《本記事のポイント》

  • イスラエルはイランの核開発を熟知
  • 現在行われている反撃が限定的な理由
  • イランの核開発が焦点となる

 

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

イタリアで行われたG7=主要7か国の外相会合が閉幕。共同声明ではイスラエルを攻撃したイランを「最も強い言葉で非難する」とし、「イスラエルがイランに対し反撃に出た」と報じられた状況を踏まえ、「すべての当事者にさらなる緊張の高まりを避けるよう求める」と強調しました。

 

イラン側は3機のドローンを撃墜し被害はないと発表していました。一方でアメリカABCテレビは19日、アメリカ政府高官の情報として、イスラエル軍がイランの防空レーダーを標的にしてイラン国外から戦闘機で3発のミサイルを発射したと伝えました。

 

防空レーダーはイスファハンにある核施設の防護に関わっていると見られ、レーダーがどの程度の被害を受け破壊されたのかについての、評価が続いているとしています。

 

 

イスラエルはイランの核開発を熟知

今後焦点となるのは、イスラエルがイランの核開発をどう止めるか、です。

 

イギリスに籍を置くアラブ系のエラフ・ニュースは、西側の安全保障担当の情報筋の話として、イスラエルはイランの「機密施設」を攻撃するパイロットを訓練しており、イランの核開発計画を熟知している可能性があると報じています(*1)。

 

さらに同紙は、アメリカは「イスラエルを支持し続ける」とし、「この任務に必要なすべての支援、武器、装備を提供する」、「バイデン米大統領はネタニヤフ首相に、アメリカは『あらゆる状況において』、イスラエルを支持する」と保証した、と情報筋は付け加えたと述べています。

 

なお、イスラエル軍の重要攻撃目標とされているイランの核施設は、ナタンツ・ウラン濃縮施設、アラク重水炉、イスファハン・ウラン転換施設の3ヶ所です(下図は日本原子力研究開発機構より(*2))。ただしイランの核関連施設のすべてが攻撃対象となる可能性はあります。

 

21372_l

 

加えてアメリカ国内でも、バイデン政権の「イスラエルの報復に参加することはない」との姿勢に、一部の米議員や元政府高官から批判の声が上がっています。下院情報委員会のターナー委員長は、バイデン政権の発言は「間違っている」とし、「紛争はすでにエスカレートしている。政権はそれに対応する必要があると述べています」(*3)。

(*1)Elaph(2024.4.9)
(*2)日本原子力研究開発機構
(*3)BBC(2024.4.15)

 

 

現在行われている反撃が限定的な理由

今後の展開によっては、今後広く中東を巻き込んだ戦争に発展する可能性があります。

 

イランのモハマド・バゲリ参謀総長は、イスラエルによるイランの攻撃によっては、イスラエルに報復すると警告しており、イラン側の対応は「13日のミサイル攻撃をはるかに超える規模」になるだろうと述べました。

 

18日にイランは、イランの核施設を攻撃した場合、報復としてイスラエルの核施設を標的にすると脅しました(*4)。

 

さらにイスラエルがイランに大攻撃を仕掛けた場合、レバノンのヒズボラから弾道ミサイルが一斉発射される可能性があります。

 

ヒズボラは十数万発のロケット弾とミサイルを保有しているといわれ、その多くはイスラエル全土を射程に収める精密誘導ミサイルです。

 

これら精密誘導ミサイルがイスラエルの軍事施設やインフラなどの重要拠点へ向けて大量に発射された場合、イスラエルがすべてを撃ち落とすのは不可能でしょう。イスラエルはヒズボラからの攻撃も想定しなければならないのです。

 

今回のイランの弾道ミサイル等の迎撃について、イスラエル元参謀総長経済顧問のラム・アミナチ大佐は、一晩の防衛に40~50億シェケル(約1600億円)の費用がかかったと見積もりました。一方で、イランがこの攻撃に投じた経済的コストははるかに少なく、「イスラエルのコストの10%にも満たない」と指摘しています(*5)。

 

