《本記事のポイント》

  • 労働の供給不足と製造コストを上げる資源高でインフレが起きている
  • エネルギー価格高騰で最も打撃を被るのは低中所得者
  • 中間層の没落で「大衆」が出現

 

バイデン米大統領には、ウクライナ紛争で対露強硬策に出ることで、11月に行われる中間選挙に弾みをつけたいという狙いも見え隠れするが、事態はそう簡単ではなさそうだ。

 

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙による3月の世論調査では、現在の最重要問題にアメリカ国民の5割がインフレーションを挙げ、ウクライナ紛争の25%を上回っている。

 

アメリカの2月の消費者物価は40年ぶりの伸び率を記録し、国民を苦しめているからだ。

 

 

労働意欲を持つ者が減って供給が追い付かない

インフレは主に2つの要因から起きる。1つ目は需要が供給を上回ることによって、もう1つは原材料・製造コストが高くなることによってである。

 

1つ目の需給問題にかかわるのが人手不足の問題だ。

 

アメリカでは「名前を書けば即採用」されるほどの、人手不足に陥っている。その原因は、連邦・州政府の手厚い手当に味を占めた労働者の労働意欲が薄くなり、働くよりも失業手当をせしめようという魂胆を持った人が増えたからである。

 

失業者とは「職探しをしている人」のことであるため、働く意欲を失ったら失業者ではなくなる。そのためバイデン政権の現在の"失業率"は、トランプ政権末期の状態まで戻っている。だが現在の雇用者数は、トランプ政権時代より300万人少なくなっているという。

 

このからくりについて、レーガン氏とトランプ氏の経済顧問を務めたラッファー博士は弊誌の取材に対し、こう述べている。

 

「トランプは経済を成長させ、雇用機会を生み出し、低い失業率を達成しようとした。一方、バイデン大統領は、人々を労働力に引き入れるのではなく、人々を労働力から引き離すことによって、低い失業率を"つくり出した"のです」(『ザ・リバティ』2022年5月号 アーサー・ラッファー博士インタビュー最終回「トランプ減税の成果と日本への提言を語る」より)

 

バイデン政権のブレーンであるケインズ主義の経済学者たちは、失業手当などに政府が支出すれば、国内総生産(GDP)は上がると考えている。しかし働かない人が増えただけで、根本的な失業対策にはなっていない。

 

むしろ労働需給をひっ迫させて、インフレを招いているため、皮肉なことに支持率低下の主な原因となっている。バイデン政権は支持率回復に躍起になって、ウクライナ支援に熱を上げるが、そもそも経済政策の失敗から目を逸らすための施策の一環であることを忘れてはならない。

 

 

製造コストを上げる資源高

2つ目に製造コストを高める要因となっているのがエネルギーである。

 

アメリカではトランプ政権時代にシェールガスに対する規制が撤廃され、エネルギー自給国となったが、バイデン政権の脱炭素政策から平均日量が減っている。ガソリン価格が3月中旬には過去最高となったのに加えて、ウクライナ問題から国際原油価格が高騰し、インフレの原因となっている。

 

周知の通り、この問題はアメリカ以外でもエネルギー安全保障の見直しを促す大問題となっている。とりわけ深刻なのが欧州である。風力発電や太陽光発電などが電源の4割を占めるドイツやイギリスでは、風力の弱さから風力発電量が低下し、ガスへの依存が高まった。

 

イギリス政府は、4月から5割ほどガスの販売単価が上がると発表し、多くの家庭がガス価格の高騰に苦しむことになった。だがイギリスであっても、政府は2030年までに原発を最大8基新設することを発表し、資源高から政策の見直しに入っている。

 

 

エネルギー価格高騰で最も打撃を被るのは低中所得者

問題は、エネルギー価格が高騰すればするほど、低中所得層ほど打撃を受けることである。エネルギーや食料は価格が上がっても消費量を極端に減らせない生活必需品であるためだ。

 

とりわけエネルギー関連の4品目(電気代、ガス代、灯油代、ガソリン代)の値上がりは収入が低いほど負担感が増していく。年収が少ない人ほど物価上昇の煽りを受けることになるのだ。

 

昨年11月のバージニア州知事選で、バージニア州は民主党の地盤にもかかわらず、グレン・ヤンキン共和党候補が完全勝利を収めることができたのも、ガソリン価格の値上がりなど、経済という国民の生活に直結する論点で、国民に寄りそう選挙戦を展開できたからである。

 

 

売られ続ける円がインフレを加速させる

翻って日本に目を転じると、円安が加速していることも相まって、資源の輸入価格が高くなる見込みだ。

 

円安の下落率は、主要25通貨のなかでルーブルに次ぐものとなっている。直接的原因は、各国の中央銀行が金融引き締めに転じる中で、日銀が金融緩和を続ける意向を示したことにある。

 

しかし目を背けてはならないのが構造的な問題だ。エネルギーや食料の自給率の低さから、資源高で輸入額が増え、経常収支が悪化し、経済成長率の低い日本への魅力が減じ、日本円を回避する動きが始まっているのである。企業が海外に移転し、GDPに占める輸出の割合が下がった日本で、円安は有利に働かず、国難を招きかねない。

 

もとより日銀は年2%の物価上昇を目指してきた。だが今日本を襲い始めたのは「悪いインフレ」である。不景気であるが物価高で、賃上げが追い付かなければ、庶民の懐を直撃する。2%という名目上の数字を達成したところで意味はないのだが、日銀にその危機意識が薄いように見えるのも危険である。

 

 

中間層の没落で「大衆」が出現

だが本当に怖れるべきは、経済の没落とともに「大衆」が生み出されることである。

 

政治哲学者のハンナ・アレントは主著『全体主義の起源』において、第一次世界大戦でドイツが軍事的に敗北後、高インフレと失業が続く中で、「大衆」が急速に膨れ上がった、と記している。

 

民主主義は、政治的な責任を担い見識をもった市民がいて初めて成立する。責任を自覚するよりも、国に要求を突きつける「大衆」では、餌で魚を釣るように扇動されてしまう。

 

そんな「大衆」のメンタリティは、経済が没落する中で創り出されていったとアレントは喝破したのである。

 

古代から指摘されているように、民主主義が健全に機能するには、健全な良識を担保する中間層を没落させてはならないのである。

 

資源の輸入高によるインフレは、国民を貧困化する。加えて30年以上にわたり経済成長が見られない日本に対する信用は揺らぎ、円はもはや安全通貨と見なされなくなってきている。

 

こうした問題は、格差論に踊らされ分配偏重で大衆に媚を売る一方、原発再稼働など日本のエネルギー安保に手を打ってこなかった政治家の判断力の欠如から起きている。

 

猛省を迫られるのは既得権益層と化した政治家である。

 

中間層が没落し第二次大戦前にヒトラーに絡めとられていった「大衆」になるのか、あるいは良識のある中間層を維持できるのか、日本は瀬戸際にあると言える。

 

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