一身二生 「65年の人生と、これからの20年の人生をべつの形で生きてみたい。」

「一身にして二生を経るが如く、一人にして両身あるが如し」

短歌賞 「一匙の海」柳澤美晴さん

2014年08月16日 | 文学者

厳しく律する心胸に

「浅井健一のように、シンプルに自分が面白いと思える歌を作っていきたい」と話す柳澤美晴さん

「浅井健一のように、シンプルに自分が面白いと思える歌を作っていきたい」と話す柳澤美晴さん

 「斎藤茂吉も塚本邦雄も31歳で歌集を出したとハッパを掛けられ、頑張った。本賞はベテランのものと思っていたので本当に驚きました」。歌歴11年。「未来短歌会」で岡井隆さんや加藤治郎さんに学び、2006年に連作「モノローグ」で未来賞、08年に同「硝子(がらす)のモビール」で歌壇賞を受賞。清新な叙情と卓抜な修辞で注目される若手だ。

 旭川市出身で、上川管内下川町の小学校で養護教諭を務めている。道教大在学中、講義で和歌の修辞の面白さに開眼し、好きな作家らが勧めていた塚本や春日井建を入り口に前衛短歌に触れた。ネットで知った短歌雑誌の企画への出詠を機に、札幌の日下淳さんの勉強会に参加。日下さんの勧めで「未来短歌会」に入り、研さんを積んできた。

 足取りは今風かつ順調に見えるが、「当初は臨時採用で道内を転々とした上、恋人もなく、短歌も半端で、展望がなかった。前衛とは厳しく自分を律する心。それなのに『実力を出してないだけ』と逃げていた」と言う。

 自分が本当に詠(うた)うべきことは何か。言葉遊びをやめ、避けていた職場詠や家族詠にも挑んだ。受賞作は、短歌への覚悟やみずみずしい相聞に、保健室から見た学校現場の痛み、父との葛藤が交じり、多面的な魅力を放つ。

 歌仲間で北大博士研究員の北辻千展(ちひろ)さん(塔短歌会)と昨年結婚。樋口智子さん、山田航さんら道内の新世代の歌人と「アークの会」を結成し、切磋琢磨(せっさたくま)する。「おとなしいが、根はアナーキー」と自己分析。ロックバンド「ブランキー・ジェット・シティ」の浅井健一さんの大ファンで、「ロックは反骨。塚本に通じると思うんです」と熱く語る。
「一匙の海」抄
定型は無人島かな 生き残りたくばみずから森を拓(ひら)けと
日々とは循環小数にしてうみにふるあわゆきのごとくきみとであわず
浅井健一に習作期なし炎天の獣舎に厚き氷を運ぶ
心臓が硝子の箱におさまっている感覚が消えない ずっと
前略と書きだす手紙 略すのは主に恋愛のことです父よ

柳澤 美晴(やなぎさわ みはる、1978年12月31日 - )は、歌人北海道旭川市出身。夫は、「」短歌会所属の歌人・北辻千展

北海道教育大学旭川校卒業。「学校で児童がほっとできる場をつくりたい」と養護教諭を志し、臨時採用の養護教諭として札幌小樽苫前などを転々とする。その後 本採用となり、小学校の養護教諭として勤務。

大学在学中に和歌の講義に熱中し、大学4年生で作歌を始める。 2001年未来短歌会に入会。岡井隆加藤治郎に師事。 2006年に作品「モノローグ」で未来賞を受賞。同年、作品「WATERFALL」で49回短歌研究新人賞次席入選。 2008年に作品「硝子モビール」で第19回歌壇賞受賞。 第一歌集『一匙(ひとさじ)の海』で2011年に第12回現代短歌新人賞および第26回北海道新聞短歌賞(当時最年少受賞)を、2012年に第56回現代歌人協会賞をそれぞれ受賞。

樋口智子山田航らとともに、同人誌『アークレポート』を発行している札幌の短歌勉強会「アークの会」の主要メンバーの一人。