南海トラフ地震の“復興”はもう始まっている――大阪北部地震の教訓
2018.07.30(liverty web)
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《本記事のポイント》
- 6月の大阪北部地震の教訓は、南海トラフ地震の紀伊半島を復興させる要にもなる
- 各地域のみならず、「紀伊半島」「大阪ベイエリア」という単位で復興をマネジメントする発想が必要
- 国土や都市はひとつの「生命体」
西日本豪雨をはじめとして、日本には思わぬ災害が多発している。
6月に起きた「大阪北部地震」もその一つ。被害を受けた大阪北部という場所は、紀伊半島に大きな被害をもたらすといわれる「南海トラフ地震」への対策で、まさに鍵を握るという。
そう語る大阪大学大学院教授の木多道宏氏に、話を聞いた。
◆ ◆ ◆
はじめに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げたいと思います。
今回、地震が起きた「大阪北部」という地域は、とても大きな意味があります。「南海トラフ地震」における近畿の被害で、紀伊半島や大阪湾沿岸が深刻になると予想されていますが、その「復興の要」となるのが大阪北部になります。
この地域には、広域を結ぶ鉄道や名神高速道路が通り、伊丹空港があります。同時にこの地域からは、南の紀伊半島に向けて、主要な高速道路が延びています。
つまり大阪北部は、全国と紀伊半島を結ぶ「結節点」。近畿南部が大きな被害に遭った場合、全国の支援者や救援物資の「玄関口」になることが期待されるのです。
南海トラフ地震が起きると、大阪北部も今回の地震と同じくらいの揺れが起きると予測されています。その時、この地域が混乱すると、南部への支援が進みにくくなる可能性があります。
今回の大阪北部地震では、倒れたブロック塀によって尊い命が失われました。鉄道やライフラインも止まり、多くの人々の生活に支障を来しました。また、多くの外国人の避難にも混乱が生じました。二度とこのような犠牲や混乱が生じないよう、地域の人々や行政の努力により、施設の改善や被災時の応急・復旧のガイドラインの見直しが進んでいます。
こうした教訓を生かし、大阪北部の地震への対応力を高める必要があります。
「紀伊半島」という単位で復興をマネジメントする
これが叶えば日本初の取り組みになると思いますが、例えば、広域的な復興支援センターの構想、支援センターを機能させるための自治会・商工会などの地元組織の行動計画の立案、医療や福祉関係者のネットワークづくりなどは、近畿南部の"事前復興"に直結するのです(6月2日掲載記事に解説 https://the-liberty.com/article.php?item_id=14522 )。
このように、「自分の地域だけではなく、異なる地域同士が相互に助け合う」という観点で防災・復興政策を行うことが、今後、日本においては重要になってきます。
南海トラフ地震が起きれば、必要とされる仮設住宅の数は、東日本大震災の数倍とも言われています。この量を供給するには、メーカーやリース会社による従来の方式だけでは困難です。そこで例えば、「紀伊半島全域」という単位で、林業の盛んな地域が木造の仮設住宅をつくり、県をまたいで融通できる体制をつくっておく、といった発想が求められます。
奈良県十津川村は、林業の再生に成果をあげつつあり、私も紀伊半島スケールでの新たな供給システムづくりのお手伝いをしているところです。
「大阪ベイエリア」という単位で復興をマネジメント
また、大阪ベイエリア(大阪湾に接する都市域)に、5メートルレベルの津波が到達するとの予測もあります。
その時にどのような被害が予想され、どのような対策が必要なのか。府や市などの自治体やさまざまな分野の専門家が、それぞれ調査・研究を進めています。例えば、工業地帯の重油タンクが破壊された時の、大阪ベイエリア全体の被害シミュレーションをしている研究もあります。
しかし残念なことに、その知見はお互いに共有されていません。大阪ベイエリアという単位で、防災・復興を考える枠組みがないことも一因だと考えられます。
また、ある自治体が津波で被災した際、どの自治体が仮設住宅やその用地を確保し、被災者を受け入れるか。多くの港が被害を受けた時、どの港から先に復興して、エリア全体の拠点とするのか。そうした調整も事前にある程度しておかなければ、いざ地震が起きて混乱している時に、冷静に判断することは困難です。
国土や都市はひとつの「生命体」
未曾有の災害は、都道府県や市町村の境界を超えなければ、解決できない課題を私たちに与えることになります。
大阪北部や南部、紀伊半島、大阪ベイエリアのように、既存の境界を越えたスケールで、土地や施設、人材、そして資金・収入をも融通し合えるようなマネジメントの仕組みや、「場」をつくっておく必要があるのです。
コミュニティ、都市、国家などの社会組織にも、「生命」があるという考え方があります。小さな単位から大きな単位、それぞれの単位ごとに信頼関係に基づく協力や共創の場が形成され、小さな単位はより大きな単位へと開かれ、大きな単位はより小さな単位の働きに配慮することで、全てのスケールの単位がひとつながりの「生命体」を形成するのです。
現代の日本では、ベイエリア、河川流域(山・農地・街・海のつながり)や半島といった、中間的なスケールの「生命」の働きが極めて不十分であり、既存の境界を超えた地域マネジメントの仕組みづくりを、市民、企業、大学、行政、国が協力して進める必要があると考えています。大災害はそのきっかけを私たちに与えており、対策を具現化することが"事前復興"につながるのです。
大阪大学大学院教授
木多道宏
大阪大学大学院工学研究科教授。同大学大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了、株式会社日建設計、大阪大学工学部建築工学科助手等を経て、2012年より現職。専門分野は建築計画・都市デザイン。集落・都市における「地域文脈」を継承した計画とまちづくり、アフリカの非正規市街地・スラムの改善など。日本建築学会奨励賞受賞(2000年)。
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