天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

自衛隊が交戦する話

2018-09-12 05:43:25 | 


月村了衛『土漠の花 』 (2014/幻冬舎)。
本書の表紙は以下のように内容を紹介する。

ソマリアの国境付近で、墜落ヘリの捜索救助にあたっていた陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。その野営地に、氏族間抗争で命を狙われている女性が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕があがった。圧倒的な数的不利。武器も、土地鑑もない。通信手段も皆無。自然の猛威も牙を剥く。最悪の状況のなか、ついには仲間内での疑心暗鬼まで湧き起こる。なぜここまで激しく攻撃されるのか? なぜ救援が来ないのか? 自衛官は人を殺せるのか? 最注目の作家が、日本の眼前に迫りくる危機を活写しつつ謳いあげる壮大な人間讃歌。

見どころ1:逃げ込んだ女性はアスキラといい、勇猛果敢。クルマの運転は巧みだし銃を取って敵を倒す。容貌ついて作者はあえて言及しないが、ミラ・ジョヴォヴィッチふうの美貌とスタイルを彷彿とさせるのはうまい。

見どころ2:アスキラと友永曹長(新開曹長の死でリーダーを引き継ぐ)とのあえかな恋。壊れた家屋で富士と桜の写真を見て「一緒に見よう」などというセリフが渋くていい。

見どころ3:銃の名手ながら敵に発砲できず仲間を見殺しにし続ける津久田2曹の惰弱。敵を殺した手でどうして国へ帰って娘を抱けるのかという懊悩は身にしみる。けれど彼は変身する。

見どころ4:由利1曹と梶谷士長の協同作戦。梶谷は親友の高塚が由利らの陰湿ないじめにより自殺に追いやられたと思っている。梶谷が「絶対許せない」という由利と最後の作戦を敢行する。本書は自衛隊内部の、どの組織にもある表に出せない人間関係の暗部を見せたことで分厚くなった。

見どころ5:ハムシン(砂塵嵐を伴った乾燥した高温風)の恐怖。時速140キロにもなる風による砂嵐。プラス突如の豪雨でできた砂漠の濁流。過酷な自然がよく描かれている。「土漠」という言葉に重みがある。

冒険小説である。
Hajime Asakuraさんんが読書メーターでいう「ジェットコースターバトルノベル」という表現がぴったり。息もつかせず次を次をと読ませる。
dixtixさんが「土漠という舞台設定は単調な情景になると思いきや、遺跡があり、濁流があり、オアシスがあり、ゴーストタウンがある。ソマリアに行ったことがある人はほとんどいないでしょうが、情景がすぐに浮かんでくる。とんでもなくリアルなのに映画を見ているようなワクワク感がある、そんな作品です。」と興奮するのもわかる。

redmoveさんは「出来の良いアクション映画のよう。ただ、現実に照らし合わせるとこんな事起きて欲しくないが、実際のところどうなんだろう…。本作のように隠蔽なんて起きていない事を願うだけだが。」
と指摘するように、PK0に派遣された自衛隊員の戦闘行為はあっても何の不思議もなく、その隠蔽の可能性はありそうな気がした。
コメント
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