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馬方が藤兵衛の馬を励ます。
「トキよい、ええ子ずら。気張って行かズ。来年はこの道もあがりになるずら」
「あがりとはなんです?」
藤兵衛が馬の上から尋ねた。
「へい。おいとまが出るということでネー。箱根で三年働かせた馬は眼が潰れるずら。その前に暇をやって村に帰(きや)ーしてやっだなァ」
「眼が潰れる?」
「人間でも苦しい山坂を、馬は荷や人を負うて歩(ばし)るずらよ。三年通うと眼ェ失い、五年通うと命を縮める。馬も苦しいときは涙ァ流すまいか」
藤兵衛の馬はメスのようである。ひとかかえもある大きな長い首が黙々とうなだれて、悪路に足場を刻むようにポカポカと登って行く。馬の背が汗で水を含んだ苔のように光った。苦役に従う獣のひたむきな従順さが、じんと彼の胸を刺した。
村田喜代子 『お化けだぞう』より 潮出版社
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江戸の爛熟期、隠居間近の本草学に入れあげてる豪商が、奇妙なうわさの草木をもとめて諸国を旅する冒険譚。
同行する、お取り潰しにあった武家出身の後妻が影の主人公で、そのおかみさんが、一番のお化けだったという話。
お化けには、ほとんど悪い意味は付されてない。
後半になればなるほど面白さが増して来る、ってとこが村田喜代子のすごさ。
抜粋部は徳さんがこの本から勝手に離れて、福島原発で悪条件の中で働いてる労働者を思い浮かべてしまった部分。
馬のトキより待遇が悪いんじゃなかろうか?
7次請けまであるという雇用形態とその間のピンハネ問題はその後どうなっているんだろう?
年間被爆量を超えた労働者にはどのような仕事や生活が保障されているのだろうか?
原発事故当時、混乱をしまくった政府並びに東電責任者は、その後、彼らの抱えてる問題に取り組んでいるのだろうか?
慰問に行っているのだろうか?
自己弁解は聞いたことはあるが、、、。
さて、さしあったって、当面の徳さんにとってのお化けはホンコンA型インフルエンザ。
変則的な台風というか、コースを逸脱しているというか。
ともかく変わった奴だった。
熱は上がったり下がったりを飽きずに繰り返す。
咳は喉からではなく、胸の芯から、何の前触れなしに襲ってくる。
そして、暴れるだけ暴れて何事もなかったかのように去って行った。
嵐の後の感想。
発熱してる時って、何も出来ん。
そして何も出来んことが苦じゃない。
でも、眠る事だけは延々と出来る。
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