『暴走パニック 大激突』(1976)
監督:深作欣二
銀行強盗の犯人の情婦のホステス役の
杉本美樹さんが薄幸の情婦役をとても
よい演技で演じている。
杉本さんは『温泉すっぽん芸者』
(1972)でもバイクに乗る芸者を好演
していた。
『赫い髪の女』(1979年/神代辰巳監督)
の宮下順子さんのような役どころ。
一方、『新・ハレンチ学園』(1971年)
で主役の柳生十兵衛みつ子を児島美ゆき
に代わって二代目十兵衛として演じた
渡辺やよいさん(当時18才)も本作では
婦人警官役で味のある演技をしている。
日本で女性で初めてコンドームのCMに
19才で出演した革命的女優さん。
当時の女優さんは、作品の中で乳を見せ
ることもいとわない。
『暴走パニック 大激突』では、杉本さん
ももろ肌脱いでの熱演をしている。
彼女の演技が迫真なので、観ていて辛く
なるほどだ。
自分が慕う銀行強盗渡瀬恒彦が自分を
捨てて海外に逃亡すると知って、自殺
未遂を計った女。
それを瀕死の場面で助ける主人公。
渡瀬恒彦さんの演技がまたすごくいい。
この映画、まるで原作が中上健次の
小説のように心をえぐるタッチの作品
となっている。
物語は、スナックに努めるバーテンダー
の渡瀬恒彦と工員の小林稔二の二人組
が全国で銀行強盗を続けるところから
始まる。
撮影は1975年だが、当時は実在の銀行
の名称がそのまま使用され、撮影もその
銀行で行なわれていた。
何度も成功し、ブラジルへの高飛びを
計画していた二人だが、第一勧銀を
襲撃して逃げる際、主人公の相棒の
小林稔二がバイクに跳ねられ、直後に
トラックに轢かれて即死してしまう。
それから、小林稔二の兄の極道に渡瀬
恒彦はつきまとわれて狙われる。理由
は、強奪した金をよこせ、というもの
だった。拳銃を突き付けられて。
渡瀬は、逃亡するが、かつて客に絡ま
れた時に助けた身持ちの悪いホステス
に慕われ、その女も主人公から離れ
ない。海外へ高飛びの前に立ち寄った
故郷(高知か)にまで女を連れて行っ
た。
やがて、逃走劇は、一度主人公を取り
逃がした好色な平警官の川谷拓三を
巻きこんでの車での追走劇となる。
それを発見した死んだ弟の兄の極道
(室田日出夫)もレッカー車で追跡
する。
途中、殺人事件を犯して逃亡していた
自動車整備工の若者が、殺した資産家
から盗んだ車に激突させた室田に驚き、
激怒しながら追跡に加わる。
4台での暴走チェイスの際に、警官
川谷は目の前に飛び出した殺人犯の
若者を跳ね飛ばして即死させる。
それを目撃した市民の主婦ややくざ
が「警察が人はねよった!」と警官
川谷の暴走パトカーを追跡しはじめる。
「あんなん許したらあかん。警察
から金取ったる」と言いながら。
二輪の暴走族がマスコミMHKの取材
を路上で受けていたが、警官川谷は
さらにバイクの若者一人をバイクごと
跳ね飛ばしてまた即死させる。
しかし、追走をやめない。
「おんどれぁ!どきさらせ!ゴルァ!」
と叫びながら警官川谷は銀行強盗を
追う。
二輪暴走族も即座にパトカーを追い
始める。
追走者たちが増え、とんでもない数の
車両が全員ぶつかり合いながら「どけ!
なにさらすんじゃ!ボケ!」と罵り
ながら大阪を爆走する状態になった。
必死に渡瀬たちは臨海沿岸部まで逃げて
来たが、機動隊が阻止線を張っていた。
それも激突突破して逃げる銀行強盗。
やがて埋め立て地では機動隊までもが
追走に加わり、暴走パニックの大激突
状態になる。
車両は何台も衝突し、横転し、爆発
し、死傷者が多発した。
追う警官川谷の車も乗り上げてストップ
するが、駆け付けた応援部隊のパトカー
を暴力で奪って追走を再開する。
すでに警官川谷は二人を即死させている。
取材中止命令を受けた温厚なアナウンサー
も取材中止にぶち切れて、取材バスを
乗っ取り、パトカーなどにぶつけながら
「どけ、どかんかい!」と激怒しながら
追走に加わっている。
埋め立て地は最後は消防車と救急車まで
追走に加わる極限大パニックとなった。
追走参加者は、逃げるは主人公と愛人の
二人、追うは拳銃を乱射した室田、人を
二人跳ね殺した警官川谷、一般警官の
パトカー数台、市民の車数台、ヤクザ
の車、消防車、救急車、マスコミ車、
駆け足の機動隊、駆け足の制服警官隊。
警官たちもが参加するまでの暴動状態
となった。
さて、主人公と愛人の二人は逃げられる
のだろうか。
という物語。
中半からは『俺たちに明日はない』と
『明日に向かって撃て』を合わせた
ような劇調になっている。
ただ、この映画、特徴がある。
かなりシリアスな描写で撮られている
のだが、人が人を殺したりすることを
何事もないように描いている。
これは深作監督が太平洋戦争で経験した
事による。
ごく普通の人間である仲間が人殺しを
し、そしてどんどん死んで行く。その
現場にいた。深作監督の心の中にある
のは、人の死の日常を映画で描き、
人の狂気と心の真実を生涯描き切る事
だった。
綺麗事の平和や博愛ではない、人の
真の姿を描く事に深作監督は生き残っ
てしまった自分の残りの生涯を捧げた。
この作品、かなり観応えがある。