鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

35 端午の古剣

2018-05-04 14:18:20 | 日記
---錆び剣を末世に伝へ端午かな---

(護法剣 室町時代 厨子 江戸時代 探神院蔵)
端午の節句にあやめや菖蒲を飾るのはその葉が太刀に似ているからで、花はあくまで脇役だ。
写真は我ら鬼門守護職必携の護法剣である。
醍醐寺伝来の物で、元々刃は引いていない儀式用の剣だ。
刃ではなく霊験によって邪を絶つ。
探神院の端午の節句はこれだけを飾る。
例の自分だけの秘めやかな儀式の一つだ。
中世鎌倉を想起するには、これ以上ない魔道具と言えよう。

(独鈷杵 室町時代 探神院蔵)
ついでにこれも護法の武器の独鈷杵。
不動明王の持つ倶利伽羅剣はこれの片側が伸びて剣になった形だ。
一部の欠けが歴戦を物語る。

五月は国文学者だった私の父の命日で、辞世の句は「父母に会へる日近き端午かな」である。
遺句帳にはこの句の下五が未完のままだったのを、私が補って「端午」とした。
童心に帰って浄土で両親に会えただろうか。
護法剣の厨子は父が見繕って来た物で、私には感慨深い遺物だ。


鎌倉には細い水路があちこちに流れていて、黄色のあやめが結構自生している。
この時期は特にもののふの古都にふさわしい風情だ。
---あやめ太刀流れる水の行く方は 光溢れるもののふの海---
中世から変わらぬ花を眺めて、将軍実朝公のように歌でも詠むのが鎌倉人らしい端午の節句だろう。

©️甲士三郎