イスラエルにはヒズボラが発射する十数万発ものミサイルを防ぐ能力はないでしょう。米軍が協力したとしても防ぎきれるとは思えず、また米軍の戦費も巨額になるでしょう。米軍は現在、イエメン・フーシのミサイルから紅海の安全を守るなどの目的で艦隊を派遣していますが、これまでに10億ドル(約1500億円)かかったとデル・トロ米海軍長官が報告しています(*6)。

 

イスラエルの今後の軍事作戦は、それ自体が予測不可能な中東での大戦争となる可能性があるばかりか、結果的にアメリカを大きく巻き込み、中東に米軍を張り付けにし、また台湾有事に取っておくべき貴重なミサイルを激しく消耗することになる可能性が高いでしょう。

(*4)THE TIMES OF ISRAEL(2024.4.18)
(*5)ISRAEL NATIONAL NEWS(2024.4.14)
(*6)BREAKING DEFENSE(2024.4.16)

 

 

イスラエルの置かれた複雑な状況

中東各国の事情から鑑みれば、イスラエルは厳しい環境に置かれています。

 

ミドル・イースト・アイ(Middle East Eye)によれば、米当局者は「湾岸アラブ諸国(サウジアラビア、UAE、オマーン、クウェート)は、イスラエルとともにアメリカが湾岸諸国の領土を攻撃に利用しないようワシントンに通告した」とのことです(*7)。これには基地使用や領空の飛行が含まれるものと思われます。

 

これまで中東ではアメリカの影響力が強く、サウジやイラクなどの湾岸諸国は米軍の軍事行動を支援してきましたが、現在の湾岸諸国はイランとの戦いに巻き込まれないように、慎重に距離を置いているようです。例えばサウジは、アメリカが呼びかけた紅海の安全を守る有志連合への参加を拒否しています。報道によればペルシャ湾諸国は、これまで地域全体に数万人のアメリカ軍の駐留を認める基地協定を結んできましたが、今後は拒否する可能性を精査し始めたともいいます(*8)。

(*7)Middle East Eye(2024.4.13)
(*8)Tasnim News(2024.4.13)

 

イランの核開発が焦点となる

大川隆法・幸福の科学総裁は、イスラエル・アメリカvs. イランの戦争は、イランの核濃縮次第だとして2021年12月14日に開催されたエル・カンターレ祭で、こう警鐘を鳴らしていました。

 

イランも核兵器をつくるのを、急ぐのをやめてください。つくったらイラクと同じ運命が待っています。もうすぐです。だからやめてください。イスラエルとイランが核兵器持ったら、生き残るのはイスラエルです。イランはなくなります。だから、私の言葉を聞いて、踏みとどまってください。西洋化してください。民主化を入れてください。それが生き延びる道です!

 

イスラエルは、「敵国が核兵器を保有しようとしている場合には、イスラエルは先制攻撃によって核保有能力を破壊する」戦略であるベギン・ドクトリンという安全保障上の抑止戦略を有しています。

 

また大川総裁は、アメリカは民主党政権時代に戦争が起きやすいことを著書『法哲学入門』で、こう指摘しています。

 

民主党政権のときには弱腰で、宥和政策を採ることが多いので、相手を増長させ、その結果、相手が軍事的に大きくなってきて侵略などを始めるため、戦争になってしまうことが多いからです

 

今のところ限定的に行われている攻撃ですが、この戦争が大きな戦争になる可能性は否定できるものではありません。

 

 

クラウセヴィッツが説く偶発的エスカレーション

このことを理解する手がかりになるのが、クラウセヴィッツの『戦争論』です。

 

彼の「戦争は、政治目的を達成するための『手段』である」との言葉は有名です。そして彼は、戦争は理性や合理性を超え、それ自体が暴力や破壊そのものへと目的が転化しやすい。実際、戦争はやってみないと分からない面があり、勝てると思った戦いが大敗北に終わることもあり、「偶然性の賭け」という要素が出てくると述べています。

 

