隠れて祈祷所へ 傘と傘とが語りゆく路---

そろそろ暮れ近くなってきてぽつぽつと秋灯が点り、誰の目にもしみじみとした情感を抱かせる

---秋雨の宮の灯火ほの暗く 古き黄金の色に寂れる---

家に帰って句歌の錬成と墨書の座を設えよう。

(賢人図 狩野派 江戸時代 古端渓硯 清時代)
今日見た景物を吟味ながら心を深く沈めれば、夢幻世界の深淵から中世の秋の景が浮んで来るだろう。
この三昧境に入って句歌を仕上げるのが隠者流なので、その為にはそれなりの場の設えが要るのだ。
---賢人図掛けて夜長を墨遊び---

と言いつつ句歌の出来がどうも良くないので、写真を多めにして誤魔化そう。

©️甲士三郎