天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

小川軽舟は花をどう詠んだか

2023-04-04 05:38:34 | 俳句

国分寺市国分寺跡の桜


小川軽舟『俳句日記2014 掌をかざす』(ふらんす堂)から今ごろの句を取り上げる。
おととい小澤實『俳句日記2012 瓦礫抄』(ふらんす堂)の今ごろの句を見て、桜(花)を詠んだ句の多さに驚いた。それで鷹主宰の今ごろの句を調べた。彼もまた桜(花)をたくさん詠んでいて驚いた。このレベルの俳人は同じ季語を手を替え品を変え展開できるのである。

3月31日
退職金受け取るハンコ花曇
美意識の拘泥せず日常を書き止める。「二年間出向した会社に籍を移すことにした。銀行に入っていつの間にか三十年経っていた。」という句に添えた文章もたんたんとしている。

4月1日
糊かたき袖まくりたる四月かな
会社の食堂であろう。新社員のういういしさがある。

4月2日
青柳や雨仰ぎたる勝手口
単身の生活とみる。男の詠む「勝手口」、悪くない。

4月3日
桜咲く通帳に子の学資あり
御子息が大学に進学したとか。季語に桜を置いたことで、学資の心配はするなよ、という親心が出ている。

4月4日
小百姓苗字もらひし花見かな
「私の家に家系図はない。成田の三里塚あたりの農家の出らしい。三里塚の御料牧場は桜の名所だったそうだ。今は成田空港になっている。」と記している。花の句は長い年月で出尽くした感じがするが、百姓が苗字をもらって喜んでいるよいう発想には驚いた。

4月5日
花咲くや年々古き己が顔
「年々古き己が顔」というのはどうということのない措辞であるが「花咲くや」が来るとえらく哀感を漂わす。季語の使い方が巧みである。

4月6日
夕桜使ひて器ねびまさる
器は茶道具のことか。「ねびまさる」という奥行きのある日本語にうっとりする。

4月7日
掌中に鏡閉ぢたり花の昼
前の句と違いこれは現代、神戸の甲南女子大学の新入生とのこととか。「掌中に鏡閉ぢたり」と必要なことのみ言って余韻を読み手に託す。

4月8日
境内に幼稚園あり花祭
寺が経営する幼稚園である。花関連の句はむずかしいのだがこの場面に花祭をもってくるのは巧い。

4月9日
指差喚呼声を張るべし朝桜
ホームでの光景。元気のいい駅員が見える。この場合「朝桜」と特定したのがいい。

4月10日
パソコンを膝にひらけば桜散る
4月上旬の句にかくも桜が出てきたことに驚いた。桜(花)を状況によって使い分けている。

小澤實といい小川軽舟といい藤田湘子の高弟二人は、読み尽くされたと思われがちの桜(花)を使いこなしている。敬意を持たざるを得ない。二人は読みようによって桜はまだ詠む余地があると我々を叱咤しているように感じた。
コメント
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