このような戦争の有り様から、クラウゼヴィッツは戦争の本質を「政策の手段」、「暴力行為」、「偶然性の賭け」という3つの要素の間でバランスを取ろうとするものだと示唆しました。

 

つまり戦争とは、当初に構想したような、計算されたスマートな作戦とは程遠くなるものであって、為政者が政治目的の手段として戦争を始めたとしても、そのコントロールは難しいため、予想外の事態が重なって、意図しない大戦争へと拡大してしまうことを恐れるべきだということになります。極めて危険な局面にさしかかっているのです。

 

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

 

【関連書籍】

 

小説 十字架の女(2)<復活編>

『小説 十字架の女(2)<復活編>』

大川隆法著 幸福の科学出版

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

 

 

メシアの法.jpg

『メシアの法』

大川隆法著 幸福の科学出版

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

 

 

【関連記事】

2021年12月15日付本欄 「未来を変えよ!」 世界を統べる眼で講演 ~エル・カンターレ祭 大講演会 「地球を包む愛」~

https://the-liberty.com/article/19043/

 

2024年4月19日本欄 イスラエルvs. イラン危機 米民主党政権時代には戦争が起きやすい【HSU河田成治氏寄稿】(Part 1)

https://the-liberty.com/article/21370/

 

2024年3月31日付本欄 フーシ派への攻撃では対応できない 本丸のイランに対処すべき【HSU河田成治氏寄稿】(Part 3)

https://the-liberty.com/article/21341/

 

2024年3月24日付本欄 フーシ派のミサイルが命中するようになってきた理由 対米戦に向けて準備を重ねるロシア、中国、イラン【HSU河田成治氏寄稿】(Part 2)

https://the-liberty.com/article/21329/

 

2024年3月17日付本欄 世界経済の鍵を握るイエメンのフーシ派 紅海での攻撃で東アジアとヨーロッパ間の輸送費は5倍に【HSU河田成治氏寄稿】(Part 1)

https://the-liberty.com/article/21298/

 

2024年3月10日付本欄 トランプ大統領の「NATO離脱」が米露冷戦構造を終わらせる【HSU河田成治氏寄稿】(Part 3)

https://the-liberty.com/article/21291/

 

2024年2月25日付本欄 ロシア-ウクライナ戦争は3年目に突入 今振り返る戦争勃発の背景【HSU河田成治氏寄稿】(Part 2)

https://the-liberty.com/article/21266/

 

2024年2月18日付本欄 トランプ氏の的を射たNATO批判 世界に平和をもたらすトランプ氏の再選【HSU河田成治氏寄稿】(Part 1)

https://the-liberty.com/article/21235/

 

2024年1月27日付本欄 ウクライナ情勢:戦況はロシア勝利に向かっている トランプ氏の復活なくして米軍は中国に専念できない(Part 3) 【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/21197/

 

2024年1月21日付本欄 米大統領選でトランプ氏勝利なら2024年末までに台湾有事が始まる可能性も(Part 2)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/21168/

 

2024年1月14日付本欄 台湾総統選 民進党・頼清徳氏が当選 中国は平和的統一を捨て去り、軍事的行動へのカウントダウンが始まる可能性も(Part 1) 【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/21159/

 

2023年12月3日付本欄 同時多発の戦火が連動し世界戦争の危機 イスラエル、ウクライナ、台湾情勢はどうなるのか? (Part 3) 【河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/21076/

 

2023年11月26日付本欄 同時多発の戦火が連動し世界戦争の危機 イスラエル、ウクライナ、台湾情勢はどうなるのか? (Part 2)【河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/21060/

 

2023年11月19日付本欄 同時多発の戦火が連動し世界戦争の危機 イスラエル、ウクライナ、台湾情勢はどうなるのか? (Part 1)【河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/21033/

 

2023年7月16日付本欄 ウクライナ戦争の長期化 アメリカは本当に台湾を守れるのか? (後編)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20756/

 

2023年7月9日付本欄 ウクライナ戦争の長期化 実はアメリカに「台湾有事」の備えがない? (前編)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20745/