Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

チェーホフらしさ

2011-03-27 23:37:50 | 文学
チェーホフ生誕120周年記念(1980年)に作成されたパンフレットの中に、柳富子先生の小文が収められているのですが、簡潔且つ的確にチェーホフの特徴を捉えていて、うなった。ぼくはうなった。

チェーホフと類縁性のある日本作家を挙げた後で、「これらの作家に共通する特徴」として、柳先生は次のように書いています。「思想のあからさまな表明を嫌い、人間の生きざまを日常の視座から抑止のきいた文体で捉えている点である。しかも、日常の奥に危機意識を潜ませ、深渕を垣間みさせる」。これはまさにチェーホフの特徴に他なりません。

また、チェーホフ評価の変遷をやはり簡潔且つ的確に述べています。チェーホフの聡明さ、温かさ、誠実さ→一切の希望を殺す残酷な作家、難解なイメージ→前向きのチェーホフ→不条理の側面。というふうに。

なるほどなあ。こうしてみると、チェーホフというのは正反対の評価を包含している作家なのですねえ。分かってはいましたけれども(自分でそういう発表をしたこともあるのだが)、こうして改めて提示されると、「チェーホフ文学のもつ豊饒さ」にやはり嘆息しないわけにはいきません。

それにしても、こんなふうにチェーホフの特徴を把握すると、カーヴァーがなぜチェーホフ的と言われるのかがよく分かりますね。読後感はまるで違うものですが、確かにチェーホフ的だ。ベズモーズギスもそうなのかな。

チェーホフか。