内容(「BOOK」データベースより)
京の料理茶屋「末広屋」に年季奉公にでることになった百姓の娘、お菊。寂しさと不安のなか、有名料理屋の息子の才次郎、その腰巾着の市松、武家の息子の小仲太、生真面目な又七ら同輩とともに、日々懸命に働く。お菊はやがて、又七と心を通わせるようになるが…。人生に立ちはだかる困難や失敗にめげず、未来に向かって真っ直ぐに生きる若者の姿が心を打つ傑作時代小説。
読書メーターでラスカルさんが以下のようにいう。〈ネタバレ〉と断っていることを承知してほしい。
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京の料理茶屋末広屋に年季奉公にでることになった百姓の娘、お菊。同じく奉公人の若者たちとともに仕事を覚えながら成長していく。なかでも、なにかと優しく接してくれる又七に惹かれるお菊。又七もお菊を好ましく思っていたが、店の跡取り娘と又七の縁談話が持ち上がり、お菊は諦めざるをえなくなる。男の人には板前として出世の道があるが、女は一生女中のまま働かなくてはならないのかと、少し気落ちしていたお菊だった……。
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最後まで紹介すると、読む楽しみがなくなるのでラスカルさんのコメントを2行削った。
又七とお菊は夫婦になるという展開であったら幸福だが小説としてはおもしろくない。けれどお菊みたいにいい娘に不幸になってほしくない、と読者のほとんどが感じるであろう。そんな折作者は絶好の展開を見せる。
そうかこういう道があったのかという話を用意して、お菊に橋を渡らせる。「もどり橋」というより踏み込めばひらける道なのだ。
澤田ふじ子の美意識は、京都と江戸時代にある。いわゆる封建時代である。今より個人の自由が少ない時代だがみんなが力を合わせて成り立つ共同体としての店を賛美する。おそらく終身雇用という安定した社会のしくみもよしとするだろう。。
本書も料理茶屋「末広屋」で働く人々が克明に描かれていて気持ちいい。働けばいいことがあるよ、という祈りのような結末がうれしい。